樹徳vs高崎
千羽鶴と一緒に (樹徳)
“普通”の難しさ
2年連続準優勝の樹徳は、1、2回に3点を先制。先発のエース・堀江俊介も2回を7人で抑える順調な立ち上がりを見せていた。
ところが、3回に同点とされると、樹徳ナインの心に変化が現れ始める。4回に1点を勝ち越しても、それは変わらなかった。それを象徴するのが6回の守り。無死一、三塁で打席には184センチ、95キロと大柄な永井克弥。9回に両翼99メートルと広くなった上毛新聞敷島球場の右中間へ本塁打を放つパワーを持つ元四番に対し、樹徳内野陣は中間守備よりも前のオンラインに守った。1点をリードしているうえ、樹徳は後攻。乱打戦の展開を考えても、1点を守りにいく場面ではないのは明らかだ。
「併殺狙いで、当たりによってはホームに投げるという指示でした」(セカンド・高橋孔幸)
だが、その意図よりも守備位置は浅かった。
その直後、永井の当たりはセカンド後方への詰まったフライ。これがタイムリーテキサス安打となり同点。
一気に
高崎に流れが傾いた。永井のフライは通常の中間守備の位置なら楽々捕球できた当たり。「前進していたので距離感が違った。捕れたと思います」(高橋)と悔やんでも後の祭りだった。
4対7とリードを許した樹徳は7回1死二塁の場面。高橋がショートゴロで三塁を狙ってアウトになるもったいない走塁があった。序盤簡単にリードしたことで「リードして浮かれてました。心のどこかにいける、という油断があった」(高橋)。そのスキが逆転を許すきっかけとなり、リードされた後は焦りの原因となった。
一方の
高崎にとって惜しまれるのは8回の攻撃。2死満塁で打席にはこの日3安打の桑原拓紀という絶好の場面だったが、桑原は見逃し三振に倒れた。この日の桑原は左腕の堀江に対して徹底的に逆方向を意識した打撃。3安打は全て左方向へのものだった。だが、この打席は1、2球目とも内角直球を引っ張ってのファール。最後に見逃した外角直球は、明らかなボール球をストライクと判定されたものだが、それまでの逆方向への意識が消えていた分、バットが出なかった。
満塁で四番。ここで一本出れば試合が決まる。力の入る場面だ。不運な判定とはいえ、ここで四番が見逃し三振に倒れると、味方はガックリし、相手は勢いづく。樹徳ナインを「あれで流れが変わった。いけると思いました」(高橋)という気分にさせてしまった。
流れの変化はその裏の先頭打者に出る。エース・大竹侑希は四番の矢野雅樹に死球。ここまで得点した3、6回の裏はいずれも三者凡退。7回も先頭打者を許さずゼロに抑えていたが、ここではそうはいかなかった。嫌なムードは2死後、野手に伝染する。2死一塁から代打・宮澤の三遊間深い位置へのゴロを捕ったショートの山下耕平は二塁ではなく、一塁へ送球して内野安打にしてしまった。二塁は間に合うタイミングだったが、一塁走者は目に入っていなかった。アウトにしていればチェンジのはずが、ここから5連打を浴びて逆転。5連打目の一本は本多純平の3ラン本塁打で、ショック、ダメージともに倍増した感があった。
初戦の緊張、負けたら引退の夏の大会の重圧……。平常心を失わせる材料はいくらでもある。だからこそ、いつもどおりの“普通”が求められる。状況を事前に確認し、最低限何をするべきなのか、何だけは避けるべきなのかを頭に入れて、ミスを最小限にとどめる。完璧なプレーはできない。だが、準備や確認によって防げるミスはたくさんある。もったいないプレーが目立った両チーム。樹徳にとっては命拾い、
高崎にとっては勝ちを逃した悔やまれる試合だった。
(文=田尻 賢誉)
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高崎 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 | 1 | 8 | ||||||
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樹徳 | 1 | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 6 | X | 10 |
高崎:大竹、原田―諏訪 樹徳:堀江―廣瀬
本塁打=本多(樹)永井(高)