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2019年の山梨学院は小倉清一郎氏の指導でどう進化していったのか?

2019.02.12

 まずvol.1では山梨学院のメンタルの強さを支える長崎合宿について迫った。また今年の山梨学院横浜を超名門校に育て上げた小倉清一郎氏がコーチに就任している。昨年の秋季関東大会ではネット裏から厳しくも温かいエールを送りながら、選手たちを見守った小倉氏。さて小倉氏の就任によって山梨学院の選手たち、チームはどう変わっていったのかに迫りたい。

山梨学院「心身を急成長させる長崎合宿はいかにして成り立つのか?」

フォーメーション強化で守り勝てるチームへ

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アドバイスを聞く山梨学院の選手たち

 小倉氏の指導は8月末に実現した。かつて松坂大輔を筆頭に数多くの名選手を育て上げ、参謀役として横浜を超名門に育て上げた小倉氏の卓抜とした野球理論を知りたい!と全国の指導者が小倉氏に指導オファーを出した。山梨学院もその1つ。指導内容は非常に高度で、指摘は辛らつ。守備でも、打撃でも、小倉氏の厳しい声が飛んだ。

 「そんなことも知らないのか?」
 「そんな構えで打てるか?」
 ただそれでも選手たちにとっては新鮮な内容だった。小倉氏の指導で最も影響を受け、成長したのが内野守備だ。特にフォーメーションで学んだことが多いという。ここは二塁手の菅野秀斗に解説してもらおう。

 「1番驚いたのは、ランナー一塁の時、レフト線に打球がいって、打球がフェンスに着いたら、セカンドが三塁ベースまでベースカバーに走ります。そして、一塁手は二塁です。そしたら、サードとショートが中継に入るんです。それを聞いたときは『え!?』って思いましたね。思えば中学時代は簡単なフォーメーションだったんだなと思います」

 ただ高度なフォーメーションを教わっただけではない。中継の判断が簡単になるフォーメーションも学んだ。
 「ランナーが一、二塁の場面で左中間に打球が抜けたとき、ランナーがホームに間に合うか間に合わないかのタイミングの時にホームにつなぐかサードにつなぐかと言う場面で、今までは自分でランナーの動きを見てどっちにつなぐかを出していたのですが、今はサードがホームへ向かっての中継をするのか、サードにつなぐかの判断をしてくれていて、『こんなに簡単なのか』と思いました」

 二塁手は打球を追いながら中継のポジションに入るので、走者の動きが見られない。ただ三塁手は打球と走者の動きを俯瞰しながら見られる。三塁手の高垣広大は「確かに僕がやったほうが判断がしやすくなりましたし、中継もうまくいきました」と効果を実感する。

 主将で一塁手の相澤利俊はフォーメーションに直接な関わりがなくても、チームの命運にかかわる問題なので、二遊間のフォーメーションの決まり事については理解して、もしミスがあれば指摘するよう努めてきた。

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小倉氏のコーチ就任は新たな野球観を知ることが出来た

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実戦練習中の山梨学院の選手たち

 そうしてフォーメーション面で隙をなくし、さらに基本的な守備力アップに求めた。レギュラーの中で成長が見えたのは捕手・栗田勇雅、遊撃手・小吹 悠人の1年生だ。2人はいわきボーイズ出身で、小吹は投手で、栗田は捕手だった。まず先に起用されたのは栗田。起用した理由について吉田監督は「他にいなかったから」と語る。
 「記者の皆様がスーパー1年生と表現していただけるのはありがたいことですが、あくまでスーパーではなく、うちはバッテリーが厳しい状況で使わざるをえなかったというのが正直なところです」

 最初は指導者からリード面について叱られる毎日だったが、秋になると、リードでも安定感が増し、吉田監督から信頼されるようになったのは秋季関東大会。吉田監督は格上とみていた中央学院前橋育英を抑えたリード面を評価し、「長く使い続けたことで成長してきた」と評価した。

 また小吹は高校で本格的に遊撃手に専念した。新チーム当初の小吹の守備力は「最初は本当に下手で、大きな不安があった」と吉田監督は振り返るが、小倉氏の指導により着実に成長。吉田監督は「ものすごい上手いわけではないのですが、確実にさばくことができる。ピンチの場面でもアウトにできる守備力がある。これは本当に大きなことなんですよね。接戦でも勝ち抜けたのはアウトにしたい場面でアウトにできる守備力があったからなんですよね」

 吉田監督は今年の山梨学院について「今まで甲子園に勝ち進んだチームの中では根拠と呼べるものがない」というほど突出したものはないと語る。だが、いつでもアウトにできる確固たる守備力。傷口を広げないフォーメーション、場数を踏んだ1年生捕手・栗田の好リード。それがかみ合って関東大会ベスト4入りの要因となった。

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実戦練習でピッチングを見せた駒井祐亮投手

 投手陣では左腕の駒井 祐亮は軸足のひざの使い方を教わり、ストレートの球速も140キロ台にレベルアップ。速いクイックのやり方を学びながら、実戦力を向上させるなど、小倉氏の指導は投手力・守備力のレベルアップに大きく貢献したのだ。

 また打撃については反応は様々。4番・野村健太は「最初はすべてダメ出しされた」と振り返り、一時は不調にあえいだが、関東大会ではようやく自身にしっくりくる打撃フォームが完成し、2試合連続本塁打を記録した。

 2番・菅野秀斗は長打・巧打を兼ね備えた打撃が出来るようにしたいと小倉氏から打撃フォームを教わった。「正直いって合わなかった」とそこから自分が打ちやすいフォームを模索しながら、関東大会では12打数7安打と大当たりを見せた。小倉氏のアドバイスを受ける中で菅野は「自分の良さ、悪さが分かり、不調になった時、どうすれば修正できるかわかるようになり、不調の波は小さくできたと思います」と合わなくても自分の引き出しを広げることができた。

 小倉氏の指導がはまったパターンもあれば、上手く合わなかったケースもある。ただ山梨学院の選手達は今までにない野球観を知ることが出来た。吉田監督は「我々が勉強したい思いで小倉さんにお願いしたんですよ」という切実な思いで実現した小倉氏のコーチ就任は、2019年の山梨学院を語る上で欠かせないキーワードであり、大きな財産となっている。

 最終回ではセンバツ大会へ向けての課題点を聞いていきます!お楽しみに!!

(文・河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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