Interview

唐津商業の大砲が語る理想の捕手像とは 土井克也(唐津商)

2018.09.10

 第100回 全国高等学校野球選手権記念 佐賀大会 準々決勝、佐賀学園戦、どっしりとし、懐の広い構えから4回に右翼席へ8回には左翼席へ左右に豪快な本塁打を放った右の強打者、土井克也に話を聞いた。

 豪快な本塁打と書いたが、落ち着いた雰囲気で受け答えする土井に、ピッタシの言葉は「豪快」ではなく、「落ち着いて、周りを見られる選手」というワードだろう。そんな土井の魅力をインタビューを通して紐解いてみたい。

土井が追い求める理想の捕手像

唐津商業の大砲が語る理想の捕手像とは 土井克也(唐津商) | 高校野球ドットコム
ミットを構える土井克也(唐津商)

 土井は少年野球の時から捕手としてプレーしている。捕手の魅力について、土井は、言葉を選びながらこのように語った。「一人だけ全員を見れます。 キャッチャーのリードや配球で色々な違った展開が生まれてきます。大袈裟に言うと自分で試合が決まると言うか、そういう面白さはあります。後はバッターとの心理戦、次はここを狙ってくるんじゃないか、というようなおもしろさです。そういうのが魅力じゃないかなと思います。」そして、最後にこのように付け加えた。

 「守備の要と言うか1番どっしりしていてかっこいいなと思います」

 この言葉に、土井の理想の捕手像が詰まっている。落ち着いて、冷静に周りを見られるキャッチャーを目指しているのである。

 その証拠に、理想の捕手像について「やっぱりどんな場面でも迷わない。落ち着いていられるキャッチャーが凄いなあと思います。ピンチでも動じなくて 常に冷静な判断をして行っているキャッチャーというのが自分の理想です。こいつになら任せられる、そんな信頼されるキャッチャーが自分の理想です。」

 つまり、”どんなときでも冷静で、的確な状況判断を下せる、周りを見られる捕手”これが土井の目標なのである。そして、土井は確実にその目標に近づいている。

 土井の尊敬する吉富俊一監督は、土井について

 「周りが見える生徒でした。幼少期からそのように育ててもらったというのもあると思いますし、元々そういう資質もありました」と語る。

 周りからの評価こそが、土井の現在地を示している。土井はいま、理想像に向かって着実に歩んでいる。

常に冷静な判断をできるメンタルはどこから生まれるのか?

 吉富監督は、野球以外での取り組みの重要性を選手に説いている。
「学校生活でも周りが見えないというのは、やはり野球にも通じる。いろんなことに気づく、気遣いがないと、野球でも自分の事ばっかりになってしまう。また、自分のプレーだけじゃなくてその先も見て欲しい、そういうことは、学校生活で先を読んで計画立ててやることと通じる。言ったことだけでなく、何で言っているのかを考える。その場だけじゃなくてその先をちゃんと考えるようにすることは伝えています。彼(土井)は本当にプレイヤーとしてだけじゃなくて一人の高校生として、学校からも信頼・信望が置かれています。」

 この重要性を、もちろん土井は理解している。
「自分は、キャプテンという立場でもあったので、常に周りを見ながら、学校生活でも他の部員がちゃんとしてなかったら、ちゃんと言うように、そういうのはしていました。野球にとらわれず、学校生活も含めチーム全体を見るようにしていました。」

 土井の言う、“落ち着いて、冷静に周りを見られるキャッチャー”を作る、大事な要素に学校生活からの意識付けがあるのは容易に想像できる。

[page_break:学ぶことへの意欲]

学ぶことへの意欲

唐津商業の大砲が語る理想の捕手像とは 土井克也(唐津商) | 高校野球ドットコム
土井克也(唐津商)

 土井は、高校2年の夏に遊撃手として試合に出場している。遊撃手を経験させた理由を吉富監督はこのように語っている。

 「土井はずっとキャッチャーしかやったことがなかったので、初めはキャッチャーで行っても良かったと思ったんですけど、当時は1年上に良いキャッチャー(通山 正一・現吉備国際大学)もいましたのでショートをさせました。やっぱり違う視点で野球を見て、視野が広がったのかなとは思います。」

 土井もまた、この経験が価値あるものであったことを認めている。

 「一度ショートに行った時(吉富)先生から上体だけで投げていることが多かったと指摘されたのでしっかり足を使って下半身でボールを投げることを意識してやっていました、その事はキャッチャーの時にも活かされています。やっぱり一回ショートから(野球を)見られたのはプラスになっています。内野からの視点や、ピッチャーに対する声かけの仕方も全然違ってきますし、難しかったですけど勉強になりました。一個上の先輩(通山)キャッチャーの配球やリートとかも、自分がキャッチャーだったら、こういう配球をするとか見ながら、勉強させてもらいました。」

 コンバートの中でも、自分にプラスになる情報を貪欲に探している。

 「上手い人の行動とか態度とかを見て学んでいます 。もちろん分からないこともあるのですが、そういう時はしっかりと聞いています この人すごいなと思ったら、まずは見て学びました 。上手い選手のプレーを見て自分に取り入れました。」

 そう語る土井が頼もしく見えた。今の土井を形作っている大事な要素の一つに、「学ぶことへの意欲」があるのは間違いない。

土井のもう1つの魅力 「常に前向きな態度」

 守備位置をコンバートすることで、やる気をなくす選手もいるかもしれない。ただ、この変更をどのように理解するかは考え方と、その変更に対する対応で大きく異なる。吉富監督も、「土井の中で、(ポジションを変えることへの)もちろん悩みはあったと思うんです」と語っていた。ただ土井は、このポジションの変更を前向きにとらえ、貪欲に吸収する道を選んだ。ここに選手としてのポテンシャルを感じる。

 そんな姿に、吉富監督も「(土井は)チームのためと思って嫌とは一言も言わないでショートをしていました。」と評価している。

 チーム単位でも、この土井の前向きなリーダーシップがわかるエピソードがある。

 昨秋の大会でベスト8で破れた唐津商。その後冬の練習でパワーアップを図り、春に結果を残そうとしていたものの、練習試合でも思うような結果が出ずに、苦しい思いをした時期があった。

 土井も主将として、「チームをまとめると言うか、どうチームを統一して行けばいいのか、どう同じ方向に持って行けば良いのか、そこは、難しかったと言うより苦しかったですね。勝てない時期も選手のモチベーションがこのままじゃ無理なんじゃないかとか、そういった面では前を向いてやっていくことが大変でした。」と語っている。

 そんな中、土井は腐らずに、声を出し盛り上げ、プレーで引っ張っていけるように考えていた。この継続したアプローチは、春の大会に入ると実を結びだす。

 「大会期間中にどんどん成長していけたんではないかなと思います。」と土井が言うように、唐津商は、春の大会決勝まで勝ち進んでいる。

 夏の大会は、決勝で敗退したものの、吉富監督からは 「まとまったチームになったじゃないか」と言われた。土井は、諦めずに前向きな気持ちでアプローチすることで、最後の最後でチームをまとめている。これも土井の一貫した“前向きな態度” が実を結んだ結果だろう。

[page_break:チームに安心感を与える存在感]

チームに安心感を与える存在感

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土井克也(唐津商)

 土井の魅力の一つに、チームに安心感を与える存在感というのが上げられる。

 「ピンチとかでピッチャーや内野手とかが慌てていた感じの時に、みんなが不安にならないように言葉をかけています。」

 これは、土井が捕手として1年生の夏からすでに公式戦に出場し、十分な試合経験がある事や、周りを見られる気遣いができるというだけでなく、“選手に安心感を与えることを意識している”ことも大事な要素だ。

 この考えはチームだけでなく、バッテリー間でも一貫して持っている。

 「絶対に後ろにそらさない、どんな球が来ても前に止めてピッチャーに不安を与えないことを考えています。」

 この無形の力はチームに大きなプラス効果をもたらしている。

土井克也という選手

 土井を評価する言葉は
「周りを見られる」「冷静な判断ができる」「学ぶことへの姿勢」「前向きな態度」「チームへの安心感」 こんな言葉がふさわしいのが分かってもらえただろう。ただ、一言で言うなら“いい男”なのである。

 いい男は、インタビュー中 「まだまだですが」 と謙遜しながらも、自分の現在地や今後の目標を冷静に話してくれた。「まだまだ」と言いながらも、常に結果として目標を達成してきているのを見ると、土井の「まだまだです」は、「今、目標を達成する途中ですが、必ず目標を達成します」という意味なのだろう。

 夏の佐賀大会、決勝で破れた土井は「この負けを次につなげて行かないと、一緒に戦った仲間にも申し訳ない。ちゃんとこの経験を活かしていこうと思います」と語った。土井はすでに次のステージを見つめている。今後どんな成長曲線を描くのか、楽しみが尽きない。

 「まだまだです」と言いながら、球界一の捕手になっている、そんな事を期待させてくれる選手だ。

取材=田中 実

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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