木更津総合vs市立船橋
今年の木更津総合ナインはまさに「根気強い」 5試合目の1点差勝利で千葉を制する
千葉大会の組み合わせが決まったとき、木更津総合はとても苦しい組み合わせになってしまったと感じた。いきなり伝統校・銚子商を破った、試合巧者・柏南と対戦することになり2対1の辛勝。その後もコールド勝ちが1試合のみ。5回戦以降、すべてエース・早川隆久が投げざるを得ない相手と対戦することになった。
5回戦は昨夏優勝の専大松戸、準々決勝は東海大市原望洋、準決勝は千葉経大附と夏の甲子園出場経験のある強豪相手に控え投手を投げさせる余裕は全くなかった。そして打線もなかなか状態が上がらず、相手チームを突き放すまでに至らない。まさに1点を守り抜く野球を見せてきたのだ。そして決勝戦の相手は9年ぶりの甲子園出場を狙う市立船橋。ここまで継投策で勝ち上がってきた市立船橋と比べると、不利な面がある。しかし早川はまた、強い投球を見せてくれたのだ。
早川は疲れがあっても、135キロ前後の速球を正確無比にコントロールできていたのだ。ストライク先行で投球を組み立てていた。市立船橋にとっては驚きだっただろう。1回裏、三者凡退に抑えたのである。試合は2回表に動いた。2四死球でチャンスを作った木更津総合は二死二、三塁となって、9番大澤翔を迎えた。大澤は専大松戸戦で本塁打、東海大市原望洋戦で先制のきっかけとなる三塁打、千葉経大附戦でも反撃となる安打を放っており、侮れない存在だった。そして大澤はストレートを捉えて左越え適時二塁打で2点を先制する。
先制劇で焦ったのか、市立船橋は初球からあっさりと打ちに行く。4回裏にはわずか3球で三者凡退。それができたのは、ヒットにするには厳しいゾーンへ投げ込んでいたというのもある。連投の中でも、ストライク先行で追い込んで、自分にとって優位な持ち込むピッチングができる早川には驚かされる。
そして5回裏には二死二、三塁のピンチを切り抜け、相変わらずピンチでの粘り強さを見せていた。しかし6回裏、2本の安打、死球で一死満塁のピンチを迎えてしまう。ここで7番高田悠太(3年)にフルカウントから、低めのストレートをはじき返され、中前適時打。これで二者生還し、同点を許すが、木更津総合が素晴らしかったのは、三塁に向かっていた一塁走者をアウトにしたこと。これが大きなファインプレーとなった。
木更津総合はこういう要所での守りが素晴らしい。 木更津総合はエース早川の快投が語られるが、木更津総合の失点の少なさは間違いなく、抜け目のない守備にあると実感させられた。
市立船橋も必死の継投でしのぐ。先発の鍵本章太(3年)は、2回途中で降板したが、コンパクトなテークバックから振り下ろす直球は130キロ~138キロを計測。120キロ前後のスライダーの切れも良い。直球の勢いは良かったが、決勝戦の緊張からか、制球を乱して先制点を許してしまったが、レベルは高かった。2番手・八幡 悠耶は制球重視の投球で、130キロ前半の速球、スライダー、カーブを丁寧に投げ分ける投球。昨秋と比べると実戦度が上がっている。そして7回以降に登板した渕上泰樹(2年)はコンスタントに135キロ~140キロを計測。前の2人と比べていてもストレートの球威が違う。これは木更津総合打線も厳しいかと思われた。
同点を許した早川も気を取り直して、7,8回を抑えて、いよいよ9回表に入った。9回表、先頭の細田 悠貴が中前安打で出塁。その後、二死三塁となって、再び9番大澤に打席が回った。大澤は詰まりながらもライトの前へ落ちるポテン安打となり、勝ち越しに成功した。大澤はこれで3打点目。大澤は巧みなインサイドワーク、安定したスローイング、力負けしないキャッチング、観察力の高さが光るプレースタイルと、守備力の高さは際立っているが、ここにきて打撃力の成長が目覚ましいだろう。やや弧を描くスイング軌道で、調子が悪いと、ヘッドが下がったスイングになりやすいが、この夏の大澤は上手くボールの軌道に合っている。さらに強くボールを叩けるようになったのが、成長点といえるだろう。
そして9回裏、早川が1人走者を出したが、最後の打者を遊ゴロに打ち取り、試合終了。その瞬間、3年ぶり5回目の夏の甲子園出場が決まり、選手たちはマウンド上で歓喜の渦となった。
今年の木更津総合ナインを一言で表すと、「根気強い」に尽きる。7試合中、1点差ゲームが5試合。1点差になったゲームはすべて早川が投げて完投しているのだ。それでも勝てたのは、早川の投球だけではなく、盤石な守備、ここ一番で点をもぎ取れる勝負強さ、走塁技術の高さと、ここ数年のチームと比較しても数段高い。1点差をモノにできるのはそういうところにあるかもしれない。欲を言えば、もっと豪打を期待したいところだろう。しかしうまくいかない時にどれだけ勝てる野球ができるか。そういう意味で、木更津総合はやはり強いチームだった。敗れた市立船橋は良い意味でしつこいチームだった。今年の春とはまさに別人。選手層も厚く、市立船橋もまた、甲子園に送り出したいと思えるチームだった。
5試合完投した早川隆久。ここ数年の千葉県においても、いや21世紀入っても、彼ほどの左腕はいないのではないだろうか。秀岳館戦であと一歩で敗れ、甲子園を去った早川。その忘れ物を取り返すために、3度目の甲子園のマウンドを踏む。
(文=河嶋 宗一)
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