鳴門vs高知商
津村佑一朗(高知商)
「チームを背負う」ということ
観客と現場の感情はともすると対になるもの。これが勝者と敗者を分けるスポーツとなればなおさら。その例に漏れず試合後、球場外へ現れた高知商業・正木陽監督の足取りと言葉は鉛を背負っているかのように重かった。
「ええ流れだったのに、あそこで打たれては。気持ちで上回って打ち取らんといかん」
高知商業にとって9回表二死までは最高の展開だった。先発・植元幸輝(3年)は丁寧に低めを突く、自分の特徴を心得たピッチングで6回まで無失点。7回表二死二塁から「前半は秋までの状態だったが、後半からボールが行きだした」(森脇稔監督)鳴門先発・板東湧梧(3年)に浴びた二塁打も中堅手正面の打球がスリップしたものであり、夏への大きな自信としてよい快投だ。
8回から2番手マウンドに立った昨秋までのエース・津村佑一朗(3年)も全体的には合格点を与えられる。右肩痛で春の高知県大会のメンバーから外れた影響もあり、最速143キロのストレートは130キロ台前半止まり。ただその反面、以前まで出所が解りやすかった投球フォームは見事に修正されており、ストレートを得意とする鳴門打線ですら軒並み振り遅れを招いていた。これも夏に向けての収穫だろう。
ただ、それすらかすんでしまうようなダメージを高知商業は同時に抱えてしまった。問題のシーンは8回裏に津村が逆転2点打を放って迎えた9回二死無走者から。7番・松本高徳(三塁手・3年)が三塁打。続く板東が死球。9番・甲本裕次郎(中堅手・3年)を迎えた二死一・三塁でのことである。
板東湧梧(鳴門)
津村佑一朗・山川健太(3年主将)のバッテリーが選択したストレート勝負は決して間違いではない。1ボール2ストライク後、4球続けてのファウルは全てストレート。壁を越える選択肢としては大いに「あり」だろう。よって指揮官が指摘したのは球種ではない。コースである。彼らの選択はインコースではなく、アウトコース一辺倒だったのだ。
昨秋四国大会準決勝で安樂智大(済美2年)のアウトコースストレートを打ち崩した彼らが、そこを見逃すはずはない。8球目の打球は三塁手の横を鋭く抜け、起死回生の同点打に。「ストレートばかりで助かった」甲本裕次郎の殊勲打コメントの上には「アウトコースの」が当然含まれている。
「甲子園がかかっていないのだから、もっと気楽に投げないと。夏は板東くんくらいチームを背負えないといけないのに・・・」。選手たちの頑張りは認めながらも相手との能力差を埋めるタフさの不足を嘆く正木監督。10回表、3番手・成田泰斗(3年)が守備の乱れから失った3点はこの流れを見ればもはや必然であった。
高校野球人口が減る中にあっても100人前後の部員を抱え、高知、明徳義塾、土佐に追随する県内4強の一角を確固たるものとしている高知商業。だが、2006年夏以来甲子園から遠ざかっていることもまた事実である。
もし彼らが23度目の夏甲子園を本気で掴み取ろうとするならば、「4月27日の練習試合でアウトコースを打たれたので、今回はインコースを打たれても攻めるようにリードした」(日下大輝・3年)鳴門バッテリーが明示した「チームの背負い方」を今一度、体得する必要がある。
(文=寺下友徳)