試合レポート

山村学園vs立教新座

2019.07.22

極端な内野シフトを敷く立教新座とそれを掻い潜った山村学園

 今春関東大会ベスト4に進出した和田朋也(3年)を擁するBシード・山村学園対昨秋県ベスト4の[team]立教新座[/team]との一戦、毎年必ず練習試合も行うという勝手知ったる両者の一戦は、ハイレベルな守備戦術の攻防となった。

 山村学園は、今春3位決定戦や関東大会でのスタメンや打順と基本ほぼ同じだが、この日は前の試合から4番に橋本大樹(3年)が復帰し、益子宏斗(3年)に代え6番・レフトに髙野(2年)が入る。一方の立教新座だが、昨秋からスタメンの顔ぶれはほぼ一緒だが、打順は4番・吉澤祐人(2年)、5番・藤井達也(3年)以外は全員入れ替わっており、守備位置もかなり変わっている。そして、この日は6番サードに山本大介(3年)が入る。

 先発は、立教新座がエース木村龍史(3年)、一方の山村学園は、前の試合打球を受けた影響もあったか、エース和田ではなく、1年生の小泉裕貴が登板し試合が始まる。

 この試合、まず守備で仕掛けたのは立教新座であった。ランナーがいない時が多かったが、特に、2番・横田修大(3年)、3番・小林匠(3年)、5番・櫻澤一哉(3年)を迎え、おそらく打球方向の傾向分析が済んでいたのであろう。内野はまるでメジャーのように引っ張ること前提で、極端な守備位置を取る。右打者はセカンド(左打者の時はショート)がセカンドベースの後ろに入り、ショートは三遊間を締め、ファーストは定位置、サードはラインを締め(左打者の時はその反対)、外野はべた引きをする。ただ、だからと言って投球がインコース一辺倒になる訳ではなく、フラットな投球内容であった。

 だが、山村学園は、初回からそのシフトを覆しにかかる。いきなり先頭の平野裕亮(2年)がセンターへ大飛球を放つ。これはセンターのファインプレーに遭いアウトとなるが、続く横田はクローズドスタンスから、まるでシフトを嘲笑うかのように、本来ショートの定位置である、誰もいない位置にゴロのヒットを放ち出塁する。3番・小林がきっちりと送り二死二塁とするが、後続が倒れ無得点に終わる。

 先制したのは立教新座であった。

 2回表、この回先頭の吉澤が四球で出塁すると、続く藤井がきっちりと送り一死二塁とする。ここで6番・山本はサードゴロに倒れるが、サードが悪送球を放り一死二、三塁とチャンスが広がる。二死後、8番・茂木遥斗(3年)がセンター前タイムリーを放ち先制するが、二走・山本はセンターからのダイレクトストライク返球により、本塁憤死し1点でこの回の攻撃を終える。

 この場面センター平野の返球はもちろん素晴らしかったのだが、一つトリックプレーがあった。キャッチャー橋本は直前まで棒立ちでミットも構えず、まるで返球が来ないような素振りを見せていた。それもあり、二走・山本は楽々セーフと思ったのか、スライディングをするタイミングが遅れスライディングをしなかった。もちろん、ちゃんと次打者のアクションを見ない走者にも非はあるが、回り込んでスライディングをすればセーフの可能性もゼロではなかっただけに、橋本の見事なトリックプレーが光った。

 山村学園の反撃は3回裏であった。

 一死から、1番・平野がショートの右を破るヒットで、一気に二塁を陥れる好走塁を見せ、一死二塁とチャンスメイクに成功する。二死後、3番・小林に対し、立教新座内野陣は前述のシフトを敷くが、小林はそれを嘲笑うかのように、本来ショート定位置付近へのゴロを放つと、これがセンター前タイムリーとなり1対1の同点とする。

 同点とされた立教新座は5回表、一死から6番・植野遼太郎(2年)が死球で出塁すると、続く茂木の所で立教新座ベンチはエンドランを仕掛ける。茂木は期待に応えライト前ヒットを放ち、一死一、三塁とチャンスを広げ、エース和田を引きずり出すことに成功する。押せ押せの立教新座は和田の代わり端ということもあり、一走・茂木が牽制球にわざと飛び出し、ダブルスチールを仕掛ける。だが、和田と同時に交代で入ったファースト益子が誘いに乗らず、リードの大きい三走・植野は刺されてしまう。それでも、9番・木村が四球を選び、再度二死一、二塁とチャンスを迎えるが、後続が倒れ無得点に終わる。


 試合が動いたのは7回裏であった。

 山村学園はこの回先頭の益子が四球を選び出塁すると、続く和田はきっちりと送り、一死二塁と勝ち越しのチャンスを迎える。ここで9番・川島優(3年)はピッチャーゴロに倒れるが、ピッチャーが一塁へ悪送球を放り、その間に二走・益子が生還し、山村学園はラッキーな形で1点を勝ち越す。さらにボールが転々とする間に、打者走者・川島は一気に三塁を陥れ、一死三塁とする。立教新座ベンチはたまらず、木村からマウンドを2番手・ハント丈(2年)へ譲ったのだが、山村学園ベンチはハントの代わり端、初球にスクイズの指示を出す。これを1番・平野が見事に決め3対1とする。

 2点を追う立教新座も8回表、すぐに反撃を開始する。

 二死から3番・佐々木悠星(3年)がセンター前ヒットを放ち出塁すると、続く吉澤のセカンドゴロがエラーとなり一死一、二塁とチャンスが広がる。ここで5番・藤井が三塁線を破るタイムリー二塁打を放ち、1点を返す。さらに二死二、三塁と今度は一打逆転のチャンスを迎えるが、後続が倒れ万事休す。

 結局、最終回も山村学園・和田が立教新座打線を無失点に抑え、3対2で粘る立教新座を振り切り5回戦へ駒を進めた。

 まずは立教新座であるが、6月に大敗した山村学園相手に接戦に持ち込んだ。その要因はエース木村の好投であろう。木村は怪我で今春は投げられず、戻ってきたのが6月だが、ギリギリ間に合わせ、この日緩いカーブをうまく使いながら、持ち味である緩急で、終盤まで強打の山村学園打線に対し1点に抑えていた。7回の悪送球は残念であったが、決して責められない。ベストピッチだったのではなかろうか。今日の問題はむしろ打線であろう。和田が出てくる前に、小泉を捉えたかった。2回表や和田の代わり端である5回表どちらかのチャンスでもう1点欲しかった。幸い、ハントや吉澤など投打の柱が残るだけに、この日の悔しさを新チームで生かしてもらいたい。

 一方の山村学園だが、この日はヒヤリとさせられる戦いであった。相手も6月大敗したこともあったか、大胆な守備シフトを仕掛けてきたが、それに対し、野手がいない所へきっちりと打ち返す見事な対応力はさすがだ。5回表のピンチでも、一死一、三塁で代わり端ダブルスチールを仕掛けてくることを予感したエース和田と、一走を無視してリードの大きくなった三走をきっちりと刺したファースト・益子の落ち着きも見事であった。
 この落ち着きは、和田に関していえば1年夏から経験、その他の選手もおそらく今春の関東大会で得た自信や経験が大きい。相変わらず送りバントが多いのは気にはなるが、投手交代や、スクイズなどベンチの采配は冴えている。しかも今大会は和田に無理をさせていないことは今後を考えると大きい。今春から小泉など他の投手を起用し続けたことが、ここへ来てプラスに働いている。これまでは対戦相手も和田対策を立てれば良かったが今はそうはいかない。非常にチームとしての経験値が上がり、負けにくいチームになっていることは間違いないであろう。

(文=南 英博

2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会
■開催期間:2019年7月10~7月28日(予定)
■組み合わせ表【2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会】
■展望コラム【今年の埼玉は大混戦!シード校の戦力とシードを脅かすノーシードを徹底紹介!】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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