試合レポート

智辯和歌山vs粉河

2012.07.25

打線の爆発力

それまで奮闘していた粉河のエース若林昭仁(3年)に代打が送られた時、ふと粉河ブルペンが気になった。
 とても、智弁和歌山打線を抑えられるようには思えなかったからだ。

 試合は決してしまったんじゃないか、と。
 だが、その矢先、それまで沈黙していた粉河打線がつながる。若林の代打・竹田裕一(3年)がライト前安打を放つと、続く9番辻本真典(3年)のところでエンドランを成功させ、一死一、三塁。1番東雅彰(3年)は四球で歩き、一死満塁、本塁打が出れば、同点と攻め立てたのだ。
そして、ここで藤根太樹(3年)の初球にスクイズを成功させて1点。さらに、3番鹿谷翼(3年)の2球目に智弁和歌山バッテリーにミスが出て1点を追加。鹿谷は四球で歩くと、4番乾涼貴(3年)がレフト前へタイムリー、その差を1点としたのである。

「取れる時にとっておかへんからそういう展開になる」と智弁和歌山の高嶋仁監督の嘆きは的を射ている。それまで、4点リードしていたとはいえ、この日の智弁和歌山打線はつながりが悪かった。先制点にしても、無死二、三塁と上手くチャンスを作りながら、6番中谷優希(3年)のショートゴロの間によるもので1点止まりだった。2点目にしても、一死一、三塁からの投手ゴロの送球間。相手の緩慢な守備をついての中谷の好走塁だった。

高嶋監督は続ける。

「取れるところで取らないからリズムが悪くなる。投手はビビってもうて、終盤に腕が振れなくなって、ファーボールを出してしまう。ストライクを取りに行って打たれる。全部つながっとるんですよ」
取られるべくして取られた3点だった。同点に追いつかれなかっただけ、まだ良かったというものだ。
両者の力量にさがあったとはいえ、こういう展開に旧チームからのレギュラーだった嶌直広(3年)も沼倉健太(3年)も、「さすがにヤバイかなと思った」と口をそろえている。

だが、エース若林に代打を送っていた粉河にすれば、全ての駒を使いつくしていた感があったのもまた事実である。
それは、9回表、智弁和歌山の先頭・沼倉がライトスタンドにアーチを掛けると、一気に拍車がかかる。

続く1番・嶌がセンターへの二塁打で出塁すると、2番・坂本将太(2年)がセンター前ヒットで続く。3番・大島卓也(2年)が四球で歩き満塁。ここで4番天野康大(2年)がセンターへタイムリーを放ち、二者が生還。相手のエラーもあって、さらに、一塁走者もホームを駆け抜けた。5番・山口将太が四球、6番・片山翔太(1年)のライト前ヒットでさらに好機を作ると、7番、途中出場の川崎晃佑(3年)の犠牲フライで1点。沼倉、嶌が四球で歩いた後、2番・坂本が走者一掃のタイムリー三塁打を放ち、この回一気に9点を奪った。


まさに
智弁和歌山打線ここにありというような爆発力で一気に試合を決めたのである。

ここまでの勝ち上がり、あるいは、この日のここまで試合展開とはまるで違う智弁和歌山打線の脅威を見るような打線のつながりだった。

 智弁和歌山は、以前から、高嶋監督の方針で夏の大会序盤は調整練習をしない。だから、疲労が残ったまま大会に入る分、打線の調子が上がってくるのに時間がかかる。
「それを差し引いても、もっと打たなアカン」と林守部長いうほど、今年のチームは不振にあえいでいた。
「2つのケースがあるんですよ。大会に入って、ちょっとして上がってくるチームと、なかなか上がって来ないチームと。天候の関係もあったりするし、去年は台風で体を休めて一気に、良くなった。今年は1番の嶌は振れとるんやけど、クリーンアップがね…3番がまだ本調子じゃないから、あと3日で何とかしたい」 と高嶋監督は語る。

 9点は確かに智弁和歌山らしいと言えば、らしい。とはいえ、エースを替え、手を出しつくしていた相手の力量からすれば、ありえた結果と思えなくもない。
高嶋監督はまるで自身、あるいは、調子の上がらない選手たちに諭すかのようにこう語った。

「確かに、相手のピッチャーとの関係はあります。けどね、精神的な面で言えばスカッと次に迎えるかなと思います。バッティングと言うのは感覚的なものですからね、どんなピッチャーでも、打てたというのは次につながるもなんです」

本塁打を打った沼倉は「練習ではいい感じなんです。これでふつうに打てる」と言った。嶌は「自分が出ても、クリーアップのところで止まってしまう。2年生なんでプレッシャーもあるし、仕方がないんですけど、それを乗り越えるのがクリーンアップだと思う。そろそろ慣れてほしい」と不調の打線に奮起を呼び掛けた。

1イニング9得点。
スコアに表示された数字を見ると、やはり、智弁和歌山らしいなという想いはする。
それは、高嶋監督がいうよう、どんなピッチャーであれ、関係はないのだ。
智弁和歌山打線は覚醒したのか――。
次戦の準決勝、智弁和歌山打線の真価が明らかになる。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.16

【宮城】仙台一、東北、柴田、東陵がコールド発進<春季県大会>

2024.05.16

涙の甲子園デビューから大きくレベルアップ!前橋商の192センチの剛腕・清水大暉は、高速スプリットで群馬県大会19回1失点、22奪三振の快投!<高校野球ドットコム注目選手ファイル・ コム注>

2024.05.16

【2024年春季地区大会最新状況】全道大会は出場校決定、関東と東海は18日に開幕

2024.05.16

【秋田】夏のシードをかけた3回戦がスタート、16日は大館鳳鳴などが挑む<春季大会>

2024.05.16

U-18代表候補・西尾海純(長崎日大)、甲子園で活躍する幼馴染にむき出しのライバル心「髙尾響には負けたくない」

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.14

大阪体育大の新入生に兵庫大会8強の145キロ右腕、金光大阪の1番センター、近大附の4番打者など関西地区の主力が入部!

2024.05.16

【宮城】仙台一、東北、柴田、東陵がコールド発進<春季県大会>

2024.05.12

学法石川の好捕手・大栄利哉が交流戦で復帰! 実力は攻守ともに世代トップクラス!身長200センチ右腕を攻略し、完封勝利!

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?