試合レポート

栃木工vs栃木商

2011.07.10

栃木工vs栃木商 | 高校野球ドットコム

歓喜の栃木工ナイン

熱闘の栃木ダービーは非情な結末が待っていた

 この日から、ほとんどの地区で一斉に夏の甲子園を目指す戦いが始まった。
栃木大会もこの日から始まったが、はからずも栃木市営球場のオープニングゲームは、栃木市内6校のうちの2校が対決するという栃木ダービーとなった。
しかも、工業と商業で、どちらも好投手を擁しており、ロースコアの戦いが予想された。

栃木工の日向野久男監督は、「お互いに同地区で、頑張っていこうとしのぎを削っている相手ですから、出来ることなら二つか三つ勝ってから当たりたかった」というのが本音であろう。
それが、よりによって開幕試合である。どこまで気持ちを落ち着かせて、平常心で臨むことが出来るのか、まずはそこから始まった。

ところが、やはり初戦の硬さもあったのだろう。お互いが先頭打者に対して四球を与えてしまったが、栃木工の川井君はその後を何とか抑えた。
栃木商の塩田君は盗塁を許し、バントと犠飛で1点を失った。ただ、2回以降は両投手が持ち味を発揮して、予想通りの好投手戦となった。
初回の攻防とは、まったく別の試合を見ているかのような錯覚に陥るくらいに、両投手のリズムがよくなった。

こうなってくると、次の1点がどのような形でどちらに入るのかということが、試合の流れとしても大きく左右すると思っていたのだが、それが7回、栃木商に入った。しかも、栃木商は、1死一三塁でスクイズを失敗して、三塁走者が噴死。それでも、一塁走者の塩田君が三塁へ進んでいたことが功を奏し、八番青木君がしぶとく中前へはじき返して、同点とした。

試合は振り出しに戻り、勢いはむしろ、栃木商にあるのではないかという感じになった。
栃木工としては9回に一番生井君からの打順だったので、ここで一気にサヨナラへ持っていきたいところだったが、結局3者凡退。もしかしたら、長い延長戦になるかもしれないなというような展開だった。


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悔しい、栃木商

 それが、思わぬ形で決着が10回でついてしまった。
表の攻撃を3者凡退で退けた栃木工はその裏、四番田村君が死球で出塁。勝負を賭けたい日向野監督はここで代走鈴木雄君を起用。

大栗君がバントで送ると、六番手塚(勝紀)君はフルカウントからやや詰まり気味の三塁ゴロとなったが、それが却って捕り難くしたのか若干ファンブル。
それでも、一塁には間にあったかと思われたが、一瞬一塁手がベースに届かなかった。
好スタートを切っていた、二塁走者の鈴木雄君は迷うことなく本塁まで走って最後はヘッドスライディング。サヨナラゲームとなった。

熱戦の幕切れは、迷いに迷った野球の神様が下した結論としては、あまりに非常なものとなってしまった。
号泣する栃木商選手たちと歓喜の栃木工選手とのコントラストは、見ている側にしてもいささか酷だった。
ただ、それが勝負なのだ。そんなことも改めて実感した試合だった。

石巻出身で、実家はあの震災ですべて流されてしまったという栃木商の梶木英彦監督は、試合をこう振り返った。
「こういう、厳しい試合になることは思っていた通りでした。ただ、もう少し打てれば…、という気持ちは正直ありました。それでも、当初から8人しかいなかった三年生たちは、主将の手塚(辰徳)を中心によくまとまってくれて、一人も欠けることなく、よく頑張ってくれました。最後になって、不安視していたことが出てしまいましたが…、それでも、いい試合はできたと思います」と、選手たちをねぎらっていた。
自身も、震災以来、実家のことも含めて気苦労が多かったであろうが、そのことはおくびにも出さず、ひたすら戦った選手たちを称える姿勢に敬意を表したいと思った。

昨夏のベスト4で、この夏はさらに上を目指したい栃木工の日向野監督は、何はともあれ初戦を突破したことに安堵しながら語った。
「やはり、初戦の硬さが出てしまったところはあったかもしれません。(7回の失点など)こちらも、ミスがあったのですが、結果としては勝たせてもらえました。夏は、『勝って、また明日、皆で一緒に練習しような』。これを合言葉にしているのですが、そうなってよかったです」と、やっと笑顔を見せてくれた。
そこからは、「また、こいつらと一緒に野球がやれるな」そんな喜びがにじみ出ているようで、こちらも嬉しい気持ちになれた。
こういう高校野球が、本当にいいチームを作っていくのではないだろうか。そんな気がした。

(文=手束 仁)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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