土佐vs宿毛
三谷啓介投手(土佐2年)
「スマートさ」かなぐり捨てた土佐、宿毛に気合勝ち!
「男なら戦う時が来る」と、かつて「あしたのジョー」劇場版アニメで歌手のおぼたけしさんは歌っていたが、土佐にとってこの宿毛戦は紛うことなく戦わなければならない大一番である。
過去には「全力疾走」の代名詞と共に春6回、夏4回の甲子園出場を数え、1953年(昭和28年)春の第35回大会1966年(昭和41年)春の第38回大会では全国準優勝している名門も甲子園出場は1989年(平成5年)春の第65回大会以来途絶えている現状。さらに最近では昨秋こそ県大会ベスト4に入ったものの、今春は岡豊に2対11、今夏は高知中央に2対4といずれも初戦敗退。
新チーム初戦となる先月の県新人戦本戦1回線も須崎に0対1と初戦敗退した彼らにとって、例え相手エースが力強い直球と大きなカーブ、加えて鋭いシュートを駆使する高知県屈指の素材・中村岳(2年)であったとしても、勝利は最低限かつ必須条件。ここでの敗北は秋の終わりを意味すると同時に、近い将来にチームの大改革を余儀なくされることを意味している。
しかし高多倫正監督率いる土佐は2時間9分を一丸となって実に勇敢に戦い抜いた。打っては2・4回表と制球に苦しむ中村に対し四球やチーム伝統の犠打を絡めた後、1番・片岡拓也(2年)が連続適時打を放つと、5回には5番・生田優人(2年)エース三谷啓介(2年)を女房役として助けるセンターオーバータイムリー2塁打により試合の主導権を奪取することに成功。
土佐は守っても先発の三谷が左腕変則フォームから繰り出すチェンジアップを武器に、8回途中まで5安打7奪三振2失点(自責点1)の好投。2番手・野村裕之(2年)が1点差に迫られ1死1・2塁と同点のピンチを背負った場面で登板した昨秋のエース・森岡稜介(2年)も、左腕からの気迫あふれるピッチングで後続を併殺に仕留めるナイスピッチと、温厚な普段の表情から一転、3回裏に送球ミスで一時同点に追い付かれる穴を招いた4番を途中交代させるなど、鬼気迫る采配を振るった指揮官の期待に見事応えたのであった。
ちなみに冒頭に触れた「あしたのジョー」劇場版アニメの曲名は「美しき狼たち」である。この日、進学校のスマートさをかなぐり捨てて、雄々しく牙をむいた土佐。次の相手は岡豊とまだまだ難関は続くが、この日、気合で勝ち取った1勝は間違いなく彼らが今後「美しき狼たち」へと成長していく基盤になるだろう。
(文=寺下 友徳)