試合レポート

至学館vs中京大中京

2016.10.30

ミラクル至学館、またしても9回の奇跡を呼び起こして劇的サヨナラ

至学館vs中京大中京 | 高校野球ドットコム

リリーフして、9回には同点二塁打も放った新美君

 愛知県対決となった東海大会準決勝の第2試合。しかも、中京大中京(旧・中京)出身の監督同士の先輩後輩対決でもある。中京大中京の高橋 源一郎監督は、2回戦の藤枝明誠に続いての先輩監督との対戦ということになった。後輩の高橋監督が、伝統校の歴史を背負い、先輩の麻生 義之監督は新しい学校の歴史を築いていくという立場でもある。

 この秋は県大会を制したのは中京大中京だった。その中京大中京は初戦となった2回戦で、藤枝明誠に代打の一振りで逆転勝ちしている。至学館愛工大名電東邦享栄といわゆる私学4強と言われている愛知県を引っ張ってきた強豪、名門、古豪を相次いでサヨナラ勝ちで撃破してきた。こうして3位で東海大会に進出。私学4強の残る一つが、この日の中京大中京である。

 東海大会でも、優勝候補の一角に挙げる人もいた三重三重県2位の菰野に大勝した至学館。2回戦では岐阜県1位の多治見との接戦を制しての進出だ。県大会からの勢いというか、この秋の「負けないチーム」という思いからくる流れは、この試合でも最後にものの見事に発揮された。

 試合は、9回になって「まさか」という形でのエンディングとなった。まさに、この秋続いている“ミラクル至学館”が、この試合でもものの見事に最後の最後で発揮された。

 9回表を終えて、2点を追いかける形の至学館。ただ、ここまで中京大中京の香村君に、わずか3安打に抑え込まれていた。8回にこそ、木村君の三塁打と、続く大谷君の犠飛で1点を返してはいたものの、試合展開としては、客観的に見て封じ込まれているという印象だった。

 そして9回裏も、簡単に二死となった。3番鎌倉君の当たりも平凡な内野ゴロだったが、これが失策を招いて至学館は望みをつないだ。さらに井口君が死球となると、ここで至学館ベンチは同点のランナーとなる一塁走者に代走清水 唯人君を送り出す。井口君は捕手で4番打者でもあり、攻守の要なのだが、走力を考えての代走ということだった。まさに、総力戦という意識でもある。

 至学館の選手たちは、そうした麻王監督の采配に意識が高揚した。
「この回で勝負を決めに行かなくてはいけない」という気持ちが、プレッシャーではなく勢いに変えていく力があった。


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中京大中京・香村君

 6回途中でリリーフのマウンドに立って、そのまま5番に入っていた新美君の打順となったが、新美君はカウント1-1から中越二塁打を放って一気に同点とする。自身も送球間に三塁まで進んでおり、二死三塁となって、押せ押せムードとなった至学館。そして、最後は途中出場の中根君がサヨナラ安打を放った。

 捕手に代走を出してしまっていてその後に対しては不安もあったというだけに、麻王監督も、「あそこの代走は、『この回で決めないといけないよ』ということの意図でもあるんですけれども、それを選手たちも理解していてくれたんでしょうね」と、土壇場の奇跡的とも言っていい大逆転には、ただただ感動していた。試合後は、目頭を熱くして、「実力だけで言えば、相手が上だということはみんなわかっています。だけど、ここまで逆転でやってこれたんだから、笑顔で行こうよと、そういうことを選手たちには言いました」という9回に、まさに奇跡とも言っていいくらいの形での大逆転劇となったのである。

 先の試合で、アウトにはしたものの最後の打者の打球の直撃を受けて、担架で退いた中京大中京のエース香村君。しかし、大事はなかったようで、この日も先発マウンドに立つことができた。そして、香村君は、初回先頭打者に安打されるも、以降は7回一死まで無安打に抑えるという好投だった。

 試合の流れとしても、中京大中京が3回、二死満塁から5番諸橋君の右前打で2点を先取。その後も、チャンスを作りながら、なかなか追加点が奪えないままだったのだが7回、9番香村君のタイムリーで得点して3点目。展開としては、拙攻ながらもなんとか中京大中京が力の差を見せつけたかという形になるところだった。

 ところが、8回に一死で三塁打した木村君を8番途中から出ていた大谷君の右犠飛で帰して1点差としたところで、至学館の反撃の勢いに火が付いた形となった。

 至学館は主に、変則気味の左腕川口君と、リズムで投げ込んでくる右腕の新美君という二人で勝ち上がってきている。「そんなに力があるわけではないですから、いろんなことをやりながら目先を変えていかないといけませんからね」という麻王監督の考えもあって、この日も相手打線の状況で、タイミングを見た継投でかわしていくということになった。

 そして、劇的な逆転サヨナラには、麻王監督も目頭を熱くしながら、「実力は相手が上なのは誰が見ても明らかです。だけど、このチームは諦めないでやってきて、それが最後の最後、この試合でも思いが届いたことが素晴らしいと思います」と、選手たちの頑張りを評価していた。

 それにしても、十中八九勝利を手にしていた中京大中京。最後の最後でその勝利を逃したのだが、失策云々よりも、13安打していながら、3点止まりだったことが最後には響いた。しかも2度の内野ゴロでの本塁憤死など、流れを途切れさせていってしまったことも痛かった。

 至学館のこの秋の県大会ら引き続いている勢いは、どこまで続くのだろうか。

(文・写真=手束仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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