奥川恭伸に起こった誤算。そして星稜ナインに突き付けられた課題
2019年世代ナンバーワンピッチャー・奥川恭伸(星稜)。トップクラスのストレート、変化球の精度、投球術を誇る右腕だが、実は最も優れているのが『投球プラン』だ。奥川は試合状況、相手の力量、強みをすべて勘案してプランを組み立てる。まさに高校生の域を超えた投手。星稜が優勝候補に挙げられているのは、奥川がスーパーエースとして絶対的な活躍を見せて、そのまま大会の頂点を勝ち取ってしまう期待感があったからだろう。
ただ、奥川擁する星稜は、2回戦で姿を消すこととなった。習志野戦で起こった誤算、夏へ向けての展望を語ってもらった。
奥川の投球プランは?
奥川恭伸投手 ※写真=共同通信
前チームから注目投手の一人だった奥川。武器である試合プランの鋭さに唸らされたのが昨秋と今春の2試合だった。
1試合目は昨秋の明治神宮大会の広島広陵戦。いきなり初回のアウトはすべて三振で奪ったが、これは自ら狙いにいったもの。三振を狙いに行った理由は、星稜の試合がなかった大会初日の試合内容にあった。大会初日の2試合、いずれも先制したチームがそのまま流れを掴み勝利している。広島広陵は、隙がないチームと警戒していた奥川。立ち上がりが悪ければ、そういう流れになると危惧して、三振を狙う配球を心掛けたのであった。
2試合目はセンバツ初戦の履正社戦。奥川は観客を味方につけて、チームに勢いを与えるために先頭打者に150キロを狙った。そして実際に151キロを出して、球場の雰囲気を変え、その後、17奪三振完封勝利へとつなげた。
しかしこの習志野戦に限っては、プランニングが狂ってしまった。試合前のブルペンでは好調だったが、マウンドに上がると思うようなボールが投げられない。ストレートがシュート回転してしまい、立ち上がり、1番・角田 勇斗を3球三振と順調な立ち上がりをしたかに見えたが、奥川自身、納得いくボールではない。首をかしげる姿もあった。奥川は「いつもより体のだるさを感じました。調整はここまでうまくいっていたのですが…。原因としては気持ちの持っていき方が良くなかったのかなと思っています。ブルペンからマウンドに登るまで気持ちを切らしてはいけないと思いました」
確かにシュート回転したストレートが多かったとはいえ、常時140キロ~149キロを計測しているストレートを見ると、奥川と星稜サイドは入念に調整していたのがうかがえる。気持ちの入れ方を少しでも間違えると投球に悪影響を及ぼすことが分かる。
ストレートを思い通りにコマンドできないとなると、捕手・山瀬慎之助はリードの内容を変えざるを得なかった。
「試合前には打者ごとにプランは練っていましたが、状態が良くなかったので、相手の攻め方に関してはその場しのぎリードとなりました」
ストレートに加え、縦スライダー、スライダー、スプリット、カーブと多くの球種を駆使して、投球を組み立てていた。奥川が悔やんでいたのは、厳しいコースに投げ切れなかったこと。相手打者が短めにバットを持ち、スライダーに手を出さないのは察知し、打たせて取る投球に切り替えたが、4回表、竹縄俊希に適時打を打たれたことについてこう反省している。
「習志野の打者はバットを短く持っていて、思ったより伸びて内野の頭を超える打球を見て、相当研究しているのが分かりましたし、その上で、厳しいコースへ変化球を投げ切れなかったことを反省しています」
試合を通しての逆算したピッチングができなければ、スタミナが消耗し、球威が落ちるのは目に見えている。9回に本塁打を打たれたのはそれが影響しているだろう。とはいえ、9回を投げて、被安打7、10奪三振、3失点と、調子が悪いなりにエースとして最低限のピッチングを見せてくれた。
「どんなチームが来ても勝負ができる。厳しいボールで勝負ができる。そんなバッテリーになっていきたいです」と夏へ向けての意気込みを語った奥川。気持ちの入れ方まで完璧になれば、ますます手が付けられない投手となるだろう。
今度は星稜の課題を考えていきたい。
星稜の課題は何か?
絶対的なエース・奥川は今回のように不調の時もある。ただそれを打撃、守備で援護するのが野手陣の役割である。習志野戦でそれが遂行できたかといえば答えはNOである。この試合では打撃、守備、走塁でミスが多くあった。打てなかったことが課題に挙げられるが、今年の星稜ナインは僅差の試合ほどミスに陥りやすいのが最大の課題だと思う。大事な時ほど準備ができていない、想定せずにただプレーをしていると思う場面が多い。
たとえば、4回表、無死一塁の場面で犠打があり、投手に向けて飛んだ小フライ。奥川はわざとワンバウンドにして併殺を狙いにいった。これはずっと練習していたプレーだったが、この時点、一塁手がベースに入っていなかった。結果として1点につながった。守備のミスを振り返ると、足が動かず、ただ捕りに行く手だけで取りに行き、エラーにつながった場面もあった。
また打線では飯塚のストレートを仕留めきれなかった。後半、ストレートのスピードが140キロから135キロ前後まで落ち込んでいたが、それでも星稜の選手たちは仕留めきれなかった。
他にも二塁けん制でのアウトであったり、劣勢の場面で簡単に打ちにいき、アウトを献上している場面がなんどかあった。
『状況判断』
これが星稜ナインの夏までの伸びしろなのかもしれない。
また奥川は習志野の応援が影響されることを試合前に危惧していた。
「ミスした時は徹底的に声かけをしていけないと思います。でも、ずっと下を向いていて、声をかけていても響かないんですよね。だからこそそれがあることも想定して、ミスする前から声掛けをしていきたい」
奥川は試合前から見えていた。不調ながら3失点で終えることができたのは、奥川の視野の広さもあった。
打線は水物。いくら練習で鍛えても、練習で打てても、極度のプレッシャーのない試合で打てても、こういう時期も来る。星稜ナインの真価が問われるのは、いろんなプレッシャーがあって思うようにいかない場面で、どんなメンタリティーでいけば、最高のプレーができるか。準備を含めた『状況判断』だ。
12月での取材、主将の山瀬はこういった。
「10回戦えば10回勝てるチームにしたい」
星稜ナインが目指す理想のチームになるために、この敗戦を夏に活かすことができるのか。改めて、今後の星稜ナインの成長に注目だ。
取材=河嶋宗一