試合レポート

狭山ヶ丘vs川越東

2019.07.19

最終回、起死回生の一発で蘇った狭山ヶ丘

 やはりと言うか、野球に限らずスポーツ全般だが、取れる時に得点を奪わないと、勝利の女神は微笑まない。

 前日打線が爆発し、北本に対し5回コールドで圧勝した川越東対、初戦2本塁打を含む12安打で鷲宮を5回コールドで退けた狭山ヶ丘、西部地区の強豪同士が激突する3回戦屈指の好カードとなったこの一戦、試合は予想に違わぬ好ゲームとなり最後の最後までもつれる劇的な展開となった。

 川越東宮崎元気(3年)、狭山ヶ丘清水竣介(2年)と両エース同士が先発し、試合が始まる。

 川越東・宮崎は、右サイドからMAX130km中盤の直球を中心とし投球を組み立てる。この日は直球が走っており、立ち上がりから強打の狭山ヶ丘打線を封じ込める。

 一方、川越東は初回、狭山ヶ丘・清水の立ち上がりを攻め、先頭の伊藤哲平(2年)が死球で出塁すると、続く宇津木一朗(3年)がきっちりと送り一死二塁とするが、後続が倒れ無得点に終わる。

 川越東は2回裏も、この回先頭の三枝悠真(2年)がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く豊島健多(3年)が送り一死二塁とするが後続が倒れ無得点に終わる。

 すると、1,2回と順調であった川越東・宮崎が3回表突如制球を乱す。一死から狭山ヶ丘の8番・石塚泰祐(3年)にライトへ大きな飛球を浴びると、この打球に対しライトが目測を誤り二塁打となる。二死後、1番・長谷川稜輔(3年)に対し、やや勝負を避けるような形で歩かせる。ここまでは良かった。だが、続く正高奏太(2年)にも四球を与え、二死満塁で前の試合満塁本塁打を放っている3番・小林澄風(3年)を迎える。宮崎は、小林澄に対してもストライクが入らず、3ボールとしてしまい絶体絶命のピンチを迎える。だが、ここで信じられないプレーが起きる。

 アップアップな状態の宮崎に対し、小林澄が次の球を強引に打ちに行ったのだ。結果はセカンドフライに終わり、狭山ヶ丘は絶好の先制機そして大量得点を奪うチャンスを逃し、流れを失う。

 すると川越東はその裏、この回先頭の中島優作(3年)が左中間へ二塁打を放ち、無死二塁で前日3ランを放っている伊藤を迎える。ベンチは強攻の指示を出すのだが、伊藤は浅いライトフライに倒れる。それでも、続く宇津木がライト前ヒットを放ち、一死一、三塁とチャンスを迎える。ここで川越東ベンチは、3番・前野暁也(2年)にプッシュバントの指示を出したが、前野のバントは小フライとなってしまう。結局後続も倒れた川越東は三度無得点に終わり、こちらも流れを失う。

 そんな中、先制したのは川越東であった。

 5回裏、一死から中島がレフト前ヒットを放ち出塁すると、二死後、一走・伊藤が二盗を決め二死二塁とする。ここで今大会好調の2番・宇津木がライト線へタイムリー二塁打を放ち1点を先制する。川越東はさらに二死二塁から続く前野がセーフティバントを決め二死一、三塁とチャンスを広げ、主砲・浪江麟太郎(3年)を迎える。ここで浪江はレフトフェンス直前の大飛球を放つが、あと一歩届かず1点でこの回の攻撃を終える。

 一方、川越東・宮崎は3回表、二死満塁のピンチを凌ぎ、やや開き直ったか、4回以降は息を吹き返し、強気のピッチングを披露する。強打の狭山ヶ丘打線に対し、結局、8回まで2安打無失点に抑える好投を見せる。

 対する狭山ヶ丘・清水も強打の川越東打線に対し、再三スコアリングポジションまで走者を進められるが、後続を打ち取る粘りのピッチングを見せ、最少失点差のまま試合は最終回を迎える。

 そして迎えた9回表、劇的な展開が待っていた。

 狭山ヶ丘は一死から、前の試合本塁打を放つも、この日ここまで川越東・宮崎の前にノーヒットに抑えられていた3番・小林澄を迎える。小林澄はフルスイングすると、打球はレフトスタンド最前部に飛び込む値千金の同点本塁打となる。これで押せ押せとなった狭山ヶ丘は、続く和田啓佑(2年)も左中間へ二塁打を放ち、一死二塁と今度は一打勝ち越しのチャンスを迎える。

 だが、ここは川越東・宮崎が踏ん張りを見せ後続を抑え同点のまま9回裏を迎える。

 川越東はその裏、一死から7番・宮崎が四球を選び出塁すると、続く桒山凛太郎(2年)の所で川越東ベンチはエンドランを仕掛ける。これはセンターフライとなり二死となると、今度は一走・ピッチャーの宮崎に盗塁の指示を出す。これが決まり二死二塁とし、一打サヨナラのチャンスを迎えるが、後続が倒れ試合は延長戦へと進む。

 だが、ここで狭山ヶ丘にアクシデントが起きる。エース清水の足が攣ってしまったのだ。ゲーム終盤までどちらかと言えば静かな展開であっただけに、何か終盤は波乱含みの中、延長戦が始まる。

 9回終了後のグラウンド整備が入り(埼玉県は熱中症対策で夏の大会は3イニングごとにグラウンド整備をするというローカルルールを採っている)迎えた10回表、同点に追いつき勢いに乗る狭山ヶ丘は、前のイニングの走塁の影響もあったかやや疲れの見える川越東・宮崎に襲い掛かる。この回先頭の平賀尊(2年)が四球で出塁すると、一死後9番・清水も四球を選び、一死一、二塁と勝ち越しのチャンスを迎える。ここで1番・長谷川がセンター越えの2点タイムリー三塁打を放ち、ついに狭山ヶ丘が3対1と逆転に成功し、宮崎をマウンドから引きずり降ろす。

 エース清水の状態が不安な狭山ヶ丘はここで攻撃の手を緩めるわけにはいかない。一死三塁から2番手・山田の代わり端、2番・川俣勇気(2年)がスクイズを決め、3点差をつける。

 だが、このままでは終われない川越東もその裏猛反撃を見せる。

 一死から、2番・大坪玲志(3年)が四球を選び出塁すると、二死後4番・浪江も死球で続き二死一、二塁とする。

 狭山ヶ丘ベンチは、清水の状態がもう限界だと感じ川井田へスイッチする。

 川越東は、狭山ヶ丘・川井田を攻め立て5番・三枝が四球を選び二死満塁とすると、ここから代打攻勢に転じる。1人目の代打・谷口がレフト前へ2点タイムリーを放ち1点差とすると、さらに2人目の代打・鈴木雄翔(3年)も四球を選び、再度二死満塁とし、一転一打逆転サヨナラのチャンスを作る。だが、3人目の代打・宇畑が見逃し三振に終わり万事休す。

 壮絶な試合は、最終的に狭山ヶ丘が4対3で逃げ切り3回戦へ駒を進めた。

 まず狭山ヶ丘だが、頼みの打線はこの日川越東・宮崎の前に沈黙し、結局5安打に終わった。それでも終始フルスイングを心掛け、5本のうち4本が長打と相手に圧力はかけていた。そして終盤の数少ないチャンスを物にした印象を受ける。何より最終回の同点本塁打は値千金であった。だが、何よりこの日はエース・清水が毎回のようにピンチを招きながら、粘り強く投げ9イニングを1点で凌いたことが大きい。彼が土壇場の同点劇を呼んだと言っても過言ではないであろう。だが、頼みの清水も9回で足を攣り、もし10回表に得点が奪えなければ、相手の投手陣を考えてもこの試合はかなり厳しかったであろう。本当に勝つならこの勝ち方しかなかったのではなかろうか。

 一方の川越東だが、まさに痛恨の敗戦であろう。とにかく、この一年間は投手陣、野手陣共に誤算続きであった。エース宮崎はこの日とにかく良く投げたが、最後力尽きた。昨秋から肩痛に苦しめられ、今春も大会で投げられず、3イニング、5イニングと練習試合で徐々に投球数を増やし、今大会初戦も6イニングととにかく、ぎりぎり間に合ったような状態である。それを考えると相手の打線を考えても展開的に継投は難しいが、やや引っ張り過ぎた印象を受ける。この日後ろを投げる予定であった山田も元々は野手で投手経験の少ない選手だ。しかも今大会初登板である。雨で2回戦、3回戦が連戦となり、前日の北本戦で蔭山を使ってしまった影響がやや出てしまったか、この日継投が後手を踏んだ。

 だが、むしろ敗因は打線だ。9回までに6度もスコアリングポジションに走者を進めながら1点のみに終わるなど、試合を通じ11残塁と打線がつながりを欠いた。特に主砲・浪江が三度得点機に凡退するなどこの日ブレーキになってしまった。とはいえ、嫌な予感はあった。本来このチームスタート時は1番・鈴木、3番・伊藤、4番・浪江であり、新人戦でも山村学園に勝利するなど西部地区準優勝を飾っている。だが、鈴木は冬の学校行事で肩を負傷し、まだ塁間までしか投げられない。代打で出場することしかできなかったのは本当に誤算であった。3番を固定できないことが、打線のつながりを考えると最後まで響いた。

 結果、今春もそうであったが、1番・伊藤、4番・浪江と打順を離すとそれぞれが徹底マークに遭ってしまう。今大会浪江はほとんど勝負をしてもらえなかった。既に3試合で4死球を受けている影響もあったか、浪江は今大会まだノーヒットであった。この試合前半に一本でもヒットが出ていれば、昨夏ベスト4の立役者という経験値もあるだけに、大会に入って行けたであろう。それでもゲーム終盤に今大会初安打が生まれだけに、この試合をどうにか乗り切れば、次戦は全く違う姿となっていたはずだ。

 今年は7人の豊富な投手陣を擁していただけに、ここでの敗戦は痛恨である。これで昨夏ベスト4のバッテリーに主砲が抜けることとなるが、幸い今年は主力に2年生が多い。また川越東が黙っていてもベスト8、ベスト4までは行けるようなチームになるかは、夏・冬に今一度基礎練習や体のポテンシャルを上げる練習を徹底して反復できるかにかかっている。彼らがこの敗戦を糧にし、今後一回り大きな体になっていることを期待したい。

(文=南 英博

2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会
■開催期間:2019年7月10~7月28日(予定)
■組み合わせ表【2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会】
■展望コラム【今年の埼玉は大混戦!シード校の戦力とシードを脅かすノーシードを徹底紹介!】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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