聖光学院vs愛工大名電
強行とバント、どちらが有効な作戦か?
愛工大名電がお家芸のバント作戦を縦横に展開しようとするが、得点圏に進めた走者を迎え入れられない、という場面が最後まで続いた。
バントにはバント、と思い定めたわけでもないだろうが、聖光学院もバントが多かった。それでいて得点圏に進めた走者を還すことができないのは愛工大名電と同じ。5回には右前打の6番八百板 飛馬(中堅手)を7番井原 貴視(三塁手)がバントで送ろうとすると、これを愛工大名電の先発・東 克樹が二塁に悪送球して無死一、三塁という格好の同点機を迎えるが8番広瀬 和光のバントが投手への小飛球になり、飛び出した三塁、一塁走者がそれぞれ帰塁できず、2011年の明豊以来、2年ぶりの三重殺を記録してしまった。
バントを有効な作戦と信じて、WBC(ワールドベースボールクラシック)のような舞台でも日本チームはバント作戦を随所に散りばめてジャパンスタイルを確立しようとするのだが、強行とバントのどちらが有効な作戦か、じっくり検証してみることをお勧めする。
いずれにしてもバントが愛工大名電は6回、聖光学院は2回は多い。それ以外にも愛工大名電は1回表、2番遠田 幸輝のバントが捕手へのファールフライになり、聖光学院などは5回の三重殺のきっかけになったバント失敗をはじめ、6回、7回にもバント失敗があり、よくこれで勝てたと感心した。
得点の多くは皮肉なことにホームランによってもたらされた。愛工大名電は1回表、1番山本 恵汰(右翼手)が左前打で出塁、これを前述した遠田のバント失敗でダブルプレーになり走者なし。3番中野 良紀(遊撃手)が四球で歩いて、4番石浜 亮太(一塁手)がレフトスタンドに2ランホームランで先制するという具合。
聖光学院は2回に先頭の4番園部 聡(一塁手)が四球で出塁、これを5番佐藤 昌平(右翼手)がバントで送り、続く6番八百板 飛馬(中堅主)の中前打で一、三塁とし、7番井原がスクイズを成功して1点差に迫る。ここまではバント作戦が功を奏した。
6回表には愛工大名電が「バントはうちのお家芸」と言わんばかりに2つのバントを絡めて1点を追加して聖光学院を引き離しにかかる。その裏、聖光学院は代打・酒谷 遼がライトにソロホームランを放って再び1点差に迫る。
7回裏には先頭の園部がレフト線を破る二塁打で出塁、後続の一塁ゴロ、死球で一、三塁とするが7番井原のバント失敗で園部が本塁で憤死する。それでも2死一、二塁のチャンスが続き8番広瀬が左前打で満塁とし、酒谷が今度はレフト前に流し打って逆転に成功する。
愛工大名電は3点中、バントが絡まないホームランで2点、聖光学院は4点中、バントが絡まない酒谷のホームランとタイムリーで3点を奪取している。バントが多すぎればその分、実戦で打つチャンスが少なくなるのでバッティングが下手になるというのが私の意見。何ごともバランスが大切なので、もう少し選手の打つ技術を信じて強行作戦を増やしてもいいと思う。
ドラフト候補として注目される聖光学院・園部にも注文をつけたい。この日確認できただけでも2回、打席内で動いて内角球に備えようとした。実際に8回にはこの打席内移動によって内角への137キロストレートをセンター前に弾き返している。しかし、園部が将来バットマンで身を立てようと思うなら、こういうリスキーな方法で内角球を打つべきではない。内角球を予想して外角球がきても、それに対応できるような打ち方を日常的にしていかないとバットマンとしての大成はおぼつかない。
バッティングフォームそのものは、さすがにプロが注目するだけのことはある。タイミングの取り方は性急だが、浅いダウンスイングでボールを捉え、引っ張りを基本としながら、応用でセンターから右へ打てる備えもある。勝ち越した8回表の守りに入りときには、投手の今 祐也に何ごとか耳打ちしているように、ゲームへの参加意識も高い。甲子園に姿を現すたびに別の顔を見せてくれる園部には期待が大きいので、あえて苦言を呈した。
投手陣では愛工大名電の左腕・東 克樹に注目した。ストレートは何球か140キロを計測し、速さだけでなくキレも備えている。170センチと資料に紹介されているように上背はないが、腕の振りがオーバーハンドなのでボールに角度があり、4回には園部にクロスファイアーのストレートを2球続け、見送りの三振に斬って取っている。
横ブレの小さいスライダー、カーブがあり、これに95キロくらいのスローカーブ、115、6キロで鋭く落ちるチェンジアップのようなボールを交え、強打の聖光学院を4点に抑えたのは立派。東の高校野球はこの敗戦で終わったが、さらに成長した姿を再び見たいと思わされた。
(文=小関順二)