試合レポート

天理vs大館鳳鳴

2011.03.24

金縛り

 学校創立112年目で初めて聖地の土を踏んだ大館鳳鳴の捕手・成田秀は、ただ呆然と試合の流れに身を任せるしかなかった。
「頭の中が真っ白になりました」

 昨秋の秋田県を19年ぶりに制した大館鳳鳴は、東北大会2回戦で青森山田に3対4と惜敗。これに文武両道の校風、積極的な除雪ボランティアなどの地域貢献などが加わり、堂々の21世紀枠選出を受けての出場だった。

 相手は天理。86、90年夏、97年センバツと三度の全国制覇を誇り、甲子園出場は春夏通算で46回を誇る、言わずと知れた高校球界屈指の名門である。今大会出場校の中で最多となる21回目の春は、昨秋の近畿優勝を成し遂げたことで掴んだ。ちなみに4年連続で選抜に出場している。

 そんな大横綱を前に、県立の初出場校が何も感じないはずはない。
試合前から選手たちには硬さがあったと成田は言う。それは初めて味わう甲子園の雰囲気に呑まれたものではなく、天理のユニフォームからくる圧迫感だったそうだ。

 3回、一死一・二塁から天理の2番・岡部遼の捕前バントを成田自身が悪送球したことで天理に先制を許した。近畿王者の強力打線を1、2回とゼロに抑え、数少ない勝機を見出せるはずの“我慢比べ”に持ち込もうかという矢先の、手痛いミスだった。
「あれでもう、何も考えられなくなりました」(成田)


 先制した天理は打線に着火し、大館鳳鳴・先発の斉藤浩平に襲い掛かる。
3番・森口雄貴、4番・長谷川頌磨の連続適時打。さらに満塁から6番・柳本啓佑の走者一掃となる左中間三塁打など打者11人の猛攻で、この回一挙に7得点。

「打たれ始めてからは、ストライク欲しさに簡単に行きすぎました。もう少し慎重になっていれば……」

 子供の頃から何度も見てきた紫の強打線を前に、体と頭脳が硬直してどうすることもできない。しかも舞台は、やはり子供の頃から何度も夢に見てきた大甲子園である。この金縛り状態から抜け出す術も、当然のことながら知らない。

「齊藤の動揺も感じていました。それでも自分は声を掛けることができませんでした」
そこまで語ると、成田の号泣が止まらなくなってきた。
 大館鳳鳴も2回に5番・佐々木滉介の左前打をきっかけに満塁の先制機を逃している。
「全国経験豊富な天理と、経験のない自分たちとの差は、ああいう場面でもしっかり落ち着いて、崩れそうな気配を感じさせないこと。
ウチとはまったく対照的で『これが全国なのか。さすがだな』と実感しました」

 試合後、ようやく金縛りから抜け出した成田が涙を拭きながら語った。
「アウトひとつを、いかにして取るか。いろんな手段を使いながら、タイムをかけてでも取るものは取っていかないと。そういう呼吸を知ったことはチームにとっても大きな財産になると思います」

 天理という最高の教材から学んだ成果は、夏の秋田を勝ち進むことでいよいよ大館鳳鳴の血となり、肉となっていく。
 チームの危機を救う成田の笑顔を、夏の選手権ではぜひ見てみたいものだ。

(文=加来慶祐)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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