智辯学園vs天理
優勝旗授与
智弁のリベンジ、天理のプライド。
結果は3-0で智辯学園の勝利。
表面上だけを見れば、智辯学園のエース・青山大紀の独壇場の完封劇だが、秋は23年ぶりの決勝での対戦となったこの試合は、9イニング、すべてに飽きさせない試合だった。
試合は天理・中谷佳太、智辯学園・青山大紀の両1年生がマウンドに立つ。去年の今頃は、「ボーイズNO1左腕」、「ボーイズNO1右腕」と騒がれた両者の対決である。メンバー発表を見た青山は「あっちは、ボーイズNO1左腕。すべてにおいて負けてたまるかと思った」そうである。
初回、智辯学園は準決勝に続く、先頭打者・大西による左翼本塁打で先制する。カウント2-3からの真ん中のストレートを振り抜き、左翼スタンドに突き刺した。天理の先発・中谷は、出どころの見にくい投球フォームが特長の左腕だが、置きに行った球を振り抜かれた。
3回裏、天理のチャンス。9番・中谷との対戦に力んだ、青山が四球を与える。犠打で二進のあと、2番・西浦が死球、初回に二塁打を放っている森口をむかえた。森口は、身体を崩され流れもバットに捉えたが、これが遊撃への正面へ。併殺打と思ったが、遊撃手・住谷から大西と渡った後の、1塁返球が逸れてしまう。
二走・中谷は、当然、本塁を陥れるが、この悪送球を猛スピードでフォローに行った青山がボールを拾って振り向きざまに本塁へ返球、アウトにしたのだ。きわどいタイミングだったが、青山の猛烈なフォローと身体を反転してのスローイングに、場内はどよめくしかなかった。
5回表、智辯学園に好機。2死から8番・中尾が中前安打で出塁、9番・竹島が死球で、2死・1、2塁。1番大西を迎えた。1打席目に先頭打者ホームランを放ち、2打席目も中前安打、当たりにあたっている選手。しかも、塁は詰まっていた。
智弁学園優勝の瞬間
ここで、天理は満塁策。まったく、勝負を避けたというわけではないが、初球がボールになると、ほぼ逃げたような形で、大西を歩かせたのだ。そして、2番・浦野は初球を狙った。左中間の2点適時二塁打だった。大きな追加点。弱気になった天理バッテリーと強気だった智辯学園の小兵・浦野。勝負は見えていた。
その後、両者こう着状態が続いたが、8回表に智辯学園が好機をつかむ。
先頭の大西が内野安打で出塁、犠打で二進のあと、3番・青山は絶妙なセーフティバントを成功させて、1死・1、3塁。4番・中道が死球。満塁となった。
すると、ここで、天理ベンチはついに動いた。中谷を諦め、エース・西口輔を投入した。
西口は、智辯学園の5番・横濱、6番・住谷を連続三振に斬って取る。エースの堂々としたピッチングで、このピンチを切り抜けたのだ。
ここからは1転、天理の反撃。8回裏、1死から9番・西口が右翼前安打で出塁、2死後、2番・西浦が右翼線二塁打で好機を拡大。いい当たりを見せている3番・森口に回る。しかし、ここで青山が粘りを見せて、右翼フライに斬る。
9回裏、天理は先頭の4番・長谷川が中前安打で出塁、5番・吉田が四球を選んで、1,2塁、伊達が打席に立つ。カウント0-1からの2球目を強振、快音を響かせたが、これが遊撃ライナー。二走・長谷川が戻り切れず、併殺成立。最後は、7番・東田の三直で試合は終わった。
戦前の予想は智辯学園の圧倒的優位だった。この夏のメンバーがほぼ主力を固め、激戦ブロックを勝ち抜いてきた戦いぶりに対する評価も高かったからだが、智辯学園・小坂監督は「夏の決勝での悔しい負けがあったので、(ここで勝てて)正直にうれしい」と語った。そして、「このチームは近畿大会の頂点を目指してやってきた」ともつけ加えた。夏の悔しさと秋の高い志と、それが今大会の智辯学園の強さに現れていた。1番・大西も「先輩の分を返せてよかった。近畿大会で優勝して神宮大会に行きたい」と意気揚々に話していた。
西口(天理)
とはいえ、4番の長谷川を除く、8人の選手が新メンバーで臨んだ天理も良く粘ったと言えるだろう。
ここで、過去の智辯学園―天理の力関係を振り返りたい。この夏、天理と智弁では、戦力・経験ともに、天理が圧倒していた。結果はご存じのとおり、14-1の圧勝である。
一方、07年の夏、佐藤龍らを擁した智辯学園と二年生エース・井口がいた、当時との天理との力関係は、この夏と全くの逆だった。結果は延長12回に及ぶ激戦で、智辯学園が天理をいなした。力では智辯学園が圧倒していたのに、天理は粘っこく喰らいついて接戦に持ち込んだのだ。
この秋、先にも書いたように、智辯学園がこの夏のメンバーがほとんど残っていたのに対して、天理は長谷川のみ。先発した1年生両投手にしても、すでに場数を踏んでいた智弁・青山と天理・中谷とでも差はあったのだが、天理は粘った。
ここに天理の伝統校としての力が潜んでいる。そんな気がしたのだ。
この夏の大敗があってリベンジを果たした智辯学園、差がありながらでもねちこく喰らいついた天理のプライド。
秋の大会とは思えぬ、白熱した両者のぶつかりあい。
面白い試合だった
(文=氏原 英明)