試合レポート

汎愛vs大商大堺

2011.05.09

汎愛vs大商大堺 | 高校野球ドットコム

汎愛 鈴木投手(勝利の雄叫び)

大阪で7つ勝つ難しさ

 少しだけ喜び、すぐにベンチを片づけ次のチームに明け渡す。そして、素早く荷物を搬出し、外に出てからスタンドの仲間とともに大きく喜びを分かち合った。
初めて決勝に進出した汎愛の試合後の光景である。全員が外に出るまで、何も言葉を発することなく、じっと見守っていた井上大輔監督。この4月に母校の監督に就任した27歳の若き指揮官の目に、すぐに次の行動に移る選手の様子がどのように映ったのだろうか。

 準決勝の相手は大商大堺。前日の準々決勝でPL学園に7対0と完勝して勝ち上がってきたチームだ。
その相手に対し、井上監督は「後半勝負」と踏んでいた。前日、8回コールドながら完投したエース・鈴木風太(3年)を先発ではなく、後ろに残したのがその表れである。
しかし先発した木元翔一(2年)がいきなり大商大堺打線に捕まった。打者6人で2点を失うと、井上監督は高石翼(2年)をマウンドに送る。その高石がもう1点を失い、1回で3点のビハインドを背負った汎愛

エースを先発させない以上、「3点くらいの失点は覚悟」と決めていた井上監督。今度はこれ以上の失点を重ねない手を打った。それが3回裏1死1、2塁で糸川優太(3年)を3番手で送り出した場面である。糸川は、このピンチをダブルプレーで凌いだ。

3回まで無得点だった汎愛。ただ、毎回ヒットを放って走者を出していた。この大会好調な打線は、攻撃の形だけは作って相手にプレッシャーをかけていたのである。
そのプレッシャーが生きたのが4回表。汎愛はヒットと相手のエラーなどでチャンスを作ると、2番山崎壱成(2年)がライト前へタイムリーを放って1点を返した。さらに2死1、3塁の場面が残ると、3番山本拓(3年)が左中間を破るタイムリー二塁打を放って試合は振り出しに戻った。


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汎愛 中村(4回に勝ち越しタイムリー)

「山本が打ってくれて楽になった」と打席に入ったのは4番の中村享平(3年)。
マウンドの大商大堺の左腕・竹内聡(3年)は連投で球威が落ち始めていた。今こそ絶好の好機と考えていた打席の中村。
竹内の2球目、やや高くなった球を中村は振り抜くと、打球は左中間を破った。山本が生還し、ついに汎愛が勝ち越しに成功した。
「自分達の打線なら、3点くらいは返せると思っていた」と話した中村は二塁ベース上で笑顔を見せた。

グランドがサッカー部など他の部活と一緒で、早朝の45分しか思いきった打撃練習ができない汎愛。
その短い時間で養ってきた集中力がこの場面で見事に発揮されたのである。

井上監督は勝ち越したことで、4回裏からエース鈴木の投入を決める。「本当は5回くらいまで、他の投手で凌ぎたかった」と試合後に話したが、逆転した攻撃と流れを考えれば、ここでの起用は致し方なかった。

鈴木は、球威こそさすがに落ちていたが、連打を許さずに粘り強いピッチングを見せて大商大堺打線を生き返らせない。
8回表、汎愛は大商大堺の2番手・川田麟太郎(3年)から四死球でチャンスを作ると、またも中村が2点タイムリーを放ってリードを広げた。
鈴木は8回に背負ったピンチも犠牲フライでの1点にとどめると、打線が9回に再び3点差として決着をつけた。


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汎愛 初の決勝進出

1回戦から勝ち上がってきた汎愛
4月10日 21 ‐ 0 箕面学園
4月24日  7 ‐ 0 常翔啓光学園
4月30日  9 ‐ 2 高石
5月03日  4 ‐ 1 大塚
5月04日  4 ‐ 0 星翔
5月07日 11 ‐ 4 大商大高
5月08日  7 ‐ 4 大商大堺

 積み上げてきた7つの勝利。大阪で公立校がこれだけ勝つのがいかに難しいか。それは20年間(1990年夏・大阪渋谷)公立の優勝校が出ていないデータが物語っている。
確かに私立校は強い。大阪大会8試合、その先の甲子園6試合を想定した体力作りをしていく。公立校が1つ、2つ私立の強豪を倒しても、そこで疲れ果ててしまって、その先の体力と集中力が続かないのが厳しい部分と言える。

ただ、一昨年春に桜宮が準優勝したあたりから流れは少しずつ変わってきた。
不況の世と、『公立で甲子園を目指したい』という思いが公立校の部員増加にも繋がっている。

試合後、球場外で96人の部員に対して井上監督がミーティングを行った。「もう一つ、絶対優勝しよう」と短い言葉で檄を飛ばした指揮官。じっと見つめていた部員達。やはり夏を目指すためには、【優勝】という強烈な自信がほしいところだ。

大阪桐蔭との決勝まで5日間。今の充実度を力に、さらに密度の濃い練習で8つ目の勝利を狙う。

最後にこの試合は、最も信頼の置ける連投の投手を、後ろに残した汎愛と先発で持っていった大商大堺で差が出た形になった。準々決勝から3連戦になるのが夏の大阪大会。春は決勝こそ一週間後になるが、大型連休で試合を重ねてきているので状況は似ている。前日からの連戦で、どういった投手起用をするか。この春を踏まえて、各指揮官がこれから熟考をすることになる。

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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