柵木 和陽(岡崎工)はいかにして、愛知公立校注目度ナンバーワン左腕に成り得たのか?
球国・愛知に楽しみな投手がいる。その名は岡崎工・柵木 和陽(ませき)だ。166センチ62キロと小柄な体型だが、最速140キロを計測する速球を武器にする左腕だ。
昨秋は愛産大三河、豊橋中央、西尾東といった三河地区の強豪が揃った「第141回 中日旗争奪 全三河高校野球大会(以下 西三河大会)」で準優勝を収めた。昨秋の好投を評価され、12月には愛知県選抜として、台湾遠征も経験。こうした活躍から愛知県内の指導者の評価、メディア関係者からも評価も高くなっており、愛知県の展望について聞くと、公立校の注目投手ではまず柵木の名前が上がる。
そんな柵木の歩みと夏へ向けての意気込みについて紹介をしていきたい。
フィールディング、牽制を鍛えたことが飛躍のきっかけに
守備練習をする柵木
野球をはじめた時からきらめく才能を持った投手だったわけではない。高校2年間で一気に投手として才能を伸ばし、注目投手に成長するまでに至った。
小学校2年の時、野球をはじめ、六ツ美北中学校では投手・一塁手と兼任。岡崎県の選抜チームを目指していたが、惜しくも選抜を逃し、涙をのんでいた。
そして岡崎工に進んだ理由について、「まず自分の自宅から近かったこと。そしてグラウンド環境ですね」
柵木が話すように、岡崎工は1974年、1976年に選抜甲子園に出場しており、それを機に専用球場が完成し、現在も地区予選で使用がされるほど恵まれた環境にある。
平松監督は豊田工で指揮を執っていた時、柵木の1年時を見ている。
「まだコントロール悪かったですが、ボールは速く、身体ができればと楽しみだと感じました」
その後、少しずつ登板機会が増えていったが、柵木が投手としての大きくレベルアップするきっかけが2年春の春季大会西三河地区 二次トーナメント 決勝トーナメントだった。この大会で強豪・愛産大三河と対戦し、2対13と5回コールド負けを喫してしまう。
この試合、打ち込まれたのではなく、かなり走られ、全く自分の投球ができなかった。そして4月に岡崎工の監督に就任した平松監督は、これまで教え子のOB投手をグラウンドに呼び、柵木を牽制・フィールディングの指導を行った。これまで牽制、フィールディングについて深く考えていなかった柵木だったが、上達するために練習をするだけではなく、牽制のルールから学んだ。
「牽制のルールを一から学びなおしました。どこまでがボークで、ボークではないのか。ギリギリセーフなところを狙って牽制ができるようにしました」
そしてフィールディングは近い場所から打ってもらい、投手返しにしっかりと反応できる技術を身に着けた。
そして投球フォームについても見直しを行い、目標としている山本拓実(中日 市立西宮出身)の投球フォームを参考にした。
「僕が大好きな投手は大谷翔平さんで、小学校の時から憧れていました。しかし僕のように身体の小さい投手が大谷さんのフォームだと上手く投げられないですので、山本さんのように全身を使って効率よく投げる投球フォームは下半身主導で投げたい自分にあっていました」
そうした取り組みが実を結んだのは2年秋だった。
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柵木 和陽(岡崎工)
まず地区予選を勝ち抜き、県大会に出場を果たし、ベスト16入り。さらに県大会後に行われた西三河大会では準決勝で2年春にコールド負けした愛産大三河と対戦し、リベンジに成功。豊橋中央に破れ、準優勝に終わったが、リベンジに成功した柵木の評価は高まっていた。秋季大会の投球について柵木は投球以外の技術を磨いたことで余裕が出たと感じている。
「牽制はまだまだ下手ですけど、最低限のことができるようになって、投球、心に余裕が出たことで、結果が残せたと思います」
また同県の中京大中京が明治神宮大会優勝。明治神宮大会優勝チームは台湾遠征に参加することが決まっていたため、愛知高野連は中京大中京を中心とした愛知県選抜を編成し、その1人として柵木が選出されたのだ。
ここで得られたものは非常に多かった。
「中京大中京の松島元希くんや享栄の上田君は同じ左腕でも実力が全く違っていて、まさにお手本でした。140キロぐらい投げればいいかなと思ったんですけど、やはりトップレベルでやるにはいずれ145キロ~150キロを投げられるレベルまでに成長しないんだなと実感しました」
冬の練習も気合が入った。その変わりぶりは平松監督も認める。
「彼はよく練習をします。朝、1人でよく走っていますし、身体も細かったですけど、体重も50キロ台からスタートした選手なんですけど、私は身長マイナス体重が100を求めているので、彼の身長は166センチなので、66キロを目指そうと話をして、62キロまで増えました。実際に体力がついてストレートも速くなってきました」
4月、全国に緊急事態宣言が拡大されるまで、限られた時間の中で行った投球練習で柵木は常時130キロ後半・最速140キロを計測。柵木自身も「指にかかるストレートが多くなってきました」と手応えを感じていた。
柵木 和陽(岡崎工)*写真は昨秋愛知大会豊田戦より
そして自粛期間、柵木は最低限のトレーニング、キャッチボールを行い、いつでも実戦で投げられる準備はしてきた。そんな中で甲子園中止が決まったが、愛知県はトーナメント制の独自大会開催を発表。前を向いて日々の投球練習に取り組んでいる。
そして大会に向けてこう誓った。
「愛知県選抜で非常にレベルが高い選手と一緒にプレーができて、とても勉強になりました。ただ今度はそういう選手がいるチームにも勝って、独自大会優勝を目指していきたいです」
この独自大会は自分自身の野球人生がかかった大会でもあり、さらに成長した姿を見せて、大学など次のステージでもプレーをしていきたいと考えている。
柵木は3年間かけてきて磨いてきた技術、メンタルを最大限発揮する。
(記事=河嶋宗一)
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