ウラディミール・バレンティン(東京ヤクルト)「ホームランを打つにはバックスピンをかけることが大切」
現在、プロ野球で最も本塁打を打てるスラッガーといえば、ウラディミール・バレンティン(東京ヤクルト)だ。2011年から東京ヤクルトスワローズ入りし、2年連続で30本塁打以上を記録すると、2013年にはプロ野球新記録となる60本塁打を放ち、歴史に名を残した。ケガをして長期離脱した2015年以外、30本塁打以上を記録。そんなバレンティンのルーツや本塁打を打つ秘訣を聞いてみた。
16歳でアメリカへ。アメリカで本格的な指導を受ける
安定した成績を残しているウラディミール・バレンティン(東京ヤクルト)
―― バレンティン選手がキュラソー島での野球を始めたきっかけを教えてください。
ウラディミール・バレンティン(以下:バレンティン): お母さんに薦められて、球場にいって、多くの子どもたちがそこで楽しそうにプレーしているのをみて自分も楽しそうだと思って、野球をプレーすることを決めました。
―― 一時期サッカーをやってきた時期があったと聞いたのですが。
バレンティン: 元々自分はサッカーには興味があったのですが、TVでたまたまアンドリュー・ジョーンズ(アトラントブレーブス)をみて、すごいなと思いました。自分も彼みたいになれば家族も自分のことを見てくれるし良いだろうなと思ったのがきっかけです。
―― 野球を始めた当時はどんな選手でしたか??
バレンティン: サードから野球人生をはじめましたが、(初めは)HRはほとんど打っていません。HRの記憶は確かチャンピオンシップでホームランを打ちましたが、あとはほとんど打っていなかったですね。当時は今のようにホームランを打てる選手ではなかったんです。
―― バレンティン選手は16歳の時にシアトル・マリナーズに入団しました。入団のきっかけを教えてください。
バレンティン: 15歳の時に、母国でMLBの何球団か合同のトライアウトが開催され参加しました。そこで上手くいき、(スカウトの目に止まり)マリナーズのベネズエラにあるアカデミーに入る事ができ、そこでもう一度トライアウトをして、そこから上手くいき、契約に至りました。
―― こうしてアメリカ球界に飛び込んだバレンティン選手。当時、マイナーリーグではどんな指導を受けていたのでしょうか?
バレンティン: 自分はもともと、ポテンシャルは高かったと思います。ただキュラソー島では試合が少なく、年間で20試合ぐらいしか経験していませんでした。ですから、自分の技術を発展できていない状況でした。なのでマリナーズと契約した後は、どのようにしたらボールが飛ぶかなど基本的な指導を受けました。
[page_break:MLBで「バックスピン」をかける重要性を学び、日本では「事前準備」を進化させた ]MLBで「バックスピン」をかける重要性を学び、日本では「事前準備」を進化させた
バッティング練習中のウラディミール・バレンティン(東京ヤクルト)
―― そんな環境からスタートした野球人生ですが、マイナーでも年間20本塁打を打つなど、長距離砲となりました。飛躍の秘密は?
バレンティン: 自分は生まれつき元々力があったと思います。それが練習を通じて上手く試合でだせるようになりました。ですから特に飛ばすために指導などは受けていませんね。
――それでは打席で意識していることを?
バレンティン:自分が唯一やっていることはバックスイングをかけて強く振ることです。そこだけは心がけています。それはコーチから『バレンティンは力があるからバックスイングをかけて強く振ればボールは飛んでいくから』と指導されたのがきっかけです。
―― 2007年にMLB初昇格。レベルの高い投手と対戦するために意識していたことは?
バレンティン: MLBではチャンスが少なかったです。毎日出られる環境ではなかったので調整が非常に難しかったことを覚えています。
――2011年から日本にきて、日本の野球をどう感じましたか??
バレンティン:2011年に来日した当時は対戦するのが難しく感じました。これはいつも言っている事なのですが、日本の投手はブレーキングボールのコントロールなど総じてコントロールが非常にレベルが高い。ただここでは毎日ゲームで使ってもらえたので、おかげさまで慣れる事ができました。
―― 2013年、プロ野球新記録となる60本塁打を放ちましたが、これまでの2年間の違いは何でしょうか。
バレンティン: やはり唯一の違いは2年間日本で野球をやったことで、日本の野球がわかった事、そして日本の投手の事をわかった事、これが大きいですね。そして理解したことを練習で想定しながらできたことが大きかったです。
―― 勉強してきたことが一番なんですね。
バレンティン: そうですね。後は一番重要なことは打席に入る前にプランをもって入ることです。この投手はこういう投手だからこのボールを打とうなど、プランを事前に持つことですね。
[page_break:ボールの下を叩いてバックスピンをかける技術をとことん追求しよう ]ボールの下を叩いてバックスピンをかける技術をとことん追求しよう
腕を組むウラディミール・バレンティン(東京ヤクルト)
―― その事前準備などのルーティンは日本へきてさらに進化したのでしょうか?
バレンティン:アメリカでは正直試合にでるチャンスがなかった事と、後は球団数 (30球団) が多いので、同じ投手とそんなに当たりません。
ただ日本では球団数も少なくよく同じ投手と何度も何度もあたります。同じ投手と5日後にまた対戦する事もありますから。なので「研究する」「プランを立てる」という準備の部分では成長しました。
―― なるほど。活躍の要因が分かりました。ペナントレースの活躍だけではなく、日本の野球ファンがバレンティン選手の活躍で、思い出すのが2017年のWBCです。準決勝まで、打率6割1分5厘、3本塁打、10打点と、E組でMVPを獲得しました。
こちらはペナントレースとは違って、同じ投手との対戦数が少ないです。WBCの活躍の要因は?
バレンティン:まず最初に、WBCは日本の野球とは全く別で、トーナメントなので試合数も5試合か6試合しかなく、少ないです。
なので、少しビデオをみたり、後は自分の「感覚」ですね。例えばバッター優位のカウントになったら甘い球が来る確率があがるので、その時は必ず打つ。それがうまくいったと思います。
―― 今回のテーマが『ホームランを打つ!』ということですが、バックスピンをかける技術に関して教えてください。どんな練習を普段からしているのでしょうか。
バレンティン:それは練習でというより、メカニックの部分での理解が非常に重要です。手を中に入れてボールの内側を打つなど、そういうことをまずは理解することが重要です。理解することで強引に打たなくても良くなります。
―― ありがとうございます。では日本の高校野球はみられていますでしょうか。
バレンティン:自分はいつもテレビで甲子園を見ています。甲子園はトーナメントですよね。みんなが一生懸命で100%のプレーをしているのが好きです。
―― では最後にホームランを打ちたい球児にメッセージを
バレンティン:まず第一にちゃんとした筋肉をつけるためにウエートをやったほうが良いと思います。やりすぎはあまり良くないですが。次に、それだけでなくて、メカニックをしっかりとつけることが重要です。
日本ではよく上から「叩け」と言われていますが、本当に力のある人はインサイドアウトでボールの下を打つ技術を身につけてもらえればと思います。そうすれば自ずとボールは飛ぶと思いますよ。頑張ってください。
文=河嶋宗一