関西学院高等部(兵庫)【後編】
前編では、昨夏県ベスト4進出、さらに今春も県3位の座をつかんだ兵庫県西宮市に位置する関西学院の日頃の取り組みを紹介してきました。今回、後編では、「ローリスク・ローリターン」野球について広岡監督が語ってくださいました。さらに、6年ぶりの兵庫の頂点を獲るために選手たちの意気込みもお届けします。
関西学院流チームセオリー
シート打撃の様子(関西学院高等部)
「チームとして許す部分と許さない部分を明確にしようとは思っています」と広岡 正信監督。打者陣への指示を例に出し、続けた。
「バッターに常に望んでいるのは好球必打です。甘いストライクが来たら初球からでもどんどん振っていってほしい。甘いストライクを簡単に見送る行為はうちでは『許されない』部分に入るんです。でも一方で、初球の甘い球を打ちに行った結果、打ち損じたり、ゲッツーになったとしても全然オッケー。これは『許される』部分なんです。ここを明確にしないと、いくら積極的に打っていけ!と指示したところで、選手たちは積極的になれませんから」
また、「試合における戦い方の特徴やこだわりは?」という問いに対して、広岡監督からは、
「うちは基本的にはピッチャーがあまりけん制球を投げないんですよ」
という少々意外な答えが返ってきた。いったいその理由とは?
「けん制球を投げることが無意味だとは思いませんが、守りのリズムが悪くなる、バッターへの集中力がそがれる、ピッチャーのクセの情報が漏れやすくなる、けん制球が悪送球になり、無駄な進塁を許してしまう、といったリスク、デメリットも生まれてしまう。戦うにあたっては、デメリットを排除した方がトータルでプラスに働くと考えているのが最大の理由です」
けん制球を多用しない代わりに「セットポジション時にボールを持つ長さを変える」「素早いクイックモーション」「目でランナーを威圧する」といった要素の徹底が関西学院投手陣には求められる。
「盗塁のときはバッターは打たないわけだから『たとえ二塁に走られたとしても、その間にストライクをきっちりと奪う』ことはバッテリーの共通認識として徹底しています」
「ローリスク・ローリターン」野球の徹底
シートノックを受ける選手たち(関西学院高等部)
バントシフトを滅多に敷かないことも関西学院の大きな特徴だ。
「例えば無死一塁の場面で、相手がバントしてきたときに打者走者も生きてしまい、無死一、二塁になるケースを限りなくゼロにしたいんです。だから走者を100パーセント封殺できそうなタイミングでない限りは、一塁に送球し、打者走者をアウトにすることを徹底しています。バントシフトを敷かなければ相手がバスターを仕掛けてくることもありませんから」
「余程のことがない限り前進守備も敷かない」と広岡 正信監督。
「1点はあげるけど、1点しかあげないよ、という守り方がうちの基本です」
このこだわりの裏にあるのは「相手にビッグイニングを作らせる要素を限りなく排除する」という考え方だ。
「うちの野球は言うならば『ローリスク、ローリターン』の野球です。ゴルフに例えればOBの可能性をとことん排除した攻め方。バンカーのそばにあるピンを直接狙っていくようなことはせず、花道から安全に攻めていく。トーナメントにおいてはこの戦い方が一番強いのではないかと思っています」
6年ぶりの聖地へ!
「全体練習の時間は短いのですが、各選手の自主練習の質が高いので、個人個人の技量が上がり、ひいてはチームのレベルも上がっているのだと思う」と勇 威広主将。
広岡監督は「うちの子らは頑張り方をよく知っている」と証言する。
「うちの野球部に入部するためには高校の入学試験を突破するほかありません。関西学院で野球がしたいからと、小学校の頃から塾に通い、野球と受験勉強を両立しながらオール4以上を叩きだしてきた子たちが大半です。高校の入学時点で、頑張り方を知っているし、うちの野球部で高校野球ができる喜びも日々抱きながら練習が出来ている。1を言えば10を知れる『打てば響く子』が多いので、自主練習の質は確かに高いですね」
70年ぶりに果たした2009年夏の甲子園出場が関西学院高校の受験を志す、大きなきっかけとなった選手も少なくない。ともに最速140キロを誇る潜在能力抜群の関西学院投手陣の二本柱・谷川 悠希と舞田 航は口を揃え、こう言った。
「小学6年生の時の先輩たちの甲子園での雄姿を見て、絶対に関西学院で高校野球をしたいと思いました」
勇主将は言う。
「まだ高校野球は終わっていませんが、今の時点で関学で高校野球がやれてよかったと言い切れます。全員野球でチーム一丸となり、必ずや甲子園に行きたい思っています!」
6年ぶりの「夏の兵庫のてっぺん」を目指す戦いが間もなく始まる。
(取材/文=服部 健太郎)