Column

履正社高等学校(大阪)

2015.06.09

 大阪桐蔭と常に大阪府の覇権を競ってきた履正社を直撃。この夏、5年ぶりの甲子園出場を果たすためにテーマにしていること。またこの夏のキーマンについて伺った。

指示待ちの選手は到底生き残れない

(なんだか高校の練習というよりは、社会人野球のチームの練習を見ているみたいだなぁ)
大阪府茨木市に位置する履正社の硬式野球部グラウンド。「やらされている」という雰囲気が皆無の履正社ナインの練習風景をネット越しに見ながら、そんな感想を心の中でつぶやいていた。

ノックの様子(履正社高等学校)

 履正社の練習スタイルは高校野球のチームとしては異色の部類に入るのかもしれない。投内連係やシートノック、シートバッティングなどの全体練習を除けば、投手、野手共に練習メニューは選手個人の裁量に任されており、指導者に対する練習内容の報告の義務もない。高い意識を持った集団の成熟した練習光景が「社会人野球」というワードを連想させたのだろう。

「社会人野球みたいなチームに見える?それは嬉しいお言葉ですね」
出迎えてくれたのは履正社を率いて29年目の岡田 龍生監督だ。

「まだまだ遠く及びませんが、目指す高校野球チームの理想形はそこです。そんな自主性に溢れた意識の高い集団が作り上げられたら、高校野球の世界においては相当なアドバンテージになると思います」

岡田監督は「指示待ちの選手はうちのチームでは到底生き残れない」と断言した。

「サボるのも自由ですから、楽をしようと思えばいくらだってできる。でもサボっていたら自分がおいていかれるだけ、ということも選手たちはよくわかっているし、『やらされる』練習の方が楽だということも選手たちは実感しているはず。
近年、うちの野球部のOBたちが大学や社会人、プロで結果を出しているケースが多いですが、それは高校時代にやらされる練習ではなく、自分自身の頭で必死になって考える習慣が高校生の段階で身についていることが大きいんじゃないかと思っています」

「完全投票方式」はチーム成熟度の証

 履正社では公式戦のベンチ入りメンバーを選手間の投票で決めることが珍しくない。
「選手間の投票を100パーセント採用する年もあれば、参考どまりにする年もあるし、指導者の方で一方的に決める年もある。毎年完全投票方式でやると決めてしまうと部員同士が好かれようとして、人気投票のようになってしまう恐れがあるので」と岡田監督。

「でも人気投票のような投票になったらこの完全投票方式は即廃止にするということを今の選手たちはしっかり理解しています。だから昨年の春夏、そして今年の春はすべて完全投票方式にてベンチ入りメンバーを決めました」

 そして、その投票結果は指導者の思いとぴたりと一致したのだという。
「仲間を客観的に評価できる成熟したチームが出来上がれば、必ずといっていいほど、指導者サイドの思いと投票の結果が一致するんです。誰が普段サボりがちなのか、といったことを一番わかっているのも選手同士なので、指導者の前でだけ頑張ってることをアピールする選手は絶対に投票で選出されることはない。

 だから一見自由な練習システムなようだけど、選手たちにとっては1番気が抜けない環境なんです。指導者が見てようが見てまいが関係ない。手を抜いた瞬間、チームの競争からおいて行かれるわけですから」

 今年の夏はどのようにメンバーを決める予定なのだろうか?
「今のチームは意識の高い、信頼のおける集団です。現段階では春季大会に引き続き、選手による完全投票式でいく予定にしています」

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
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履正社流「夏の決戦前の追い込み論」

練習風景(履正社高等学校)

「うちの場合は練習時間が長いわけじゃないので、走り込んで体力的にガンガン追い込みたくてもなかなか難しい面があるんですよ…」

 高校球界では厳しい夏の戦いを乗り切れるよう、5月から6月にかけての時期に体力的に追い込んだ状態をいったん作り、そこから夏の予選本番に向け、ベストの状態に仕上げていく、という調整法を採用しているチームが昔から少なからず存在する。しかし履正社の平日の練習時間は16時半からの約3時間と決して豊富ではなく、体力的に追い込む練習をするとどうしても技術練習の時間を削るはめになってしまう。

「でも技術練習は削りたくないんですよね。だからノックのような、ボールを使った技術練習を行う中で体力的に追い込んだりするくらいのことしかできない。だからうちのチームでは体力面で追い込む、というよりは、夏の本番前にメンタル面を追い込み、精神的プレッシャーをかけていくことを重要視するようになりました」
岡田 龍生監督。具体例としては、5月から6月の時期にかけ、練習試合におけるA戦とB戦のメンバーを頻繁に入れ替えることを毎年徹底しているのだという。

「4月に入学した1年生も交えながら、メンバーを毎週、大幅に入れ替えていきます。競争をあおることで、これまでレギュラーだった選手たちにも危機感を抱かせ、全員から安住の地を奪うことで、強いプレッシャーをかけていく。最後まで競わせることでチーム全体も活性化していきます。技術練習を削ってまで体力的に追い込むより、はるかに効果が高い『夏前の追い込み方』だと実感しています」

夏の鍵を握るのは投手陣!

「現チームは去年のチームと比較すると走力、打力のレベルがどうしても落ちるため、野手陣の全体的な底上げが冬の間の最大の課題でした。打撃面ではパワー不足を補うべく、ウエイトトレーニングを充実させながら、打つ量、振る量を例年以上にこなしました。その甲斐あって、パワーはかなり向上しましたね。あとは対応力を上げていければ」と岡田監督。

「夏のキーマンは?」という問いをぶつけたところ、
「ピッチャー陣です。溝田 悠人永谷 暢章寺島 成輝。この3人が大きな鍵を握っています」
との答えが即座に返ってきた。

 春季大会は3人をローテーションで先発起用し、継投も交えながら県3位の座をつかんだ。
「夏も特に軸となる投手は決めず、春のような投手起用になる可能性も十分あります」

 岡田監督による履正社三本柱の寸評をお願いしたところ、次のようなコメントを頂くことが出来た。
「3年生右腕の溝田は球速は130キロ台後半ですが変化球がいい。ただし、変化球に頼りすぎて狙い撃ちされる側面がある。ボールが高めに浮くと持ち味が出ない投手なので、低めにどれだけ丁寧に集められるかがポイントの投手です。

 同じく3年生右腕の永谷は最速147キロのスピードボールが持ち味のピッチャー。高校最後の冬を超え、平均球速が上がり、投球にまとまりが出てきました。

2年生左腕の寺嶋も一冬を超えストレートのスピード、キレがぐんとアップした投手。課題は変化球のキレ。変化球で空振りが奪えるようになればもうワンランク上のピッチャーになれますね」

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履正社三本柱を直撃!

「鍵を握る3人にぜひ話を聞いてやってくださいよ」
岡田 龍生監督のはからいで練習中の永谷、溝田、寺嶋の三選手に話を聞くことができた。昨秋から取り組んできたこと、そして今夏に向けてのコメントを一人ずつ紹介したい。

永谷 暢章

永谷 暢章(履正社高等学校)

「股関節、肩甲骨の柔軟性の向上をテーマにオフシーズンを過ごしてきました。春先の調子はもうひとつでしたが、気温が上昇するにつれ、納得のいくボールが投げられる割合が増えていきました。夏までにもう一度体を絞り込んで万全の状態に持っていきたいと思っています。

 ぼく自身がもうワンランク上のピッチャーにならないとこの夏は勝てないと思います。もう一回甲子園のマウンドで投げたい。その一心で日々練習しています」

溝田 悠人

溝田 悠人(履正社高等学校)

「課題と感じていた体全体のパワー不足の解消をはかるため、オフの間は走り込みとウエイトトレーニング、そして食生活の改善に積極的に取り組んできました。その甲斐あって、ボールのキレと変化球の制球力をワンランク向上させることができました。
この夏は、立ち上がりに点を取られる悪い癖に留意しながら、粘り強く、ホームベースを踏ませない投球を展開していきたいです」

寺島 成輝

寺島 成輝(履正社高等学校)

「昨秋はストレートの威力不足を感じていたので、冬場にウエイトトレーニングに積極的に取り組みました。一冬超え、球威はかなり上がったと思います。ピッチング面の課題は低めにボールを集められるようにすることと、決め球になりうる変化球を身につける事。『先輩達と共に甲子園に行きたい!』という一心で毎日の練習に励んでいます」

 3人が口を揃えて強調していたのが「この学校を選んで本当によかった。素晴らしい高校野球生活が送れています」という喜びと感謝の気持ち。
「よきライバルであり、最高の仲間であるこの3人の力を結集してはじめて甲子園が現実のものになるのだと思う」と語る3人の表情は、これ以上ない充実感で溢れているように感じられた。

 岡田監督は言う。
大阪桐蔭さんとの大阪2強などと言われますが、力はうちの方がぐんと落ちる上、大阪にはほかにも強いチームがたくさん存在します。そんな激戦区の中、府大会5回戦どまりだった秋を経て、はなんとか3位までこぎつけることができました。夏に向けて、チームの力は順調に上がっています。十分甲子園を狙えるところまできていると思います」

 この夏、履正社の熱い戦いに要注目だ。

(取材/文=服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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