逆境下「別府に活気を」明豊指揮官が宿した執念
3月19日に開幕する選抜甲子園大会で、出場校の中で唯一3年連続の出場権を掴んだのが大分の明豊だ。昨秋は安定した投手陣と、全8試合で1失策の堅い守りを武器に九州大会ベスト4に進出。安定した戦いで出場権をたぐり寄せた。
だが、チームを引っ張る幸修也主将は振り返る。「新チームがスタートしたときは最弱の世代だと監督に言われ、不安な中でのスタートでした」
そんなチームが選抜甲子園出場を掴むまでに、一体どんな成長があったのだろうか。
「最弱のチーム」半分は本音、半分は奮起を
練習を見つめる川崎 絢平監督
明豊の所在する大分県別府市は、九州でも指折りの温泉街。海沿いに面していることから冬場は風が強く、毎年張り詰めたような寒さが多くの観光客を迎え入れるが、今年は例年と大きく様子が違う。新型コロナウイルス渦で観光客は遠のき、飲食店も夜間営業自粛により厳しい状況が続いている。
川崎 絢平監督は言う。
「別府も観光がメインの土地ですが、コロナ渦で沈んでいますし暗いニュースが多い状況です。選抜で活躍して、もう1回別府に活気を持って来れるようにしたいと思っています」
そんな地元・別府市の出身である幸(ゆき)修也主将の下で、スタート切った今年の明豊。県外から越境入学をしてくる選手も多い中で、別府市立北部中の軟式野球部出身の幸はとりわけ珍しい存在であったが、前チームから試合出場のチャンスを掴んでおり、甲子園交流試合も出場。
川崎監督曰く「厳しさと責任感を持った選手」で、そんな幸のリーダーシップに引き上げられるように、当初は力が無いと思われていたチームは堅実に秋季大会を勝ち上がっていった。
「最弱のチームと言ったのは、半分は本音、半分は奮起を促したと言うか。そう言われることに対して何くそと思って這い上がってきてくれないと、今のままでは甲子園は厳しいなと思い、僕にとっても大きな賭けでした。
こういう時代で、否定をしたり突き放すような指導はあまり良しとされませんが、交流試合で3年生が甲子園球場での試合を見せてくれたので、その熱で『また甲子園で野球がしたい』と思ってくれればプラスになるはずと思いました」
実際、川崎監督の思いは選手たちにも届いていた。主将の幸は、危機感の中で秋季大分県大会を戦い抜き、またベスト4に進出した九州大会にも決して満足していないと思いを口にする
「結果だけを見れば、ベスト4で甲子園出場が決まってよかったなと思うかもしれませんが、明豊は優勝しないといけません。満足せずに練習することと、試合では気持ちの部分で隙が出てしまったので、しっかり改善していきたいなと思います」
「執念」とはボールに顔を近づけること
今年の明豊を率いる幸(ゆき)修也主将
秋季大会では、8試合で1失策の鉄壁の守備力が勝ち進む上での大きな土台となったが、その守備力を作り上げたのが気持ちの強さだ。川崎監督は今年のチームの強みを「言葉に対してすぐに表現してくれること」と明かすが、その一端はシートノックの中に見えた。
ライン際、三遊間、二遊間、一、二塁間、捕球できるかできないかのギリギリの打球を打ち続ける川崎監督に、選手たちは怯まず食らいついていく。
ノックの前に川崎監督が口にした「執念とはボールに顔を近づけること」の言葉を、声とプレーで必死に体現しようとする姿勢がひしひしと伝わってくる。
新チーム結成以来、幸がシートノックでこだわってきたのは「緊張感」だという。
「自分たちの代から、ノックでは緊張感を大事にしてきて、その緊張感が試合にも生きてきたと思っています。監督さんも執念という言葉を仰っていますが、特に今年は守備からリズムを作らないと勝てないし、そういった危機感を常に意識してやっています」
その中で昨秋、唯一課題として残ったのが打撃力だ。
九州大会では、初戦の九州国際大付戦、そして準々決勝の神村学園戦と終盤の集中打で何とか逆転勝利を収めたが、序盤から相手にプレッシャーを与え続ける打力はまだ無いと川崎監督は考えている。この冬は体を大きさや強さ、バットを振る力を重点的に鍛え上げ、また例年よりも守備の割いて実戦形式の打撃練習も多く行ってきた。
取材に伺ったこの日(2月中旬)も、投手がマウンドから投げ込むボールを打つ「一本バッティング」を午後に行い、また川崎監督自身もマウンドに立ち、力のこもった直球や変化球を選手たちに投げ込んだ。
「本当に投げれる投手がいれば、どんどん実戦形式で投げさせたいと思っています。春はいかに実戦の感覚を取り戻すかが大事で、練習試合が解禁されても日数が少ないので、できるだけ自分のチームで実践感覚を身に付けさせたいと思います」
実戦感覚はここからどんどん取り戻していく段階だが、バットを振る力に関してはここまで一定の手応えを掴んでいる。秋季大会で安定した投球を見せた三本柱・京本 眞、太田 虎次朗、財原 光優もここまで順調にトレーニングを積んでおり、3月から仕上げは最終段階に入る。
目標はもちろん、2年前のベスト4を上回る日本一だ。
「昨年のチームは日本一という目標を大きく掲げやってきましたが、もちろん今年も継続しないといけないですし、それを本気で目指している集団であれるかどうかが大事だと思います。毎日本気で『日本一』という言葉を掲げながら、選抜甲子園でもしっかり戦っていきたいと思います」
冷たい海風が、今年は寂しさとともに別府の町に吹きつけるが、その逆風に抗うように川崎監督と選手たちは選抜甲子園への準備を進めている。
(取材=栗崎 祐太朗)