1週間で600球。140キロ投手揃いの県立岐阜商の投手陣が実践する投げ込みの真意とは
今、野球界において球数問題の議論が熱くなっている。それは試合だけではなく、練習においての球数も含まれている。今回、大きな議論を生まれそうなチームがある。
それが岐阜の伝統校・県立岐阜商である。秀岳館を3季連続の甲子園ベスト4に導いた名将・鍛治 舎巧氏に就任して以来、2年連続の秋季東海大会準優勝。センバツ出場を決めている。
鍛治舎監督の指導方針といえば、パナソニックで専務を務めた経験もあり、一般社会人でも切り離せない「PDCA」システムを導入し、選手のバイタリティ向上を図り、結果的にパフォーマンスを飛躍的にレベルアップし、伝統校を復活させることができた。
本題に入ると、県立岐阜商はオフ期間、1週間で600球。かなり多いと感じる方が大半だろう。これは意見が分かれるのは承知だが、卓抜とした視野の広さでマネジメントし、結果を残す鍛治舎監督の方針をぜひご覧いただきたい。
150球の投げ込みに込められた細かなルール
県立岐阜商のピッチング練習模様
県立岐阜商では冬場のシーズンに入ると、投手陣にブルペンに入る際には150球投げ込むように指示する。週4日実施し、1週間当たり600球投げ込むようにしている。狙いは1試合完投できるだけのスタミナや筋力といったフィジカル面の強化を図っている。鍛治舎監督は現在の「1週間500球の球数制限」もあることも踏まえ、狙いを次のように話す。
「球数制限もありますので、完投能力のある選手を複数枚で繋いでいく。プロ野球のオールスターのようなイメージで、ベストな状態の投手を短く繋ぐことが一番良いと思っています」
もちろん闇雲に投げ込むものではない。150球の投げ込みの中には細かなルールが設定されている。
・50球はストレートによる全力投球
・50球はストライクゾーンの四隅を狙った制球力向上
・50球は変化球を投げ込む
投手それぞれの持ち球などによって多少の変化はあるが、基本ベースは上記の枠組みとなっており、それに従ってブルペンで投げ込みを行う。
さらにこの投げ込みには数字を重要視し、強化を図る鍛治舎監督の方針ならではの取り組みがある。この投球練習の際中、球速を測って最速と平均球速などを指導者が持つメディカルチェックなども明記された専用シートに記入。日々の変化を書き記しながら、選手と指導者間でコミュニケーションが取れることで「週4日150球投げてもケガはしにくいと思います」とエース・野崎 慎裕は実感している。
きめ細やかな管理の中でレベルアップに余念がない選手たちが、この制限をどのように感じているのか。
「最速とアベレージの更新を考えて全力投球の時はやりますし、前回できなかったからこそ次は意識をもって取り組めるので、効果はあります。スタミナも向上しましたし、沢山投げるからこそ、不足している筋力を感じ取れるので、凄く意味のある練習だと思います」(野崎 慎裕)
なぜ投手の球速を測るのか?
キャッチボールをする野崎 慎裕
速球、変化球も必ず球速を測る理由は選手の状態を確認するだけではなく、最速に対して、40キロ差を付けた緩急のボールから、10キロ毎に使えるボールを持つように指導をしている。
エース野崎の持ち球から一例を挙げると、
140キロ台:ストレート
130キロ台:高速スライダー
120キロ台:チェンジアップ
110キロ台:スライダー
100キロ台:カーブ
という球速帯に分類される。こうすることで、ピッチングのなかに微妙な緩急を付けることを可能にして、相手打者のタイミングを外すことを可能にしている。現在はピッチトンネル理論がかなり浸透され、高校野球でもそれを意識する投手が増えてきた。しかしそれを実践するには自分の持ち球の球速を常に可視化できる状態であること。必ず速球、変化球を投げ、球速を測るのは、自分の現在地を見出すには合理的だ。
さらに練習試合における投手起用にも考えがあることを鍛冶舎監督は説明する。
「冬場は週4日150球投げていますが、春の大会が落ち着いた5月になったら、完投能力を身につけてもらうために1試合投げてもらうようにしています。そこで力を付けてきたら、6月から夏の大会に合わせて継投での起用に変えています」
現時点では「3枚目となる投手が出てきましたので、投手層は少しずつ厚くなってきました」と東海大会の決勝戦から投手陣がたくましくなってきたことを鍛冶舎監督は実感している様子。それに続けて、1年生の能力の高さに期待を寄せていた。
「下級生は団子状態で、良い変化球を持った投手が6、7人いるので、夏だけではなく秋以降も楽しみですね」
野手だけではなく、投手陣もきっちりとした指導体制の下で鍛え上げていき、選手層を厚くする県立岐阜商。昨秋のベンチ入りした投手陣4人は既に140キロを超える速球を持っている。
この方針で成長するには、相当な心身が逞しく、感性の良さ、インテリジェンスを持った投手ではないと成長できないといえる。
だからこそいろいろな意見はあるだろう。凄いのは鍛治舎監督は指導方針に対しても包み隠さず、オープンに話してくれること。そしてこれまでの取り組みにもいろいろな意見はあっても、それを貫く信念を持った指導者であることだ。各選手を取材していくと、チームの方針を理解し、ハードな練習を乗り越えて、絶対に上にいく!という覚悟が感じられた。
もちろんハードではあるが、細部まで突き詰めていくと、段階的にクリアをしていけば、同じ高校生でも一歩上をいく投手へ成長できる要素を秘めていることだ。
どの学校にも負けない徹底とした量と質を追求した県立岐阜商。果たして、センバツでは投手王国らしいパフォーマンスを発揮できるか。
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(取材=田中 裕毅)