作新学院を破った石橋(栃木)が21世紀枠の推薦校に選出されるまで【後編】
栃木の高校野球を牽引するチームといえば作新学院を思い浮かべる人が多いだろう。過去には甲子園優勝やプロ野球選手も輩出する高校野球界の名門校の1つ。その作新学院を秋季県大会で破ったのが、公立校・石橋だ。
4年ぶりとなる関東大会出場を決め、初戦の東海大相模に敗れたものの、12日に栃木県の21世紀枠の推薦校に選出された。初の甲子園出場に胸が膨らむ石橋の現在を知るべく、グラウンドへ足を運んだ。
今回はチームスタート時から、現在までの歩みを見ていきたい。
前編はこちらから!
21世紀枠推薦校!平日2時間練習の石橋(栃木)はなぜ作新学院を破ることができたのか?【前編】
エース・篠崎晃成の覚醒
投球練習を行うエース・篠崎 晃成
「(ここまでの結果が出ることは)全然考えていませんでした。秋の大会の組み合わせも強いところに入ってしまった印象がありました」(福田博之監督)
夏は3年生主体のチームで挑み、2回戦・小山北桜の前に敗れた。そこから新チームをスタートさせたが、カギを握ったのは主将の小林到だった。
「キャッチャーの小林は本当に技術も心もしっかりしているので、小林中心のチーム作りと言うことで、バッテリー中心に守りからリズムを作って少ないチャンスを掴むチームを目指しました」
そんなチームの大黒柱となった小林は「旧チームと比較すると、力はなかったので、ベスト8までいければいいかな」と思っていたとのこと。ただ、他の選手からは「1回戦も勝てるかどうか」という不安だった声も聞こえた。
チーム全体として関東大会出場までのビジョンは描けていなかったが、守備からリズムを作るべく、夏休み期間中に石橋はシートノックやゲームノックなどを実施。特に石橋の場合は練習環境に制限があったこともあり、こうした練習から実践感覚を養い、練習試合をこなす形で、秋に向けて仕上げていった。
そうしていくうちに、エース・篠崎晃成が調子を上げていく。福田監督の中では「好不調の波が激しかった」とスタート時は感じていた。だが、秋の大会前に組んだ明秀日立との練習試合で、篠崎が4安打に抑える好投を見せた。ここから「これくらいの力が出せるようになると面白い」と手ごたえを感じ始めるようになる。
すると、篠崎が監督の期待に応えるかのように県大会で好投。県大会では防御率2.20という内容で準優勝に大きく貢献。優秀選手賞にも選出されるなど、チームの原動力となった。では、篠崎の中で何が変わったのだろうか。
「大会ではチームの勝利を最優先に投げましたが、自分は速いストレートを投げられるわけではないので、低めに投げて打たせて取ることを心がけました。そのなかでもここ一番で集中して投げられるメンタルと技術がついたところが大きいです」
明秀日立との一戦から打たせて取るスタイルに手ごたえを感じ出していたという篠﨑。そのスタイルを県大会でも発揮したことが結果として、チームの躍進を支え続けた。
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齋藤 陽介内野手
石橋の秋の戦いを振り返るうえで、接戦を制してきたことも忘れてはならない。準々決勝・足利工戦のコールド勝ちを除き、全試合が1点差ゲーム。粘り強く戦い抜き、準優勝まで駆け上がっている。指揮官の福田監督は「バッテリーが成長し、篠﨑-小林バッテリーを中心に接戦でもリズムよく守れたことが大きい」と分析する。
小林主将も「1球1球大事に捕れと指導を受けて、その心構えが活きました」と語るが、なぜ練習時間が短い石橋が勝負所で力を発揮できたのか。その答えを齋藤陽介はこのように語る。
「チーム全体で『最後まで諦めずに、集中力を切らさずに』というのを合言葉にように言い続けてきました。諦めない、最後まで集中することが出来たことが勝ちに繋がったと思います」
ただ、集中力を切らないというのは簡単なことではない。かといって鍛えることも難しいものだ。そんな集中力を鍛えてくれていたのが勉学だった。
「授業から集中していないと周りに遅れてしまうので、そこでの集中力もあると思います」(石川慶悟)
「平日は夜7時まで練習して、土日も練習をするので周りよりも勉強時間は短いです。なので、50分の授業で集中をしているので、繋がっていると思います」(齋藤)
関東大会では東海大相模の前に0対7で破れた。「凄い圧力で、全国レベルを肌で感じることができました」と福田監督も苦笑いを浮かべる。それでも栃木県の21世紀枠の推薦校に選出された。
この選出を受けて、「選んでもらったことを誇りに思って、県内の上位校や全国クラス相手に戦える心技体を身につけないといけない責任があります」と嬉しさと責任を同時に感じている。
9地区それぞれの推薦校の発表は12月11日。そこで決まっても2021年1月29日の発表で名前が呼ばれなければ甲子園の道は開かない。まだ先は長いが春に向けて「まずはキャッチボールを含めて守備力。そして140キロを打つスイング力が課題です」と語った。
4年前には関東・東京地区の21世紀枠の推薦校に選出をされながら、選ばれなかった。今度こそ石橋のところに吉報が届くのか。運命の日まで石橋は今もなお練習を続ける。
(記事=田中 裕毅)