先輩たちの背中こそが道しるべ!目標設定とアプローチを大事する大分商【前編】
大分商の注目選手、古江空知主将(3年)、森下颯太(3年)、川瀬堅斗(1年)をインタビューした時に、「目標」という言葉が出てきた。ぼやっとした目標でなく、具体的な目標を伝えてくれる。高校生にして明確な目標を口にできる選手たちに驚かされた。そんな選手を育てた渡辺正雄監督が考える「目標設定」とはなんなのだろうか?
目標設定の重要性
別大興産スタジアムで練習する大分商
渡邉監督が考える、目標設定とはなんなのであろうか?
「こちらが言う目標設定が曖昧だと、生徒がわかりにくいと思うので、じゃあ、目標をここにしよう、その目標達成するためには何をしないといけないのか、そのためには計画しないといけないし、準備しないといけない、実行しないといけない、とキチッキチッと言っています。」
「目標設定ができれば、そこまでの課題も与えますし、良かったとこは伸ばしますし改善が必要なところは、改善しないといけないし、次の機会というのが与えられるのであればその機会までにこうなりなさい、こういう取り組みをしなさい、こういう表情でやらなきゃいけない、こういう立ち姿でやらなきゃいけない、とう言うことはすべて指示を出しますね。」
このコメントの中に、2つの大事な要素を感じる。1つ目は、「明確な目標設定」そして、2つ目は「ゴールまでの道に迷わないためのナビゲート」である。生徒の目標を一緒に考え、そこまでの道筋を示すだけでも、大変なことであるが。その上にもう一つの要素、「ナビゲート」が加わる。これこそが、渡邉監督の考える「目標設定」の真髄だろう。
「常に僕から見られている、ということを言っているので」
その言葉に、ゴールまで一緒に歩む覚悟を感じる。
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大分商・渡辺正雄監督
渡邉監督の財産は、なんといっても源田壮亮(西武ライオンズ)との出会いだろう。指導者として、源田を教える中で多くの経験と、指標を得たのは言うまでもない。実際、渡邉監督はこのように言っている。
「いまプロに行っている、うちの選手はほとんど源田の動きを見て、やっていると思うんですよね。」
「広澤(広沢伸哉・オリックス)もそうですし、初めは本人の中では実績もないし自分ではプロ行けないと。ただ、非常に源田をもとめてやっていましたので源田の一歩目だったり、源田がどう動いているのかを動画などを見て本人も学んでいました。自分自身で実力がどうなのかって分かりにくいので、そこの判断は僕がするようにしていますね。」
「川瀬(川瀬晃・ソフトバンク)にしてもそうですけど、『監督、僕プロいけますか?』って、ただ今の時点ではおそらく無いだろうこの1ヶ月間でここまで出来れば、プロは評価してくれるという風な課題を与えました。そして、そこにスカウトの方が来ていただいてという、タイミングを合わせてその成長具合というのは見せましたね。」
このように、遊撃手の指標は間違いなく源田である。実際の成功事例ほど説得力のあるものはない。これこそが渡邉監督の財産の一つであろう。
一方、投手に関しても、目標設定のためのアンテナを十分に張っている。
「森下(森下 暢仁・明治大)が高校ジャパンに選ばれ、プロの担当スカウトだけじゃなくて、プロの部長クラスの色々な方と話をさせてもらったので、何がどのレベルになれば良いのか、どういう所を見ているのか?何を基準にされるのか?そういうものは僕の中で全て持っているので、それを当てはめて行きましたね。」
森下を指導した経験、そしてその時に得た知識こそが目標を明確化できる背景に違いない。
目標を明確にさえすれば、後は道をずれた時に、ナビゲートして戻してあげれば良い。渡邉監督の目標設定の秘密が垣間見えた気がする。
[page_break:NPBを目指す子だけじゃない、全ての生徒に必要な目標設定!]NPBを目指す子だけじゃない、全ての生徒に必要な目標設定!
「川瀬にしても、笠谷(笠谷俊介・ソフトバンク)にしても一緒ですね。あの子達はNPBでのスペシャリストを目指していった、ただ会社でのスペシャリストを目指している子にも同じように、話は全員にしていきます プロを目指す道、自分は営業マンとして目指す道、その辺のことも含めて全てはつながっている。ただ、その道が違うだけで、実際は一緒ですね。」
渡邉監督は、目標を目指すという行為自体は、どこでも通用する同じ考え方と言う。
「プロ野球選手で偉いとか勘違いするな。お前ら特別じゃないというのは常に言っているんです。ただその道で頑張っているだけでお前ら以上に社会で頑張っているやつもいるんだから、だからみんなに認められて、みんなに可愛がられるようなプロ野球選手になれと。プロ野球選手になるのが全てではないので、組織中で愛される選手になろう!というのを大分商業の選手は目指していこうと言っているので、」
プロ野球選手であろうと、他の職業であろうと、その組織で愛される人間になる。これこそが、渡邉監督の目標設定の真髄だろう。
大分商・渡辺正雄監督
編集後記
目標の設定方法についてインタビューしましたが、実は目標へのアプローチについてもとても興味深いことをおっしゃっていました。
「周りからは自由って言われるんですよ。自由とか何も教えないとか色々言われるんですけど。本人たちが自分で何を考えて、どうやるのかって、その確認の作業だけ見ていますね。『お前今日どうした?なんでこのぐらいしか投げなかった?』って言った時に、ピッチャーが『実は、こうこうこうで、こういう風な理由がありました』ってことがあれば何も言わないです。」
渡邉監督のアプローチは、自由ではなく、自分で考える力をつけさせるアプローチなんですね。
(文=田中 実)