目次

【目次】
[1]昨夏、横綱・大阪桐蔭に襲った悲劇
[2]考えてやらないと意味がない
[3]ノートの充実が野球の上達にも直結


 いまや、誰もが認める「横綱」――大阪桐蔭高校である。春夏通じて7度の甲子園制覇。出場19回にしてその成績は57勝12敗。圧倒的だ。いかにしてこの強さは作られてきたのか。ベストセラーシリーズの最終巻『野球ノートに書いた甲子園FINAL』には、球児、指導者たちが全力で夢へと向き合った「言葉」があった。今回は、本書に収録された、大阪桐蔭高校の野球にとどまらないその「力」に迫る。

昨夏、横綱・大阪桐蔭に襲った悲劇



昨夏の3回戦・仙台育英にサヨナラ負けを喫した瞬間(写真=共同通信社)

 なぜ、セーフ?
 一塁塁上には仙台育英の選手が胸をなでおろした様子で立っている。甲子園球場がざわついていた。いや、多くはすでに大阪桐蔭の勝利を喜び、仙台育英の敗退を嘆いていた。整列が始まらない。内野手は途方に暮れた様子で一塁塁審を確認した。塁審は、セーフを宣告しなおした。

 第99回全国高校野球選手権3回戦、春の甲子園の覇者・大阪桐蔭仙台育英の一戦。名門校同士の一戦は、引き締まった好ゲームとなっていた。7回まで0対0。8回表に大阪桐蔭がようやく1点を入れると、そのまま9回裏2アウトまで試合は進んだ。大阪桐蔭の勝利まであとアウトひとつ。
 しかし、仙台育英も最後の意地を見せ、5番・杉山 拓海がセンター前ヒットを放つと、盗塁を決め2死2塁のチャンスを作る。次打者・渡部 夏史はボールカウントが先行したことで敬遠気味に歩き一、二塁。7番は途中からファーストについていた若山 壮樹、その初球を叩いた打球は……平凡なショートゴロだった。

 大阪桐蔭のショート・泉口 友汰がなんなく捕球し、一塁へ。完璧な処理、試合終了のはずだった。それが「セーフ」。
 なぜ――?

 その理由が分かっていたのは、目の前でプレーを見ていたファーストコーチャー佐藤と、ファーストの2年生、今大会注目のスラッガー・中川 卓也本人だけだったであろう。それも確信ではなく、可能性のレベルの話である。セーフかも、しれない……。

 2アウト満塁となった試合の結末はあっけなかった。仙台育英のサヨナラ逆転勝利。1対2で、優勝候補筆頭、春夏連覇を目指した大阪桐蔭の夏が終わった。あのシーンは高校野球ファンの間では広く語られるものとなったが、中川の右足はファーストベースを踏んでいなかった。サヨナラ負けの瞬間、泣き崩れた2年生は「あと1アウトからあせってしまったことと実力不足で、試合を落としてしまった。3年生に申し訳ないです」と声を絞りだした。