「理想のフォームの作り方」
上原投手のフォームは独特で、野手投げと言われることも多い。だが上原投手はそのフォームでも、高度な投球を生み出している。一体、どういう考えでフォームを築き上げているのか? そのコツについて伺ってみた。
理に叶っているなら野手投げでもOK
抜群の制球力を生み出しているのが、メジャーの選手から「球の出どころが見づらい」と評される投球フォームだ。「球の出どころが見づらい」ため、平均すると140キロ台前半と、球速表示的にはさほど速くないストレートが、打者には数字以上に感じるという。
上原 浩治投手(ボストン・レッドソックス)
「“球の出どころが見づらい”のは野手投げだからでは。周りからもよく野手投げだと言われるんですよ。テイクバックが小さく、すぐにトップの位置に入るので、打者はそう感じるのでしょう」
上原投手は、理に叶っているのであれば、投手でも野手投げでいいと考えている。
「高橋 由伸の投げ方、僕はあれが1つの理想の投げ方だと思うんです。捕ってからすぐに手をトップの位置に持っていく野手投げですが、それでとてもきれいな真っ直ぐを投げる。外野からそういうボールを投げられるなら、マウンドからでも投げられると思います」
上原投手は巨人時代、「走っているか、打撃投手をしているかだった」(東海大仰星高時代の西監督)という高校時代同様、「ほとんどブルペンでの調整はせず、よく外野でノックを受けていた」(上原投手)そうだ。
ちなみにレンジャーズではチームメイトになった建山 義紀(元阪神)投手に次ぐ二番手だった高校時代、上原投手は2年秋は、一番・センターだった。
メジャーに対応するためフォームも修正法も変わった
ところで上原投手のフォームはいつ作られたのか?西監督は「(東海大仰星高に)入学した時からクセのないフォームで球筋もきれいだった」と述壊していたが、上原投手は「小学生の時に遊びの中で自然に作られたフォームが原型で、それからあまり変わってないのでは。フォームについては誰かに教わった記憶もありません。僕はずっとこの投げ方ですし、この投げ方しか知らない」と話す。
上原 浩治投手(ボストン・レッドソックス)
メジャー移籍後は、メジャー特有の硬くて傾斜がきついマウンドも影響し、左太ももの裏を痛めたことから、少しフォームを変えた。
「日本時代は投げ終わりの時、左足1本でピンと立つ感じだったのですが、これだと、もも裏に負担がかかるので、ピンと立つ前に、本塁寄りに力を逃がすフォームにしてます。参考にしたのは(07年に投手三冠を獲得した)ジェイク・ピービー(ジャイアンツ)とヒース・ベル(ナショナルズマイナー)のフォームです。それと始動の時のグラブの位置だけですが、(メジャー通算354勝の)ロジャー・クレメンス(元ヤンキース)の投げ方も意識してるかな」
また上原投手は「打者によってはフォームのタイミングをずらしている」そうで、「苦手なバッターに対しては、右足や左足の使い方を微妙に変えることで、打者の間合いを外すようにしています」
上原投手は自身のフォームについて「完成することはない」と考えている。「その時の体調や、試合の時の気候などによって、投球フォームは変わるもの」とも言うが、メジャーではフォームの修正方法も変わった。「日本時代は全く見なかった試合時のビデオを見て、フォームをチェックするようになった」という。
「メジャーはこちらから聞けば助言をしてくれますが、日本のコーチのように向こうから何か言ってくることはありません。こちらから訊ねる時も“自分はこう思うけど、あなたはどう思うか?”と意見をぶつけ合うのが米国のスタイルなので、アドバイスを求める時は、自分の現状をしっかり把握しておかなければならないのです」
理想とする投球フォームは投手にとって永遠のテーマだ。だが、その投手にとって理想のフォームは、その都度、変わっていく。上原投手は独自の考えで、自分のフォームを作り上げ、第一線で活躍をしてきた。
最終回は、上原投手のメンタリティの強さ、トレーニングに取り組む姿勢に迫っていく。
(文・上原 伸一)