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地域に愛される公立進学校・仙台一 文武両道貫き夏こそは「自分たちの力で」甲子園へ

2024.01.30


(左から)藤原啓内野手、千葉綾太投手、安藤舜投手、小川郁夢捕手

宮城県内屈指の公立進学校である仙台一。硬式野球部は1897年創部と県内で最も古い歴史を持つ。昨年は春、秋の県大会で3位に入り、春は38年ぶり、秋は17年ぶりとなる東北大会に出場するなど躍進。その実績や文武両道ぶり、長年続けてきた地域貢献活動が高く評価され、今春センバツの21世紀枠東北地区推薦校に選出された。

26日に開かれたセンバツ選考委員会で21世紀枠には別海(北海道)と田辺(和歌山)の2校が選ばれ、仙台一は補欠校となった。1950年夏以来、74年ぶりの甲子園出場は逃したが、主将の小川 郁夢捕手(2年)は発表直前の取材で「大事なのは夏に甲子園にいけるかどうか。夏は選んでもらうのではなく、自分たちの力でつかみ取らないといけない。地力をつけて、粘り強いチームになりたい」と話していた。悔しさをかみしめながらも、選手たちは夏に向け走り出している。

仙台一はどんなチームなのか、どんな選手がいるのか。2017年秋から指揮を執る千葉 厚監督と、小川を含む仙台一ナインに話を聞いた。

「地域密着」を物語る最寄り駅の専用駐輪場

仙台一の校舎は、仙台駅から地下鉄東西線で4分の連坊駅を降りて徒歩1分の場所にある。硬式野球部は以前、校庭で練習をしていたが、1994年以降は創立100周年記念事業で造られた第二運動場を使用している。校舎と第二運動場は7キロ程離れており、選手たちは授業が終わると連坊駅から地下鉄に10分乗って荒井駅まで移動し、荒井駅からは自転車でグラウンドへ向かう。

荒井駅には地域住民の計らいで、硬式野球部専用の駐輪場が設置されており、駅周辺ではグラウンドへ向かう野球部員に激励の言葉をかける人の姿も見られる。それは、長年にわたって駅周辺の清掃などの活動を行っている仙台一が、地域に根ざし、愛されるチームであることの証だ。

また、海岸から約3キロに位置する第二運動場は、2011年の東日本大震災で津波の甚大な被害を受けた。練習再開までに約1年を要し、その後は部員による海岸防災林の植樹活動などを通して、震災の記憶を紡いできた。仙台一硬式野球部の活躍が、ともに歴史を歩んできた地域住民の希望になっている。

東日本大震災で津波の被害を受けた第二運動場(仙台一硬式野球部提供)

「4番・捕手」の主将は“縁の下の力持ち”

現在の部員数は41人(マネージャーを含む)。千葉監督は「スーパースターがいるわけではないが、起用する選手全員がそれぞれの仕事をして、全員でカバーし合える戦力がそろっていた」と昨年の躍進の要因を分析する。春、夏の時点で主力メンバーだった2年生が多く残っており、選手間でうまく連携が取れていることから、守備力が高いのも強みの1つだ。

そんなチームで攻守の要を担うのが、昨秋「4番・捕手」を務めた小川主将。理想の主将像について、「自分は引っ張っていけるタイプの人間ではないので、誰も気づいていないことに気づいて行動に移せる、縁の下の力持ちのような存在になりたい」と話す。捕手としても「それぞれの投手の良さ、特徴を最大限に引き出す」ことを第一に考え、日頃から投手陣との綿密なコミュニケーションを心がけている。

一方、「バットに球が当たった時の飛距離は誰にも負けない」と話すように、打席では誰よりも目立つつもりでいる。また野球を始めた小学3年生の頃から「自分のプレーで人を笑顔にしたり、小さい子どもに希望を与えたりすることができる」プロ野球選手に憧れ、現在もプロ志望を貫く。今年は昨年まで以上に存在感を放ってくれることだろう。

昨秋の県大会で打率.556、2本塁打と打ちまくったリードオフマン・藤原 啓内野手(2年)も打線のキーマンとなる。「秋はすべてのことがかみ合って打てたけど、打てなくなると、とことん打てなくなることが課題」だと自覚し、「打率と出塁率が高く、長打も打てる」打者を目指し、今オフはさらに打撃を磨いている。

夏に向けた意気込みについては、2年連続で夏の甲子園決勝に進出している仙台育英の名を挙げ、「自分たちがずっといきたいと思っていけていない場所で活躍しているのが彼ら。倒して甲子園にいきたい」と力を込めた。熱き思いを持つ男たちが並ぶ打線は、夏に向けまだまだ凄みを増しそうだ。

小川郁夢捕手、藤原啓内野手

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「躍進の秋に「武器」と「課題」を見つけた二本柱」
「東京六大学志望者増、野球も勉強もトップ目指す」

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この記事の執筆者: 川浪 康太郎

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