試合レポート

興南vs未来沖縄

2022.07.28

大健闘の未来沖縄、秋王者の意地を見せた興南

<第104回全国高校野球選手権沖縄大会:興南6−4未来沖縄>◇16日◇準決勝◇[stadium]コザしんきんスタジアム[/stadium]

 昨年秋を制した興南選手の個々の力はやはり群を抜いている。春の出場辞退もあったか逆にそれが選手たちに「本当に最後の大会」という強い思いを与え、より真摯に試合に取り組んでいる、そしてどこよりも勝ちたいという意識を感じた。またそれ同様に、シード沖縄水産を倒しこの大会で成長してきた未来沖縄の「負けたくない」という思いが王者興南を追い詰めるほど終始緊迫した展開。今大会ナンバーワンの好ゲームだったと個人的に思う、両軍あっぱれな試合であった。

お株を奪う先制、すぐに追い付く王者

 興南の先発は秋の優勝に大きく貢献した左腕平山航多。だがこれが夏独特のプレッシャーなのだろうか。未来沖縄の1番、2番に連続して四球を与えてしまう。「せっかく良いストレート持っているのだから、自信を持って投げれば良いのに、変に変化球でかわそうとしてボールにし自らを苦しめちゃった」とは我喜屋優監督。3番を三振に斬った平山航多だったが4番にも四球を与え満塁。

 ここで未来沖縄ベンチは強硬策。5番前田博朱が期待に応える左前安打で三走が生還した。次打者を三振に仕留めた平山航多だったが7番打者へも押し出しの四球。たまらず興南ベンチはエース生盛亜勇太をマウンドへ送った。「僕も経験したが、途中からマウンドへ上がるのはとても難しい。その中でエースらしい立派なピッチングでした」と、ベンチに入ってピッチャー陣を特に励ましていた2010年甲子園春夏連覇のエース島袋洋奨氏(現硬式野球部副部長)が振り返ったように、生盛亜勇太は8番を空振りの三振に斬り難を逃れた。

 追う興南も素早かった。5番安座間竜久がヒットと盗塁を決めて無死二塁とプレッシャーをかける。次打者は遊ゴロだったが焦ったかこれが悪送球となり二走が生還した。さらに興南は3回、2番長田悠が振り抜いた高い打球は右翼のフェンスを越えるソロアーチ。すかさず同点に追い付いた。

 その興南の勢いを止めようと今度は未来沖縄ベンチが動く。ライトに入っていた大城元を4回からマウンドへ送ると、140キロを超えるストレートで興南打線を圧倒。「生盛とは中学で同じチーム。負けたくないという思いが乗った素晴らしいピッチングをしてくれた。」と、未来沖縄の神山剛史監督も惚れ惚れする投球で4回から6回まで僅か1安打3三振と奮闘した。

勝負あったかと思いきや執念の同点。勝ちたい思いと負けたくない思いが交差する

 7回、突如制球を乱した未来沖縄大城元。2つの四球と間の犠打で1死一、二塁とピンチを招いた。ここで興南ベンチは1番仲程雄海にあえて犠打をさせ2死になっても走者を進める。この試合打撃好調の2番長田悠に懸けた我喜屋采配が冴え渡る。その長田は初球を積極的にたたき右前へ運ぶ2点適時打。2回以降、未来沖縄打線をヒット1本に抑える圧倒的なピッチングを見せる生盛亜勇太相手では、これで試合が決まったかとも思われた。

 しかし未来沖縄の8番松田颯太がセンター前へ抜けようかという当たりを放つ。興南二塁手池田琉誠も回り込んで見事な捕球をするも一塁には間に合わず。途中出場の9番伊敷柊大はタイミングが合ってないようにも見えたが、ヤマを張っていた直球にバットが応えて右翼線を破る二塁打。打席に向かう大城元は、自らの失点を帳消しにする左前への安打で二者が一気にホームイン。不沈艦にも見えた生盛亜勇太の140キロ中盤から後半の直球に負けない未来沖縄打線の三連打に、スタジアムはこの日一番の盛り上がりを見せた。しかし生盛亜勇太も最たる者。後続を一ゴロ、捕ゴロと切り抜ける。熱い試合は延長へと突入していく。

島袋洋奨氏や宮城大弥氏を彷彿とさせた背水の陣での三者連続三振斬り

 延長突入直前の9回、未来沖縄はこれ以上ないチャンスを得ていた。9番伊敷柊大が左前安打で出塁すると1番大城元が二塁打を放ち無死二、三塁とサヨナラ勝ち手前まで王者を追い詰めたのだ。

 しかし誰もが想像しない劇場を生盛亜勇太が創作する。2番、3番と連続奪三振!とここでタイムを取った生盛亜勇太。「あれだけの大観衆を前にして動じず、自らタイムを取って喉を潤し自らの間を作って相手の4番を牛耳るように見えました。凄い選手ですね。」とは沖縄県高等学校野球連盟のある先生の言葉。この日10個目となる節目の三振は、9回裏無死二、三塁と絶体絶命に見えたところからの三者三振斬り。このような場面でこのような結果を残せるのは島袋洋奨氏、宮城大弥氏くらいか。彼らを彷彿とさせる圧巻のピッチングは、興南のエースと呼ぶに相応しい言葉に尽くし難い奇跡であった。

 延長11回、両軍野手陣に素晴らしいプレーが飛び出す。まずは未来沖縄二塁手の喜屋武竜弥。2死二塁から興南仲程雄海の打球は中堅手と二塁手の間へ難しい打球だったが喜屋武竜弥は背走しながらスライディングキャッチするスーパープレーでベンチを鼓舞。それに対して興南野手陣はその裏、2打席連続長短打を放っている未来沖縄大城元の打球が左中間へと上がったが、興南禰覇(示へん→ネへん)盛太郎が見事なランニングキャッチ。観る者を唸らせるスーパープレーの応酬は、周囲を興奮のるつぼへと変えていった。

 延長12回、興南は1死となり打席は3番禰覇盛太郎。第1打席にヘッドスライディングで内野安打にこそしたが、この日は明らかに不調。それをフルカウントにまで持っていった執念がここで実る。若干甘く入るストライクをセンター前へ放つと続く4番盛島稜大もコンパクトに振り抜いた。

 が、スイングスピードが誰よりも尋常ではない盛島の打球はとにかく速い。あっという間に左中間を抜いていく。一塁から一気に本塁を陥れた禰覇盛太郎の好走塁も、主将らしい見事なものだった。さらに興南は5番安座間竜久にもタイムリーが飛び出し6点目。試合を決定的とした。その裏先頭打者に四球を与えた生盛亜勇太だったが併殺、ショートフライと難なく三者斬りでゲームセット。149球の熱投でチームを3年ぶり22度目の決勝進出へと導いたのだった。

(文=當山 雅通

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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