試合レポート

熊谷商vs桐生市商vs叡明

2022.06.18

叡明が攻守に力強さ示す。熊谷商は伝統の味、桐生商は主戦欠場でやや苦戦

熊谷商vs桐生市商vs叡明 | 高校野球ドットコム
逆転の二塁打を放った熊谷商・長谷川大輝君

 熊谷商(埼玉)は、JR熊谷駅から秩父鉄道で寄居方面へ3駅行った、ひろせ野鳥の森という駅で下車。そこから、徒歩で約12~13分行くと学校にたどり着く。校舎を通り過ぎて、敷地の奥に整備の行き届いた野球部グラウンドがある。グラウンドは、昭和時代には埼玉県の高校野球を引っ張っていた伝統校らしい佇まいが感じられる。

 このグラウンドの一塁側横の雨天練習場などは、昭和の同校の黄金期を形成した斎藤秀雄元監督がその原型を指揮して造り上げたという。それを知って、野球部活動に力を入れていこうという多くの県内公立校が、それを参考にして自校のグラウンドを整備していったという。そんな背景もあるだけに、足を踏み入れただけで、ピリッと引き締まる気にもさせてくれる。そんなグラウンド力があると言っていいであろう。

 この夏は第104回を迎える全国高校野球選手権大会。その地方大会がいよいよ近づいてきたが、先日の15日には埼玉大会、16日には群馬大会の組み合わせが決まった。具体的な相手が見えたことで、夏本番へ向けての意識は、いよいよどんどんと高まっていくというものである。

 県北部の伝統校として、甲子園出場実績もある熊谷商。この春の県大会は1回戦では獨協埼玉に17対4で大勝。しかし、勇んで挑んだ2回戦では好投手を擁する巧者の武南に0対7と完封で抑え込まれた。夏へ向けては、もう1度攻撃力の強化を進めて行っている。

 この週末は10泊11日の強化校内合宿の最後の2日間となっている。新井茂監督は、「今の3年生たちは、コロナ禍の影響でウチでは恒例となっているこの合宿がこの2年間やれていなかったんですよ。最初で最後となる強化合宿ですが、野球だけではなく、共同生活していくことで、生活スタイルや集団での規律などを体験していきながら、生かしてほしいと思う」と、やっと許可が出て実現できた合宿の成果を期待している。


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センスの良さを示した熊谷商のリードオフマン吉村君

 桐生市商(群馬)の高橋正志監督は、かつては恩師でもある福田治男監督の下で、卒業して早々から母校桐生一のコーチをしながら野球を学んでいた。その後、兄の仕事を手伝いながら大学の通信で教職を獲り、桐生市の職員として教育委員会に採用されたという苦労人でもある。桐生市商の監督となって3年目になる。

 春季県大会初戦は桐生ダービーとなった桐生工との試合を7対4で制したが、次の試合では渋川に完封負け。熊谷商と同様に、好投手に対してどう攻めいてくのかというところも一つの課題になった。ただ、この日の桐生市商は、遠征で向う途中で、投手の柱となる登板予定の選手が体調を崩して、保護者に連絡して戻したということがあって、高橋監督として予定していた投手起用ではなくなっていってしまったということになった。

 そんなこともあって、桐生市商としてはやや苦しい戦いとなった。

 熊谷商との試合では、5回に1死満塁から6番西山尊外野手(3年)の三塁打で3点を奪ってリードした。しかし、「いつもは、5回くらいまでしか投げたことはなかったのだけれども、今日はどれだけ行けるのか試してもたかった」(高橋監督)という須田が7回に、やはりスタミナ切れか、3四球もあって押し出しで1点を献上し、なおも満塁という場面。熊谷商は3番長谷川大輝内野手(3年)が一掃の左中間二塁打で逆転。

 なおも、中島聖道内野手(3年)と高橋希捕手(3年)も長打が続いてクリーンアップの長打連発で一気にひっくり返した。このリードを3人目として登板した石川涼太投手(3年)がきっちり守り切った。

 新井監督は、「合宿終盤でもあり、疲労もあるだろうとは思うけれども、気持ちの強さを示してくれてよかった」と評価していた。

 桐生市商は、叡明(埼玉)との試合では、投手が堪えきれず苦しい展開になってしまった。


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叡明の1年生左腕・高橋君

 叡明は、エース格の野中颯人投手(2年)が力まず自分のリズムでスイスイと投げて、5回を投げて4安打1失点。そして、6回には3番田邉太我外野手(2年)が、豪快な右越え2ランを放つなどして大勝した。中村要監督は、「時々、ああいう一発を打つんですよ。それにしても、よく飛びました」とビックリしていた。

 叡明熊谷商は、今季だけでも、3回目の手合わせということでよく知っている間柄である。中村監督が立正大で、新井監督の5年上という先輩後輩という関係でもある。実は、例年この時期は、立正大出身の指導者たちの学校が集まって、母校グラウンドで“立正大交流戦”を行っているのだが、今年は例年参加している鶴岡東(山形)や和歌山東などが来られないということで中止となっていた。そこで、急遽、この試合が組み込まれたということでもある。

 叡明はかつて、工業系の私立男子校の小松原高校だったが、やがて普通科が設置されて進学コースも強化していった。そして、2015年に越ケ谷レイクタウンに移転したのを機に校名変更し、共学校となった。体育コースもあり、比較的部活動も盛んだ。もっとも、この春の県大会は西武台に2対10とコールドゲームで大敗してしまっている。とは言え、桐生市商戦で投げた野中は好投手で県内でも高い評価である。同県同士のこの試合では、「新チームを見据えながら、ベンチ入り線上の選手にもチャンスを与えていこう」ということで行われた。

 熊谷商は中学時代に軟式野球部で実績のある1年生の中村謙吾投手が先発。5回途中までは何とか踏ん張っていたが、新井監督は、「やっぱりまだスタミナ不足ですかね。今のところは60~70球が限界というところですが、これを秋までには100球前後行けるように鍛えていきたい」ということを確認していた。

 叡明も、2番守山、3番中野天晴内野手に遊撃手として好守を見せて7番に入っていた後藤柚仁内野手と3人の1年生が先発出場。投手としても、高橋と五月女翔真投手(1年)という左腕が2イニング(五月女は1.2回)を無失点である程度まとめて期待感を高めていた。

 試合としても、1点を争う展開となり、最後は熊谷商が代打攻勢で一本目の選手を起用して「せっかくだから、勝ちに行こうと思った」という新井監督だったが、叡明がよく凌いだ1点差を逃げ切った。中村監督は、「何回もやっている相手なんですけれども、いつやっても、誰が出てもこんな競った試合で白熱するんですよ」と苦笑していたが、こうして手の内を知っている同士で競った試合をしていくことで、まさに切磋琢磨という形でお互いに向上していくことになろう。そうしたこともまた、高校野球の大事な要素なのだろうと改めて思わされた。

 午前8時半から8時間、充実の時間をいい雰囲気のグラウンドで過ごすことができた。

(記事:手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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