近江vs大阪桐蔭
「3回からまるで別人」逆転劇を生んだ近江の二刀流2年・山田陽翔の快投
大阪桐蔭を逆転で撃破した近江 写真：日刊スポーツ_アフロ
◆近江投手陣が強力・大阪桐蔭打線をどう抑えるか
大阪桐蔭と近江による近畿を代表する全国区のチーム同士が2回戦で激突することになった。ポイントとして考えられたのが、近江の投手陣だ。
大阪桐蔭は初戦・東海大菅生戦でホームラン3本が飛び出すなど、今年も破壊力抜群であることを甲子園の舞台で発揮していた。一発で調子に乗せてしまうと、足を使える選手もいるため、様々な方法で攻撃を仕掛けてくる。
加えて投手陣もプロ注目・松浦 慶斗を中心に実力ある選手がそろっており、点差を広げられると厳しい。
だからこそ、近江の投手陣が大阪桐蔭打線を勢いに乗せず、競り合って粘り勝つ。大阪桐蔭と競った試合展開にすることが勝利へのポイントだった。
◆山田の復調からリズムを作る
近江は2年生・山田 陽翔を先発に抜擢した。初戦の日大東北戦と同じ布陣で挑んだが、初回から苦しい立ち上がりになる。
変化球主体で大阪桐蔭に挑むも、一死から2番・藤原 夏暉のヒットと2つの四球で満塁を作ってしまうと、6番・宮下 隼輔にはレフトへタイムリーを許して3失点と、早々に先制点を与えてしまった。
すると2回からは真っすぐで押していくが、8番・松尾 汐恩に真っすぐをバックスクリーンに運ばれて0対4と近江にとって序盤苦しい試合展開になった。
ただ、3回から山田が立ち直った。スライダーをバランスよく投げながら大阪桐蔭打線に振らせて追撃を許さない投球を見せる。
すると3回に2番・西山 嵐大のスクイズで1点を返すと、続く4回は5番・新野 翔大のホームランで2対4と迫る。そして5回には4番・山田が犠飛。自らのバットで打点を挙げ、1点差に詰めた。
3対4のまま7回からはエース・岩佐直哉にスイッチすると、140キロ中盤の真っすぐに、切れ味鋭い変化球で大阪桐蔭打線にホームを踏ませない。
そして迎えた7回、二死一、二塁から5番・新野がライト前へ運び試合を振りだしに戻すと、続く8回は勢いそのまま二死満塁から途中出場の山口 蓮太朗がライトへ勝ち越し打を放ち、試合を決めた。
◆テンポの良い投球が流れを変えた
初回、山田は変化球中心で慎重になりすぎている印象を受け、2回は一転して力押しをしたところでホームランを打たれた。序盤の4失点は大阪桐蔭ペース。早い段階で岩佐にスイッチするかと思われたが、3回から見事に立ち直った。
ストレートと変化球をバランスよく投げて大阪桐蔭打線に的を絞らせなかった。ストライク先行でテンポがよくなり、守備の時間が長かった2回までとは正反対ともいえる投球内容で、攻撃へ繋げた。
ストライクゾーンへどんどんボールを投げ込んで、大阪桐蔭打線に打ってもらう。その打球を堅いバックの守備でアウトを積み重ねる。思い切って勝負していけたことで、変化球にも手を出してもらえるようになった。
強力打線相手にも攻めの姿勢を見せたことが、大阪桐蔭の撃破に繋がったのではないだろうか。
◆指揮官も評価した2年生右腕の攻めの投球
近江・多賀監督はこの勝利に「まだ信じられないです。悪い立ち上がりからよく持ち直してくれた。特に4～6回の投球は試合を最初に戻してくれた」と山田の復調を大きなポイントに挙げた。
なかでも評価したのは「守りから攻撃で言えば、攻めの投球が終盤に逆転を作れた」と強気な姿勢を高く評価した。
その山田は「打倒大阪桐蔭ということで甲子園に来たので、達成できてよかった」と率直に喜びを語った。
「負け試合でしたので、勝たせていただきました」
山田が話すように立ち上がりは打ち込まれた。大事になりすぎてしまい、打たれてしまったことが要因だった。しかし3回から思い切って攻めに転じたことが大きかったようだ。
「島瀧さんと話して、投球スタイルを変えました。基本は外を攻めていましたが、3回から内も使って両コースを使って投げることを意識しました」
強力打線相手にインコースは一歩間違えれば長打だ。しかし、そこを臆せずに攻めていく。紙一重を攻め続けたことで、投球の幅が広がり、大阪桐蔭に的を絞らせなかった。
次戦に向けて「必勝リレーで自分たちの野球で勝てればと思います」と普段通り戦うことを誓った。再び強打の盛岡大附が相手だが、同じように攻めの姿勢を示し続けることが出来るか。
優勝候補・大阪桐蔭に起こった誤算 15年ぶりの2回戦敗退
◆持ち前の粘り強さが出せなかった
3年ぶりの日本一を目指した大阪桐蔭の夏は、2回戦で幕を閉じた。西谷監督は「次の1点が上手く取れませんでした」と追加点を奪えなかったことを反省点に挙げた。
この試合に向けて近江投手陣の対策をしてきたそうだが、「山田君が途中から良いボールを投げ始めて、それに対応ができなかった」と2年生右腕の立ち直りが、西谷監督の想像を超えてきた。
足を使った攻撃をしていくことを考えていたが、山田の想像以上の投球で思うように攻撃を展開できなかったという。西谷監督が想定して、チームのテーマであった粘り強さは少しずつ影を潜め、思い通りに戦えなかった。
一方で近江には1点ずつ返され、やりたかった粘り強い野球をされてしまった。チームを引っ張ってきた池田 陵真主将も、「粘り切れなかったのが、一番自分たちの力不足でした」と持ち味を存分に出し切れなかったと振り返る。
その上で「もっとやれた、力を出せたと思います」と敗戦には悔しさを滲ませたが、「負けを認めて、高校野球は終わりましたが、今後の人生に活かしていきたいと思います」と少しではあるが前を向いていた。
◆大阪桐蔭の大きな1ページに刻まれた世代
秋の近畿大会で準優勝して選抜に乗り込むも、初戦・智辯学園の前に敗れた。そこから夏に向けて本気になって日本一を目指してきた。「ミーティングの回数、時間を増やして、全員がチームについて考えて、1つになっていった」と池田主将のなかでは少しずつでもチームの変化を感じながら、春の近畿大会を制した。
主将としてチームメイトの前では弱気な姿を見せることなく、この試合も勝利のためにベンチから仲間へ声援を送った。背中で引っ張る姿には西谷監督も「みんなからも一目置かれる存在だと思います」と評価する。
だからこそ、池田に対してこのようなコメントを残した。
「池田の主将は選んだというよりも、入学した時から満場一致でしたし、私もそれだけの人材と思っていました。日本一の主将にはなれませんでしたが、それに値する主将でした。よくやってくれました」
また3年生全体にも「大阪桐蔭の大きな1ページを作ってくれたと思います」と労いの言葉を残した。
池田の熱き主将力を後輩たちが受け継ぎ、来年こそは日本一へ。名門・大阪桐蔭も新たなスタートを切る。
（記事：田中 裕毅）
