試合レポート

至学館vs豊川

2019.07.27

降雨中止となった再試合、4点差負けをクリアした至学館が逆襲でベスト4

 前日このカードは、6回表で豊川が4対0とリードしていたところで、降雨に見舞われて結局中止再試合となった。仕切り直しの再戦である。4点リードで、中止となった豊川と、あと裏表裏の3イニングやっていたら雨でも試合成立で負けかかったところが仕切りなおしで再生した至学館。果たしてその心理的なものはどうだったのだろうかというところも気になるところだ。

因みに前日の中止となるまでのスコアはこんな感じだった。

豊川 001 012

至学館000 00

 再試合は、前日と同様に小牧市民球場、11時30分開始予定で行われた。

 前日は豊川の先発米庄君をほとんど打ち込めないままで攻略の糸口がないままだったという至学館。帰ってからのミーティングで、反省点を見出しながらも、「天気も味方してくれて、もう一度チャンスをくれたのだから、気持ちを切り替えて“笑顔”でやっていこうということで、帽子の庇にも一人一人“笑顔”と書いていって、気持ちを切り替えた」と麻王義之監督は言う。

 その気持ちが初回からはじけた至学館豊川の先発、エース菊間君に対して1番の西尾君が幸運な失策で出ると、2番佐野君はバントで一死二塁。3番関君はすかさず左中間へ好打して西尾君が二塁から生還。なおも一死一塁で4番牧山君が左翼席へライナーで運んでいく2ランを放ち前日は取れなかった得点がいとも簡単に入ってしまった。台風も近づきかかっているということもあって、球場内はかなり風も吹いていたという状況だったが、打球そのものはその風にあまり影響を受けないような低い弾道の本塁打だった。

 3点を貰った至学館の2年生10番をつけた渡邉都斗君は、前日の豊川打線に対しての攻め方を反省して修正したという牧山君のリードに従って気持ちよく投げ込んでいっていた。

 それでも力のある豊川打線、2回の2安打は併殺で潰したものの3回、9番に入っている菊間君自身が左前打で出ると、バントで二進。二死から、中神君の右越二塁打で1点を返す。さらに、四球と立花君の安打で満塁となって、一打で同点機となったがそこは渡邊君が踏ん張った。

 そして4、5回はギアを入れ直したような形になって3人ずつで抑えていく。

 至学館は初回の3点の後、2回にも一死満塁という好機を作り、スクイズで追加点を狙っていったが、これは三邪飛となり併殺。それでも、至学館は、序盤でもありリードもあったので、「長いこと守らせて、揺さぶっただけでもOK」という考え方で“笑顔”だった。

 しかし、3~5回と試合か進んでいくが得点が動かなくなっていた。また、至学館としてはここまでは投手を含めて誰も交代選手が出ておらず、あまり仕掛ける動きがなかったということでもある。そういう意味では、必ずしも、自分たちのペースでもなかったということだ。

 そしてグラウンド整備を挟んでの6回。再び試合が動く。ここでの攻防が最終的に試合の明暗を分けたかなという印象になった。

 豊川は、先頭の四番秋山君が粘った末に四球で出塁すると、三ゴロで二塁封殺となり、一塁に残った立花君はカウント2-2から捕手のけん制球で挟まれてタッチアウト。さらに結局、四球で出た漆原君も初球前のけん制球で刺されてさんざん塁上をにぎわしたような印象があったが3人で終わってしまった。

 その裏の至学館は、一死から名城君が右前打で出ると代走田辺君。菊池君が風にも流された左前ポテン安打で一三塁とすると、代打増田君はカウント3-1からスクイズ。打球は左打者ならではの投手と遊撃手の間へ強く転がしていくセーフティーの変形のような形だったが、これこそ至学館ならではの、狙った上でのプレーでもあった。増田君は、8回の打席では球に逆らわず上手に中前へはじき返しているが、パンチ力はなくても器用な選手で、バットコントロールの巧者でもあり、まさに麻王監督のイメージする至学館野球の申し子みたいな選手でもある。

 さらに二死一二塁となってから、9番米津君が中前へはじき返して二走の増田君を迎え入れて2点を加えた。


 結果的には、これが効くことになる。7回の豊川は二死走者なしから前回途中から投げて9番に入っていた米庄君が中前打し、四球で一二塁後、一死執頭君の左越二塁打で2者が入る。結局、至学館としては奪った2点をまた奪い返される展開で、必ずしもいい感じではなかったかもしれない。

 それでも、9回の一死一二塁でクリーンアップという場面も最後6~4~3という併殺で切り抜けてゲームセットとした。一旦はほぼ負けを覚悟させられかかった試合がノーゲームとなった再戦を何とか凌ぎ切った至学館。当初から、雨など日程が崩れたり変更になっていくという中にあって、「こう言うときには、ウチみたいなチームは意外に強いんですよ。2011年もそんな感じでしたからね」と言う麻王監督。まさにミラクル至学館らしさ満載となった、この2日間の準々決勝だったとも言えようか。

 この日も結局は、豊川11安打に対して至学館は9安打ながらの2点差勝ち。天も味方するようになってきて、何となく「7年ぶりの変」が戦国愛知の中で、じわじわと起きているような、そんな空気になってきてはいる。

 前日の勝ち試合の流れがノーゲーム。そして、再試合はいきなり3失点されつつも、食い下がった豊川。最後は追いつかなかったものの、「新チームから、振り込みは十分にやってきている」という成果は示す戦いぶりではあった。この日が誕生日でシートノックに入る前に「happyバースディ―」のコールもあった今井陽一監督。「毎年、自分の誕生日あたりまでは残れるんですけれどもね、このあたりでやられることが多いんですよ。誕生日、もう少し後に変えようかな」と、苦笑しながらこの試合に対して、どう戦っていったのかということを語ってくれた。

 「(勝っていた試合の)中止という事実は変えられないのだから、昨日は集中していい練習が出来たというように捉えて挑んでいこうという気持ちを伝え、選手もそのつもりになったけれども、相手の意識と対応力の方が上だった」と脱帽していた。それでも、大会を通じて練習してきたものは出し切れたことで、「やっぱり、練習は嘘をつかないということは確認できたけれども、練習以上のものもなかなか出し切れないんだということも再認識した」と言う。だからこそ、チーム作りの根幹として「人間性の向上」だという。それは、根気のいることではあるけれども、指導者として野球を通じて伝えていくことの意味としても、「次に何をするのがいいのか」、「そのためにはどんな準備をしたらいいのか」ということを確認していくことだという。

 誕生日を機に、今井監督は図らずも改めて高校野球との対峙を考えることにもなった。そうした、新しい豊川を、またこの秋見られることを楽しみにもしたいと思う。

(文=手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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