大阪桐蔭vs三重
接戦を制した大阪桐蔭が連覇へ王手!
藤原 恭大(大阪桐蔭)※写真提供 共同通信社
前評判では大阪桐蔭の優勢だったが、試合がスタートすると三重の溌溂さばかりが目立った。ストップウォッチの数値で紹介しよう。私が俊足の基準にする打者走者の各塁到達タイム「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」をクリアしたのは大阪桐蔭の2人2回に対し、三重は2人5回。強肩の基準にする捕手の二塁送球「2秒未満」のクリアは大阪桐蔭のゼロに対して、三重は東 亮汰(3年)が最速1.87秒を含む3回。そして、これまで技巧ばかりが目立った三重の先発、定本 拓真(3年)は最初からストレート主体にした攻撃的ピッチングを展開して、最速は141キロを計測。こういう攻守の溌溂さは「大阪桐蔭有利」の前評判に対する三重の奮起、あるいは怒りだと思う。
先制した3回表は9番井上 裕斗(3年)が大阪桐蔭先発の柿木 蓮(3年)が投じた138キロのストレートをレフト前に運んだあと二盗して1死二塁、ここで1番梶田 蓮(3年)が柿木の6球目をレフト前に流し打って先制(梶田は4.24秒で一塁到達)、続く2番浦口 輝(3年)が初球ストレートを振り抜くと打球は右中間を深々と破って梶田が生還。ちなみに、このときの浦口の三塁到達タイムは11.27秒という記録で、これは今大会の三塁到達タイムでとしては最速である。
大阪桐蔭ベンチは4回裏、2死満塁のチャンスで9番柿木に代打を送り、初めて攻撃的な采配をみせた。代打青木 大地(3年)はセンターフライに倒れたが、柿木のあとマウンドに上がった根尾 昂(3年)がストライクを先行させる攻撃的なピッチングを展開。ストレートの最速は3回戦の明秀日立戦に続く147キロを計測し、変化球は縦・横2種類のスライダーがキレまくり、勝負球のフォークボールも三重各打者のミートを許さなかった。柿木の出来が特別悪いように見えなかったので4回裏に代打を送る采配は勇気がいったと思うが、これが結果的に大阪桐蔭の勝因になった。
明秀日立戦を4安打、1失点で完投した根尾だが、9つの四球を与える制球難は目を覆うばかりで明秀日立の残塁は12を数えた。いわば拙攻に助けられたと言っていいが、この三重戦は与四死球ゼロで被安打4、奪三振9という完璧に近い内容だった。
この根尾の安定したピッチングが大阪桐蔭各打者の「追いつかなければ」という焦りを抑えたと思う。6回裏に2死走者なしで6番山田 健太(3年)がレフトスタンド最前列に1点差に迫るソロホームランを放ち、9回には先頭の5番根尾がストレートの四球で歩き、7番石川 瑞貴(3年)のレフト前ヒットで二、三塁。このチャンスに8番小泉 航平(3年)が3ボール1ストライクからのスライダーをライト前に弾き返し同点、試合は今大会6回目の延長戦に突入した。
10、11回は両校にヒットが出ず、いよいよこの大会から導入されたタイブレーク(延長13回から採用)が見られるかもしれないと少し心が沸き立ったが、12回裏、大阪桐蔭は2番青地 斗舞(3年)が遊撃手のエラーで出塁。2死後、ここまでノーヒットだった4番藤原 恭大(3年)が内角低めの難しいストレートを内側からバットを出す高等技術でとらえると、打球は左中間を深々と破る二塁打となり、青地が歓喜の表情でホームにスライディング、サヨナラの1点をもぎ取った。
大阪桐蔭の粘り強さがまず讃えられる試合だが、最初に書いたように三重の溌溂としたプレーがなければこれほど球場全体が沸き立つ試合にならなかったと思う。ともに大接戦を勝ち抜いた大阪桐蔭と智弁和歌山の〝近畿決戦″の勝負の行方は視界不良でまったくわからない。
(文=小関 順二)