彦根東vs慶應義塾
最後まで直球勝負を貫いた増居翔太(彦根東)
増居翔太(彦根東)※写真提供 共同通信
両校の左腕エースは序盤だけ見ればストレートの速さが最速でも137キロ程度で、よさはむしろ変化球のほうに見えるという部分で似た者同士だった。慶応の生井惇己(3年)は縦割れカーブ、彦根東の増居翔太(3年)は縦・横2種類のスライダーにキレがあり、ともに左腕でありながら左打者の内角をストレートで突くコントロールと勝負度胸もあった。
この両左腕が中盤になって違いを見せ始める。生井がストレートのスピードを下げていくのに対し増居は徐々にスピードを上げていき、5回には140キロを計測した。6回裏の2死三塁の場面では昨年秋の公式戦で大会出場校中4位の4本塁打を放っている4番下山悠介(3年)に対し、4球続けてストレートを投じ、5球目にスライダーを投げて三塁フライに打ち取る心憎い配球でピンチを脱した。7回の無死満塁の場面では8番善波力(3年)に5球続けてストレートを投げ、センター前に逆転2点タイムリーを喫しているので変化球を交えたピッチングに変わりそうなものだが、増居はそれ以降もストレート主体のスタイルにこだわった。4対3で迎えた9回には7番石田新之介から9番の代打、廣瀬隆太まで14球すべてストレートで通して三者凡退。スピードは126~138キロだから疲れがきていることは間違いない。それでも増居はストレート勝負に徹し、関東の強豪、慶応を5安打、3失点に抑えて完投勝ちした。
打のヒーローはキャッチャーの髙内希(2年)だ。まずディフェンス面から紹介すると、イニング間の二塁送球は1回から1.92秒を計測した。2回に盗塁されているが、このときも2.06秒という速さで、低めに伸びてきた送球を遊撃手が取り損なわなければアウトになっていたタイミングだ。バッティングはゆったりした始動とステップでタイミングを取るヒット量産型。5回には133キロのストレートをレフト前、7回には127キロのストレートをレフト前に運び、逆転の3ランを放った8回は低めのストレートをすくうように捉え、そのままレフトポール際の最前列に放り込んだ。スポーツ健康科学科が開設されていると言っても有力中学球児を獲得するには制限がある公立高校で、こういう選手たちが出てくるのである。
慶応は投手の生井、野手の下山、関展里(2年)など素質豊かな選手が実力を発揮できなかったが素質の片鱗は見せてくれた。下山はバッティングだけでなく、ぼてぼてのゴロをランニングキャッチで捕り、その流れで送球するプレーなど、〝都会の球児″を思わせるプレーが続いて楽しませてくれた。
(文=小関 順二)
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