仙台育英vs大阪桐蔭
逆転サヨナラの裏にあった仙台育英の徹底とした全力疾走
サヨナラ勝ちを決めた仙台育英※写真=共同通信社
仙台育英の先発、長谷川 拓帆(3年)の立ち上がりが素晴らしかった。スピードガンには140キロ台が計測されていないのに、打者を押し込む力があった。技巧で翻弄するのではなく、力で圧倒しよう、そんな思いが伝わってきた。そう思わせたのは1、2回戦を上回る打者の内角を攻める攻撃性が際立っていたからだ。6回表には大阪桐蔭の3番中川 卓也(2年)に対して死球を思わす内角球を投げ、中川は倒れ込むが球審は「フェア」を宣告、打者はアウトになった。球は打者にではなく、打者の持つバットに当たっていたのである。
こういう長谷川の攻撃性に対して大阪桐蔭各打者も気迫で立ち向かった。とくに目立ったのが先発の柿木 蓮(2年)、野手では捕手福井 章吾(3年)、坂之下 晴人(3年)、山本ダンテ武蔵(3年)の3人。柿木は140キロ台後半のスピードボールで評判を呼ぶ本格派で、この日もストレートは最速146キロを計測した。しかし、ストレートより、ストレートと同じ軌道から小さく変化するツーシームやカットボールのほうが威力を発揮した。8回3分の2を投げて奪三振5は速球派のイメージからは遠いが、ゴロアウト11、フライアウト8のほうが柿木の特徴を表していると思う。
この下級生の柿木を福井はうまくリードした。速いストレートは1、2回に見せ、それ以降はストレートと同じ軌道で小さく変化する130キロ台の変化球を駆使して、仙台育英打線のやる気を翻弄した。福井自体の気迫はというと、肩で見せた。イニング間では1回から1.9秒台を計測し、8回には二盗を阻止する二塁送球が2.06秒という速さ。これは実戦では一級の肩と言っていい。9回には柿木がモーションを盗まれ二盗を許したが、このときの二塁送球は1.97秒。見事と言うしかない。
坂之下は名人芸と表現するしかない二塁守備で注目を集めた。1回裏には3番山田 利輝(3年)の強い打球をさばいて4-6-3の併殺を完成させるのだが、その動きは〝電光石火″という表現がぴったりの速さだった。6回には俊足・鈴木 佳祐(2年)の二塁ベース寄りの打球を走りながら捕球して、走りながら送球するというプレーを見せた。鈴木の一塁到達タイムが4.20秒という速さだったので、こういう軽業師的なプレーでないとアウトは取れなかっただろう。
0対0の膠着した試合が動いたのは8回表だ。大阪桐蔭は1死から2番山本が二塁打を放ち、続く3番中川が逆方向への軽打で山本を返し、待望の先取点を入れた。その裏に仙台育英が反撃に転じ、2死一、二塁のチャンスに2番鈴木がレフト前にヒットを放つのだが、ここでも山本がワンバウンドのストライク返球で補殺を記録した。
このプレーで私は大阪桐蔭の勝利を確信した。しかし、仙台育英の気迫は最後には大阪桐蔭を上回るのである。最終回、2死走者なしから安打、四球が続き一、二塁。ここで7番若山 壮樹(3年)がショートゴロを打つのだが、送球を受けた一塁手中川のベースを踏むタイミングが一瞬遅れ、痛恨のエラー。大阪桐蔭のプレーに注目が集まるが、打者走者の若山の一塁到達タイム、4.39秒には絶対にセーフにしてやるんだという気迫が感じられた。これがあと0.2秒遅かったらゲームセットになっていたはずだ。
ちなみに、私が俊足の目安にしている打者走者の「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」をクリアしたのは大阪桐蔭の2人4回に対して、仙台育英は5人5回。仙台育英の気迫がここに見られる。
(文=小関 順二)
注目記事
・第99回全国高等学校野球選手権大会 特設ページ