早稲田実業vs日大三
壮絶な決勝戦!野村のサヨナラ2ランで、早実11年ぶりの秋制覇
サヨナラホームラン野村 大樹(早稲田実業)
壮絶な決勝戦であった。
戦前から強豪であった伝統校であり、宿命のライバルともいうべき早稲田実業と日大三の対戦。しかも早稲田実業には注目の清宮 幸太郎がいるとあって、神宮外苑には長蛇の列ができた。この対戦の前に、試合会場である[stadium]神宮球場[/stadium]では、東京六大学野球の新人戦が行われていた。そちらの試合は12時39分に終わったが、1時間余りでは切符売り場に並ぶ人たちを入場させることができないということで、試合開始時間を約30分遅らせ、午後2時32分に試合が始まった。観衆は、秋季大会としては異例の2万人。
試合開始早々、日大三の1番井上 大成が、早稲田実業の先発、1年生の中川 広渡からレフト線への二塁打を放つ。井上は暴投で三塁に進み、4番比留間 海斗の二ゴロが併殺崩れになる間に生還し、日大三が先取点を挙げた。
日大三の先発は、主将の櫻井 周斗。櫻井は1回裏、清宮を含め2三振を奪う、快調な滑り出し。しかし2回裏に4番の野村 大樹に四球を出すと、捕逸と犠打で三塁に進み、6番雪山 幹太の二ゴロは野選となり、早稲田実業が無安打で同点に追いついた。
さらに4回裏は、野村の内野安打と雪山の右前安打などで一死一、三塁とし、7番橘内 俊治が二塁手の頭を越え、右中間を破る二塁打で2点を勝ち越す。さらに中川が送り、9番野田 優人の内野安打で1点を追加する。早稲田実業は好調の下位打線で、3点のリードを奪った。
早稲田実業の流れになったかと思われたが、5回表、日大三は、走者2人置いて、準決勝の本塁打で調子づく金成 麗生が打席に入る。金成の高めに入った初球を叩くと右中間のスタンドに入る3ランを放ち、同点に追いつく。1回戦から3回戦までは不振で、準々決勝はスタメン落ちした金成であったが、「3球空振りでもいいから思い切っていけ」と小倉 全由監督らに言われ、思い切りの良さが戻ってきた。
日大三の櫻井はスライダーがキレまくり、8回までに奪三振13という快調な投球。ただ8回を終わって147球と球数が多いのが、気になった。
一方早稲田実業は4回途中に投手を中川から赤嶺 大哉に代える。赤嶺は5回に金成に3ランを打たれたものの、その後は踏ん張る。
7回から点灯し、日が落ちた球場は冷え込みが増したが、結末の見えない試合は、一層熱を帯びてきた。
同点ホームラン・金成 麗生(日大三)
9回表、早稲田実業は投手を石井 豪に代える。この回日大三は2つの四球などで二死一、二塁とし、打席には当たっている金成が入る。金成は逆方向にうまく手首を返して、二塁打。2人が還り、日大三が2点をリードする。
日大三が優勝に大きく前進したかと思ったが、9回裏、この回先頭の9番野田の左前安打で反撃の狼煙を上げる。試合後早稲田実業の和泉 実監督が、「先頭の野田が出たのが、大きかった」と語る、貴重な一打であった。続くは負傷により途中交代の福本 翔に代わり、1番に入る西田 燎太。西田は二球目を左中間に運ぶ三塁打を放ち、野田が還り1点差に迫るとともに、同点のチャンスを作る。2番横山優斗は四球で一、三塁。
続くは、ここまで4打席全てで三振の清宮が入る。その初球、清宮がスライダーに全くタイミングが合わず空振り。ここはスライダーで押していく場面であるが、落とし穴があった。次の球がワンバウンドになって、三塁から西田が還り、同点に追いつく。それでも清宮は三振で、清宮はこの日、5打席連続三振だった。
ほっとしたのも束の間、打席には4番の野村が入る。「清宮さんが決めてくれると思っていたので、緊張しました」と語る野村であるが、気持ちを切り替えた。「右方向に打つことを意識しました」と語る野村が、その初球を叩くと、狙い通り逆方法に飛び、ライトスタンドに入る、劇的なサヨナラ本塁打となった。これで早稲田実業が秋季都大会では11年ぶり10回目の優勝を決めると同時に、センバツ出場を確実なものとした。午後5時7分、秋の夜空に早稲田実業の校歌が響き渡った。
あまりに劇的な幕切れに、早稲田実業の選手たちは喜びを爆発させ、日大三の選手たちの目からは涙が流れた。
日大三の小倉監督は、「向こうは甘い球をしっかり打ってきました。櫻井はよく投げました」と語り、エースで3番打者で主将の重責にあった櫻井をねぎらった。
夏は不本意な投球が多かった櫻井であるが、この秋、確実に進化した。スライダーのキレが増し、最速は144キロを超えた。ただ164球も投じた球数が、最後の球をやや甘くしたようだ。それを逃さなかった野村の打撃も見事だった。
「こんなに三振したのは初めて」と言うように、主砲の清宮が完全に抑えられた中での勝利は、非常に大きな価値がある。「苦しんでいるキャプテンを全員でカバーしよう。本当のチームになったことを実感している」と和泉監督は喜ぶ。チームの成長がもたらした優勝だった。
日大三も櫻井が大黒柱としての自覚と存在感を示し、金成が強打者として台頭した。彼らの戦いは、これから春、夏と東京の高校野球を熱くすることだろう。
それでもまず、優勝した早稲田実業は、1週間後に行われる明治神宮大会での好成績を期待したい。1年生が多いだけに、センバツに向けても、まだまだ成長していく余地が多い。この壮絶な決勝戦は、その礎になると思う。
(文・写真=大島裕史)
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