試合レポート

履正社vs桜宮

2016.07.30

桜宮の奇策も通じず。止める術の無い履正社打線

 履正社打線にとって3球あれば先制するには十分だった。

 初回、1番・福田観大(3年)が初球を叩いて痛烈なライナーで左中間を割る。桜宮のエース・崎山颯人(3年)は緩い球で打ち気を逸らすアンダースローだが、しっかり引きつけて逆方向に弾き返した。2番・北野秀(3年)のバントで一死三塁と2球でチャンスを作ると3番・四川雄翔(3年)も初球攻撃。当たりは強くないゴロとなったが、桜宮内野陣はほぼ定位置を守っており福田が先制のホームへ生還した。

 2回にもランナーをためると若林健治(3年)が左中間へ2点適時二塁打を放ち加点。3回にも無死一、二塁から4番・安田尚憲(2年)の打球がレフト線を転がり追加点を奪う。この時、桜宮外野陣は3人ともライト方向へ大きく動くシフトを敷いていたため、通常なら1失点で済むところが一走・四川の生還まで許してしまった。実は桜宮外野陣がシフトを敷いていたのは安田に対してだけではない。というより、全打者に対して定位置を守ることは無かった。桜宮外野陣が履正社の各打者に対して敷いたシフトは以下の通り。ただし、全打者全打席を確認したわけではないので、あくまで全体像を把握するイメージ程度に。

福田 センターはやや左中間寄りで深め、ライトはやや右中間寄りで深め
北野 センターはやや左中間寄りで深め、ライトは定位置後方
四川 センターは左中間寄りで、外野全体が深め
安田 外野全体が深く、レフトは左中間、センターは右中間に寄り、ライトはライン際を締める
井町 センターがやや左中間寄り
若林将 レフトは定位置後方、センターは左中間寄り、ライトは右中間寄り
山本 レフトはフェンス手前まで下がり、センターは左中間寄り、ライトは右中間寄り
若林健 ライトが定位置後方
山口 センターがやや左中間寄り

 履正社打線は1〜4番と8、9番が左打者で5〜7番が右打者とジグザグには組んでいない。にもかかわらず、1人ずつ守備位置を変えるということは左打者用、右打者用のシフトではなく打者に合わせたポジショニングをしているということだ。

 ただし、この試合に関して言えば守備シフトの戦果は大きくなかった。四川の左中間へのいい当たりをセンター・戌丸海斗(3年)がほとんど動かずに捕球したことはあったが、上記の通り、3回に流し打ちでシフトの逆を突いた安田は、一死満塁で回ってきた4回の打席でもセンター前に軽打で2点タイムリー。桜宮外野陣はかなり深い守備位置だったため、悠々2者が生還した。相手の守備位置を見て打撃を変えたのか、結果的にそうなったのかは本人しかわからないが履正社のリードは着実に広がっていた。


 また、特別シフトとは関係無いかもしれないが、3回に一死三塁で履正社の6番・若林将(2年)を迎えた場面で、桜宮の内野手は前進守備だが外野手はかなり深かった。長打力のある若林将に対してではあるが、内野を前進させて勝負を懸けているのに、外野は警戒。それならばタッチアップで勝負出来る定位置か、それよりほんの少し前ぐらいの方が一貫性があった。若林将の放った高〜く上がった打球はセカンドとライトの間に落ち、記録上は適時二塁打。打ち取った当たりで追加点を奪われた。

 桜宮がシフトを解いたのは9点差をつけられた5回、あと1点でコールドゲームが成立するイニングに二死一、二塁のピンチを背負った時。打席には履正社の主砲・安田を迎えたが外野手は単打で二塁走者を還さないための通常の前進守備を敷いていた。ただし初球がワイルドピッチで走者がそれぞれ進塁すると外野手は定位置後方の深い守備位置へ。結果的にはこれが功を奏し、安田の放った普通なら長打になっていたであろうフェンス際の大飛球はセンター・戌丸のグローブに収まった。

 辛うじて5回コールドは避けた桜宮だが、最後は履正社先発の山口が自らのバットでライトオーバーの適時二塁打を放ち10点差をつけた。山口は投げても6回1失点。ボールに多少のバラツキはあったものの決まった時のストレートの威力はかなりのもので、芯で捉えるどころか、前に飛ばすことも難しく十二分に先発の役割を果たした。

 投打で圧倒し決勝進出を決めた履正社だが近年はライバル・大阪桐蔭の後塵を拝する日々が続いていた。ただ、今年は大会前から履正社の前評判の方が高かった。その理由は超高校級左腕の寺島成輝(3年)に加えて、この日も好投した同じくドラフト候補の左腕・山口を擁するからだけでなく、隙の無い打線にある。本格派から変則タイプまでどんな投手も苦手とせず、点差が開いても大振りせずに打順に関係なく鋭いライナーを打ち返せる。この春以降は特に対戦相手の選手達が履正社打線について「甘い球は逃さない」「1番から9番まで切れ目が無い」と口を揃えた。

 大阪桐蔭が敗れた3回戦、関大北陽の外野手はかなり深い守備位置に就き、普通なら長打になるような打球をいくつもフライアウトに変えて競り勝った。その点ではこの日の桜宮の戦術も同じ。それでも低く鋭い当たりを連発した履正社打線は11安打を浴びせ、5回を除く毎回得点で一蹴した。昨秋は準決勝と3位決定戦で敗れ、選抜出場は逃したが、春は近畿大会で優勝し、夏も決勝進出と今年の公式戦では無敗を誇る。苦戦と言えるのは、プロ注目の本格派右腕・西田光汰(3年)を擁する大体大浪商戦ぐらい。春に4-2、この夏は2-0となっているが、その他は全て圧倒的な試合内容で春から夏の準決勝・桜宮戦終了時までの公式戦は19試合を戦い179得点12失点。近畿決勝では選抜王者の智辯学園を6-0で下している。しかも寺島はもう一段階レベルアップするため春にほとんど変化球を投げていない。ストレートが来ると分かっている相手にストレートを投げ込んでねじ伏せてきた。チームとしても、そんなエースを出すことなく大阪の準決勝まで勝ち上がってきた桜宮にコールド勝ち。決勝のマウンドにはフォークも含め変化球も解禁したフルパワーの寺島が上がるだろう。2010年以来となる夏の甲子園へ、万全のエースと小細工の通用しない強力打線には一分の隙も見当たらない。

(文=小中 翔太

履正社vs桜宮 | 高校野球ドットコム
注目記事
第98回全国高等学校野球選手権大会 特設ページ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.27

【京都】龍谷大平安、京都成章、北嵯峨などが2次戦進出戦に挑む<春季大会>

2024.04.27

【大阪】3回戦は28日に大阪桐蔭、履正社が登場、29日には上宮-関西創価など<春季大会>

2024.04.27

横浜に入学した「スーパー1年生5人衆」に注目せよ! 佐々木朗希二世、中学日本代表の二刀流など明日の慶應戦で活躍なるか!?

2024.04.27

【広島】広陵は瀬戸内と、広島商は崇徳と夏のシードをかけて激突<春季県大会>

2024.04.27

【三重】津田学園-菰野、5年ぶりの決勝対決<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.22

【和歌山】智辯和歌山、田辺、和歌山東がベスト8入り<春季大会>

2024.04.22

【九州】神村学園、明豊のセンバツ組が勝利、佐賀北は春日に競り勝つ<春季地区大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.23

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!