日大豊山vs岩倉

　7月20日、東東京大会ベスト8残り4つのチームを決める戦いが行われた。神宮第二球場の第1試合は、日大豊山と第4シード・岩倉の対戦。日大豊山は今大会、失点はしつつも打撃でカバーという戦いぶり。4回戦では薄氷を踏む思いで都立三田になんとか勝利、というものの、勝負強さは見せている。一方の岩倉はここまで無失点。シード校らしく安定した戦いぶりでここまで来た。そんな両者の対決は逆転に次ぐ逆転とドラマチックなものとなる。

　初回、互いにチャンスを潰し合ったあとの2回表、日大豊山は先頭の5番・奥村 優太がヒットで出塁すると、すかさず6番・西村 達貴がタイムリーツーベースを打って先制。3回表には一死から2番・木村 太賀が内野安打で出塁すると、3番・秋庭 蓮のヒットで三塁まで進む好走塁。4番・横尾 祐太の犠牲フライで生還、と足で追加点を稼ぐ。さらに二死二塁から5番・奥村がタイムリーツーベースと畳みかけるような攻撃でここまで3点をリードする。

　一方の岩倉も黙って良いようにやられるわけにはいかない。3回裏、9番・宮原 陸、1番・伊勢 海星が連打で出塁、無死二三塁とプレッシャーをかけると、3番・安田 拓矢はスクイズを敢行。打球処理の際、ファーストへの送球がエラーとなりランナー2人が一気に戻り1点差に詰め寄る。
日大豊山の攻撃を先発・市川 幸輝が抑えている中、6回裏、二死一塁から6番・小岩 和樹がセンターの一番深いところへ2ランを叩き込み2点を追加。これで岩倉は4対3とこの試合初めてリードする。
形勢逆転、岩倉が押せ押せになるかと思われたが、この小岩の一発は試合が動くキッカケとなった。

　続く7回表、日大豊山は一死から1番・宮原 達也が内野安打で出塁。四球とエラーで満塁のチャンスを得る。ここで4番・横尾は押し出しの四球を選び、続く5番・奥村は2点タイムリーを放ち、この回3点。日大豊山が再びリードを奪う。

　打ち合いを受けて立った岩倉はその裏、2つの四球で無死一二塁。1番・伊勢が送り、一死二三塁から2番・安田がタイムリーを放ち1点。さらに3番・弓指 匠がスクイズを成功させ同点とする。二死ながら一塁のこの場面、打順は4番へというところで、岩倉は代打のコール。球場がざわめく中登場した萩原 慎はセンターオーバーのタイムリースリーベースを放ち、この回3点目。采配がズバリ的中した形で岩倉が再逆転に成功する。

　共に8回の攻撃を無得点で終わり、迎えた9回。中盤から目まぐるしく動くこの試合は、やはりもう一波乱待ち受けていた。
日大豊山は一死から6番・西村がライトへ大きな打球を飛ばす。球場がざわめく中打球はするすると伸び、同点ホームランに。スタンドの盛り上がりはすさまじく、その勢いに押され7番・土居 正宗は四球で出塁。バントで送り一死二塁とすると、8回途中からマウンドに登った小池 涼介がライトへタイムリーツーベースを放ち、日大豊山がまたも逆転に成功する。

　だがこれで終わりではなかった。岩倉はその裏、先頭の2番・安田が四球で出塁さらに3番・弓指のヒットで一三塁とする。ここで送り込まれた代打・田代 蓮がスクイズを成功させ、土壇場で同点に追いつく。

　勝ち越しサヨナラは許さなかった日大豊山は10回表、2つの四球とヒットで無死満塁の大チャンスを得る。ここで7番・土居の放った強い打球はセカンドへ。上手くバウンドを合わせキャッチ、ホームに送るも惜しくもボールがこぼれ3塁ランナーの横尾が生還。日大豊山がまたも勝ち越しに成功する。

　なんとか最少失点で留め、逆転に望みをつないだ岩倉はその裏、先頭の8番・涌井 和人が出塁。バントで二塁に進めた後、9番・宮原はショートのグラブを抜ける執念のヒットで出塁、続く1番・伊勢も四球を選び、こちらも満塁のチャンスを得る。異様な雰囲気に包まれる球場。だが2番・安田の打球はショート正面を突きホームでアウト。続く3番・弓指はレフトフライに倒れ、ゲームセット。日大豊山が何とか踏ん張り切り、延長10回、打ち合いの激闘を制した。

　9回、10回の攻防は球場全体が異様な雰囲気に包まれていた。ここでコントロールを乱した投手陣は責められまい。緊張のあまり身体が硬くなり、投球があさっての方向に逸れてしまう投手もいた。その度にキャッチャーを中心に味方が声をかけ、あるいはバシッと気合を入れるかのように体を叩いていたのが印象的だった。想像を超えた試合展開に戸惑う弱さと同時に、様々な思いを背負いあのグラウンドに立っている彼らの強さを感じられる一幕でもあった。
2時間44分の熱闘。互いに自分たちの力を出し切った選手たちには万雷の拍手がいつまでも鳴りやむことは無かった。

(文＝青木 有実子)

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