木更津総合vs大阪桐蔭
積極的なバッティングが呼び寄せた木更津総合の逆転勝利
3回表木更津総合一死一、二塁、鳥海の適時打で二走木戸が生還。捕手栗林
大阪桐蔭の先発、高山 優希(3年)は昨年秋の明治神宮大会準決勝、高松商戦でリリーフした際、ストレートが150キロを計測して驚かされた。初戦(奇しくも対戦相手は木更津総合)の最速は144キロで、私が知っている高山のイメージそのまま。それが一挙に6キロオーバーして、投球フォームもいわゆる好投手らしくなく、いい意味で暴れていた。しかし今選抜の土佐戦、そしてこの木更津総合戦は好投手時代の高山に戻っていた。
100キロ台のカーブ、110キロ台のスライダーは落差十分の縦変化で、ミートするのも大変というボール。この変化球に145キロ以上のストレートがあったらどれほど相手校は手こずるだろうと思ったが、高山は速いボールを投げない。130キロ台のストレートを交えた緩急で打者を打ち取ることに専念していた。
3回にストレートが最速145キロを計測したのは得点圏に走者がいたためだ。ピンチになれば速い球を投げ、遅い球に慣れた打者を圧倒するという発想。逆ではないだろうか。早いうちに145キロのストレートを見せ、その残像を利用して緩急で翻弄するというほうが効果的だと思う。
木更津総合打線は積極的だった。
連打で4得点した3回表、高山が投げた25球中、ストライクを見逃したのはゼロ。対照的にファーストストライクを見逃さず打っていくというスタイルの大阪桐蔭打線は見逃しの山を築いた。
球審のストライクゾーンが広めだったことは確かだが、それは木更津総合も同じ条件。その中でゲームを通じた見逃し率(全投球に占めるストライクの見逃しの割合)は木更津総合の13.7%に対して大阪桐蔭は19.5%に達した。自分たちの野球ができていなかった証拠である。
全力疾走でも大阪桐蔭らしくなかった。私の全力疾走の基準は打者走者の「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達11秒未満」で、初戦の土佐戦では5人(7回)がこの基準タイムをクリアした。これはいなべ総合の5人8回に次ぐ2番目の記録で、今年の大阪桐蔭はよく走るなと感心させられた。ところがこの木更津総合戦では三井 健右が2回計測しただけで、土佐戦でクリアした永廣 知紀(3年)も中山 遥斗(3年)も基準に到達できなかった。
大阪桐蔭は1回裏、3番・吉澤一翔(3年)がレフトスタンドにホームランを放って早々と得点したが、これで行けると思ったのではないか。大阪桐蔭に比べ、下馬評が高くない木更津総合を「楽な相手」と考えておかしくない。これがストライクの見逃しの多さや、全力疾走が少なかった理由だと思われる。
それにしても木更津総合の3回の攻撃は迫力があった。一死満塁の場面では3番・小池 航貴(3年)がレフト前ヒットを放つと三塁走者に続いて二塁走者が生還。さらに一、二塁の場面では4番・鳥海 嵐万(3年)がライト前ヒットを放つと二塁走者が怒涛の走塁で生還を果たし、5番・山下 輝(2年)の二塁打で一塁走者の鳥海が長躯ホームインを果たすという具合に、攻撃的な走塁が非常に目についた。
「走者のキャッチャーへの体当たりの禁止」「キャッチャーの走者へのブロック、さらに走路を塞ぐことの禁止」などを取り決めたコリジョンルールが今季からプロとアマチュア野球に導入されたため、二塁走者が積極的にホーム生還するシーンが目立っている。野球が変わった、という私の感想は大げさでない。
攻撃野球を持ち味にする大阪桐蔭は、そのコリジョンルールを味方にする場面も少なく、全力疾走や好球必打も発揮できずに2回戦で敗退してしまった。木更津総合には関東勢でただ1校残ったという危機感があったのだろう。逆に近畿勢はすでに4校が勝ち残り、片一方のブロックでは準々決勝、準決勝が近畿勢によって争われる。そういう対照的な立場も勝敗に影響したのかなと思う。
(文=小関順二)
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