試合レポート

鳥羽vs立命館宇治

2015.07.27

高校野球100周年の年に第1回全国大会優勝の鳥羽(前身は京都二中)が15年ぶりの優勝

 決勝の先発マウンドに上がったエースのコンディションは対照的だった。

 前日、絶対的エース・山下 太雅(3年)が延長15回を投げ抜いた立命館宇治、もし山下が先発となれば準々決勝から休み無しの3連投になるが、今夏が最後の指揮となる宇瀧 逸夫監督は大一番のマウンドを背番号1の左腕に託した。ただし、山下が投球練習を終えた試合前のブルペンには吉原 章太(2年)、松原 岳(3年)の姿があり、試合開始直後には須賀 洸輝(3年)が向かうなどこれまでにない総力戦で臨む姿勢を見せていた。

 立命館宇治が優勝候補の一角だったのに対し京都鳥羽はスター選手不在で秋3位ながら春は2次戦の1回戦で敗れ夏はノーシード。守備力は高いが、総合力では龍谷大平安福知山成美立命館宇治などの強豪私学に及ばないという見方が強かった。
それでも今大会は課題のはずの打線が調子を上げ準決勝までの5試合で35得点。7回コールド勝ちとなった準決勝の乙訓戦は左腕・山田 純輝(3年)が完投しておりエース・松尾 大輝(3年)の温存に成功。78校が出場する京都大会で引いたクジの番号は78。日程的には最も厳しくなるはずの右端に位置しながら決勝のマウンドには休養十分のエースを送った。

 状態が心配された立命館宇治の先発・山下の立ち上がり、変化球は高めに浮きストレートはキレを欠く。先頭打者に死球を与えることからピンチを招くと一死一、三塁の場面で打者よりはるか手前でワンバウンドするワイルドピッチで先制点を許す。ここからさらに四死球2つを与えたが京都鳥羽の6番・南 武蔵(3年)を2球で追い込むと完璧なストレートを左対左のアウトローに投げ込み見逃し三振。26球目にして初めていい球が決まり二死一、二塁のピンチを脱出した。

 2回は京都鳥羽の下位打線を三者凡退に抑え立ち直りの気配を見せた山下だったが、1番からの攻撃となった3回はヒット、四球、四球で無死満塁のピンチを背負う。
京都鳥羽の4番・小薗 晋之介(3年)を打席に迎えると立命館宇治がとった守備隊系は中間守備よりも二遊間がやや下がり気味の完全な後ろゲッツー体制。1点覚悟の中、小薗を浅いレフトフライに打ち取り、5番・梅谷 成悟(3年)は三遊間へのゴロ。この間に1点は失ったが、続く南はライトフライで3点目は許さず。初回と3回、どちらもビッグイニングになってもおかしくないピンチを最少失点で切り抜けた。


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 3連投の山下 太雅が3回で66球を要する一方、京都鳥羽の松尾 大輝は立ち上がりから快調なピッチングを続けた。
打者を圧倒するようなスピードや驚くような変化球があるわけではないが、コントロールを間違えない。コースをきっちり突き3回を1安打無失点。球数わずかに25球というテンポの良さでショート・南、セカンド・中嶋 洸平(3年)の安定した好守備も際立っていた。

 2点リードの京都鳥羽は4回、先頭の中嶋がヒットと出塁すると宮西 絢也(3年)が送りバントを決める。2球でチャンスを作ると、松尾、田淵 公一郎(3年)が連続タイムリーを放ち2点を追加。二死後、伊那 夏生(2年)が四球を選ぶと立命館宇治は投手交代。3回までに3ボールノーストライクになった打者が4人、打たれる打たれないの前にストライクを取ることにも苦労していた山下は4回途中で四死球6と明らかに本調子ではなく87球で無念の降板となった。
立命館宇治としてはこれ以上離されたくないところだが、二死一、二塁で迎えるのは京都鳥羽の4番・小薗 晋之介。新チーム結成以降、公式戦はほぼ全て山下1人が投げ抜いているだけに控え投手には荷が重いと思われる場面。それでもマウンドに上がった吉原 章太は3球続けた変化球で小薗をセンター後方へのフライに打ち取り追加点を許さない。

 するとその裏、立命館宇治は一死から看板打者の2人、奈良 祥平(3年)と伊藤 大賀(3年)が連打を放ち、さらに藤岡 拓郎が四球で満塁とする。北原 卓磨(3年)はセカンドフライに倒れ二死となるが百田 風太郎(2年)の打球は左中間への大飛球。抜ければ3人の走者が還り、さらに一打同点の場面となることは確実だったが、センター・伊那が斜め後ろのダイビングキャッチで掴み取る超ファインプレー。自慢の守備力を最高の場面で披露した京都鳥羽は、攻撃では7回までに5つの犠打を決めコツコツと6得点。
好投を続ける松尾は打者としてもコースと球種に対応したバッティングで2打席連続のタイムリーヒットを放ち、フィールディングでは非常に小回りの効いた鋭いターンでランナーを刺すなど派手さはなくとも各自が自分の仕事をきっちりこなしていた。

 2点のリードの9回に松尾が先頭から2者連続四球を与え、一打同点のピンチを招いたが、後続を断ち逃げ切りに成功。守備も試合を通して2失策と珍しく乱れ、ワイルドピッチで失点するシーンもあったがそれを上回る好守備で代打・樋浦 大雅(2年)のタイムリーなどで追い上げる立命館宇治を振り切った。

 試合後、京都鳥羽の山田 知也監督は「これがうちの野球。凌いでという展開しかありませんでしたので」と接戦を振り返る。「身の丈に応じて自分達の野球を最後までやり切りたい」と甲子園での意気込みを話せば、キャプテンの梅谷も「1点差をものに出来るよう、今日みたいな試合を1試合1試合やって恥の無いよう京都代表として戦いたい」と続いた。

 京都鳥羽が夏の大会で優勝するのは2000年以来15年ぶり。今年は高校野球100周年の節目の年で、京都鳥羽の前身である京都二中は第1回全国大会で優勝を果たしている。古豪が久しぶりに甲子園の大舞台に戻る。

(文=小中 翔太


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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