試合レポート

大阪桐蔭vs三重

2014.08.26

決勝戦にふさわしい熱戦を左右した1球

大阪桐蔭vs三重 | 高校野球ドットコム
2年ぶり4度目の優勝を果たし喜ぶ大阪桐蔭ナイン 写真提供:共同通信

 三重は手にしかけていた優勝を寸前で取り逃がしてしまった。

 大阪桐蔭の焦りは5回表の攻撃のときに現れていた。
2対2のスコアで始まったこのイニング、三重は1番長野勇斗(3年)が中前打で出塁。2番佐田泰輝(3年)が手堅くバントで送って、と思われた次の瞬間、打球を処理した投手の福島孝輔(3年)が何と二塁へ送球、これが野選となって無死一、三塁になってしまう。

 一塁走者は俊足で知られる長野である。普通に考えれば一塁送球だが、このときの福島は普通ではなかった。
味方打線が三重の先発・今井重太朗(3年)から2点を取るのがやっというありさまを見て、1点もやれないという心理状態に追い込まれていた。

 この局面はとりあえず置いといて、1回からの展開を追っていこう。

 1回から三重は打撃が好調だった。
点こそ奪えなかったが1回表には1番長野が強烈な投手ライナー、4番西岡武蔵が痛烈な三塁ライナーと「三重手ごわし」の印象を植えつけた。

 2回には先頭の5番稲葉隆也(3年)が右中間を破る二塁打で出塁、1死後、7番世古錬(3年)が四球で歩いて一、二塁とし、8番中林健吾(3年)がレフトの頭を越える二塁打で二者を迎え入れ先制。
超満員のスタンドは試合後、西谷浩一大阪桐蔭監督が「関西で行われながらアウエー状態で」と苦笑したように、三重への応援で渦巻く。


 追いかける大阪桐蔭は2回裏の1死後、左前打で出塁した6番横井佑弥(3年)が投手の暴投で二進すると8番福田光輝(2年)の右前タイムリーで生還、早々と1点差にしている。
思えばこの大会は逆転劇が多かった。そして、引っくり返したチームには「先制されたら合間を置かずに点を入れ返す」という特徴があった。どんな試合があったのかここで振り返ってみよう。

<1回戦>
星稜5-4静岡試合レポート
(1回表に静岡が2点、1回裏に星稜が1点)
大垣日大12-10藤代試合レポート
(1回表に藤代が8点、1回裏に大垣日大が4点)
山形中央9-8愛媛小松(試合レポート
(1回裏に愛媛小松が1点、2回表に山形中央が2点)
大阪桐蔭7-6開星試合レポート
(1回裏に開星が4点、2回表に大阪桐蔭が2点)

<2回戦>
盛岡大附4-3東海大相模試合レポート
(1回裏に東海大相模が2点、2回表に盛岡大附が1点)
沖縄尚学3-1作新学院試合レポート
(1回表に作新学院が1点、1回裏に沖縄尚学が1点)
聖光学院4-2佐久長聖試合レポート
(1回裏に佐久長聖が1点、2回表に聖光学院が1点)

<準決勝>
大阪桐蔭15-9敦賀気比試合レポート
(1回表に敦賀気比が5点、1回裏に大阪桐蔭が3点)

 大阪桐蔭は自身2回経験している逆転の法則を、この決勝戦でも再現しようとしていた。


 3回にはレフトへの二塁打で出塁した1番中村誠(3年)が今井のこの日2回目の暴投で三進し、1死後、3番香月 一也(3年)のセンターへの犠牲フライで同点のホームを踏む。
これまでの逆転の法則もあり、大阪桐蔭優位で試合は進むと普通なら考えるが、マウンドの福島はそう思えなかったのだろう。5回表の三重の攻撃に戻ろう。

 ヒットで出塁した俊足の長野を一塁に置いて佐田がバント、これを福島が二塁へ投げ野選とするのだが、味方打線が逆転してくれると信じていれば一塁へ投げ、一死二塁の局面を選択するはずだ。そう考えられなかったのは、三重の先発・今井の高低の攻めに対して、味方打線は2点取るのが精一杯、というふうに福島の目には映ったのだろう。そうでなければ、この野選は考えられない。

 無死一、三塁から3番宇都宮東真(3年)がセンター前に勝ち越し打を放ち、なおも走者は無死一、二塁に残る。大阪桐蔭を突き放す絶好のチャンスが到来したわけだが、ここからの攻撃が結果的に見れば三重の敗因になる。
三重ベンチがこの場面で選択した作戦はバントだった。

 4番の西岡がそれまでの5試合でバントをしたことは一度もなく、大垣日大戦(試合レポート)では無死一塁の場面で「打て」のサインが出ている(捕邪飛)。プルヒッターで知られる西岡はいかにもバントが得意そうでなく、三重大会でも犠打記録は1つしかない。
結果論でなく、ただでさえリスクが伴うバントをこの場面で西岡にさせるべきではなかったし、西岡は準決勝までの5試合で1本塁打を含む打率.400と絶好調だった。悪い予想が的中して西岡のバントは一塁へのフライになり、飛び出した一塁走者が帰塁できず併殺という最速の結果になってしまう。


 三重は2回にも無死二塁で6番山井達也(2年)がバント失敗(投飛)、7回表には1死三塁でスクイズを外され(打席の宇都宮はこれを振らない)三塁走者が飛び出して挟殺プレーで憤死している。
これだけバントの作戦が外れるとバントをできなかった三重より、それを阻止した大阪桐蔭のディフェンス陣を褒めたほうがいいのかもしれない。

 7回裏、大阪桐蔭は四球→バント→死球で二死満塁とし、3回戦以降当たりを取り戻している1番中村がセンター前に2点タイムリーを放ち、勝負を決定づける4点目を入れる。バントの成功・不成功が勝敗に微妙に関わっているようにも感じられる。

 敗れこそしたが三重はよく戦った。
左腕を苦手とする大阪桐蔭打線を三重の先発・今井は縦割れのスライダーを中心にした配球で翻弄。5人の左打者には15打数4安打、打率.267と善戦。とくに準決勝で5打数3安打5打点(1本塁打)と大活躍した7番森晋之介(3年)はカモにし、外角にスライダーを投げていれば少々コースが甘くなっても打たれないという安心感があった。

 しかし、7回裏の1死二塁、森に対して2ボール1ストライクからのスライダーが内角に抜け、これが死球となって1死一、二塁の局面を作ることになる。三重からすれば悔やみきれない1球だが、大阪桐蔭からすれば中村の決勝2点タイムリーにつながる貴重な伏線になったと言えるだろうか。

 1球が勝負を左右する決勝戦にふさわしい熱戦の試合時間がわずか1時間41分と知って驚いた。高校野球の魅力が凝縮した一戦と言っていいだろう。

(文:小関順二)

【野球部訪問:第35回 大阪桐蔭高等学校(大阪)】

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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