大阪桐蔭vs敦賀気比
レベルの高い技術の応酬と、情報戦。敦賀気比・平沼を攻略した大阪桐蔭
1試合最多ホームランは06年の智弁和歌山5本、帝京2本の計7本。それに並ぶのではないかという空中戦がこの日演じられた。
先行したのは敦賀気比。
1回表、1死後、2番下村崇将(3年)、3番浅井洸耶(3年)、4番岡田耕太(3年)が3連打して1死満塁。このチャンスに5番峯健太郎(3年)が左前にタイムリーを放って先制。さらに満塁から6番御簗翔(3年)があっと驚く満塁ホームランを放って5点を先制する。
しかし、大阪桐蔭はこんなことで揺るがない。
1回裏、先頭の1番中村誠(3年)が2ボール後の3球目ストレートを振り抜いて左中間スタンドに放り込む。この一発が大阪桐蔭ベンチを活気づける。
2番峯本匠(3年)が四球で歩き、3番香月一也(3年)の左前打で一、二塁、4番正随優弥(3年)がバントで送って1死二、三塁とし、5番は2回戦の明徳義塾戦(試合レポート)以来の5番に座る森晋之介(3年)。
森が初球の123キロスライダーを振り抜くと打球は一塁線を激しく抜く二塁打となり、2人の走者を迎え入れ、点差はあっという間に2点差に詰まる。
2回には2死から1番中村がストレートの四球で歩き、2番峯本が1ボールからのストレートをおっつけて左中間に同点となる2ランを放つ。
こうなると大阪桐蔭ペースと思いがちだが、敦賀気比は3回に6番御簗が2打席連続のホームランをライトスタンドに放り込み1点勝ち越す。
敦賀気比に行きかけた流れを強引に引き戻すような大阪桐蔭の波状攻撃が行われたのは4回裏。
8番福田光輝(2年)が中前打で出塁、9番がバントで送って1死二塁とし、1番が倒れて2死になるが、2番峯本が同点タイムリーをセンター前に放ったのに続き、3番香月が四球で歩いて一、二塁。
この場面で正随が二者を迎え入れる三塁打を右中間に放ち、続く5番森が2ランホームランをライトに放ち、試合の流れは完全に大阪桐蔭のほうに傾いた。
このとき、私の携帯に一通のメールが入る。野球関係者I氏からのもので、そこには「平沼の球種別のクセ、見抜いている感じ」とあった。
話は試合後に飛ぶが、大阪桐蔭関係者にこのクセ盗みのことを聞くと、敦賀気比の先発・平沼翔太(2年)のセットポジションのときの腕の位置でカットボール、落ちる系、ストレートの癖がわかっていたという。なるほど、と納得した。大阪桐蔭各打者のスイングが明らかに確信に満ちていたからだ。
試合に話を戻すと、敦賀気比は5回表に8番山本皓大(2年)がタイムリー、9番中本貴大(3年)の二塁打で2点入れ、スコアを8対10とし、試合の行方は依然として混沌としていた。
しかし大阪桐蔭は6回に1番中村が四球で歩き、2番峯本のとき平沼が暴投を2つ続け、中村は難なく三進。峯本が四球で歩いて一、三塁となり、3番香月が左中間を破る二塁打で2点追加。
2死後、走者三塁のときには6番青柳昴樹(2年)のショートゴロを浅井が一塁に送球エラーし、勝負は決した。
大阪桐蔭の先発・福島孝輔(3年)は15安打、9失点されながら9回を完投し、責務をまっとうした。
見事だったのは2回以降、敦賀気比のクリーンアップにヒットを1本しか許していないこと。1回は3人に3連打されたのになぜだろう。
1回はスライダーの落ち込む位置が明らかに高かった。それが2回以降、低くなった。具体的にはくるぶし辺りに落ちるようになった。このボール球を1回と同じ意識で浅井、岡田、峯は振り続け、凡打を重ねた。敗因の1つと言っていい。
試合後、平沼は「福井県民に申し訳ない」と涙にくれたが、よく投げた。個人的にはレベルの高い技術の応酬と、情報戦の背景もわかり、今大会でも強く印象に残る試合になった。ご苦労様と言いたい。
(文:小関順二)
【野球部訪問:第35回 大阪桐蔭高等学校(大阪)】