利府vs佐賀北
利府、個性を生かした継投策で甲子園初勝利!
2007年に全国優勝した佐賀北と2009年選抜で21世紀枠での出場ながらベスト4入りした利府との一戦。
公立校の両校はお互い、強豪私学のようにトップレベルの技量を持った選手が集まるわけではない。あくまで地元の選手が中心となって、熱意ある指導者の下、叩き上げで、強化してきたチームである。全国には利府、佐賀北のようなチームが多数あろう。両チームの戦いは全国の公立校にとってお手本になるのではないか。そういう視点で観戦した。
佐賀北の武器は走塁だ。
3回表、一死一塁で7番井田 智博(3年)の場面で、ヒットエンドランを敢行。一塁走者の田中 耀(3年)はなかなか速いスタートを切っており、井田が打球を当てた直後には二塁近くに到達し、さらに一ゴロの打球を見て三塁に到達していた。ただの内野ゴロで三塁まで陥れる。佐賀北の走塁に対する姿勢の高さが伺える。
この回は無得点に終わったが、走塁で利府バッテリーを崩す時が来ることが予想できた。
利府は宮城大会を継投策で勝ち上がってきたように、この日も継投だった。
先発の奈須野 聖也(3年)は右サイドから130キロ前後の直球、スライダーをテンポ良く投げ分ける技巧派。大きく曲がるスライダーは、なかなか捉えづらい。その奈須野は佐賀北打線を4回無失点に抑えると、5回表からは左腕・山内 望(3年)が登板。山内はこの回を無失点に抑える。
5回裏、利府は二死一塁から1番万城目 晃太(2年)がストレートを捉え、左中間を破る三塁打。やや上がりすぎた飛球にも見えたが、外野の頭を越えていった。さらに上野 幹太(3年)は右前適時打で2対0とした。
投手戦の均衡が崩れた時、試合は動きやすい。2点を追いかける佐賀北は6回表、一死一、二塁のチャンスを作り、5番田中の場面で、ダブルスチールを敢行。これが成功し、一死二、三塁。『走塁の佐賀北』がいよいよ本領を発揮し始めた。
田中の遊ゴロの間に1点を返し、2対1。そして6番松尾 直樹(3年)が右中間を破る二塁打を放ち、2対2の同点に追いつく。バッテリーの隙を突いたダブルスチール、そしてボールに逆らわない右打ち。佐賀北は非常に高度な攻めが出来ていた。
しかし利府は6回裏、佐賀北の2番手・福井 一朗(3年)を攻めたて、二死満塁のチャンスを作る。
バッターは先ほど先制打を放っている万城目。このピンチに福井は140キロ台の速球で押していく。非常に力のある速球を投げる投手だが、万城目は141キロのストレートを負けせずに振り抜いた。打球は中前適時打となり、二者生還。利府が4対2と勝ち越しに成功した。140キロ台の速球に対しても全く振り負けしない万城目のバットコントロールの良さ、スイングの鋭さ。利府の選手の中では最も高度な打撃を見せていた。
7回表、2点のリードをうけ、マウンドに登ったのが渡辺 智也(3年)。
渡辺は185cmの長身投手。投球フォームはかなり変則的で、強烈なインステップから右スリークォーター気味に腕を振りにいく。実にタイミングが取りづらく、打者の手元で大きく曲がるスライダーと130キロ台の直球のコンビネーションで佐賀北打線を封じ込んでいく。
9回表、二死満塁まで追い上げられたが何とかしのぎ、利府が夏の甲子園初勝利を決めた。
利府で際立ったのが個性のある投手陣だ。
135キロ以上の速球を投げる投手は1人もいないが、それぞれが特徴を持っている。奈須野は右サイドからの癖球がウリで、山内も左腕から120キロ台とはいえ、コントロールの良さが光る。3番手の渡辺は独特の腕の振りから投げ込むスライダーの精度の高さと130キロ前半の直球を投げ込むコンビネーションは、短いイニングではなかなか打ち崩しにくい。
どの投手も個性的で、全国で戦うには大きな戦力ではないだろうか。現在、トレーニング技術が発達したとはいえ、高校生がそう簡単に140キロ以上の速球は投げられるものではない。だが投手は打者を打ち取るのが仕事であり、130キロ前後でも、何かアクセントとなる武器があれば抑えることが出来る。そういう意味で、利府の3投手はしっかりと自分達の武器を持って、自信を持って投げていた。
高校野球は1人のエースに委ねられることが多いが、利府のそれぞれの個性を生かした投手作りと継投策は甲子園を目指す公立校にとって大きなヒントを与えたに違いない。
(文:河嶋 宗一)