星稜vs静岡
一試合で大きく成長を果たした岩下大輝(星稜)
奇跡の大逆転劇で甲子園出場を決めた星稜。今年の中心はエースの岩下 大輝(3年)である。昨夏、エースとして甲子園のマウンドに登りながらも鳴門打線に打ち込まれ、悔しい敗退。
その悔しさをバネに1年間猛練習に取り組んだ。その結果、球速は145キロまで達し、変化球の精度も磨かれ、石川大会では19回を投げて24奪三振と投球回以上の奪三振を奪った。石川大会決勝戦では6失点を喫したとはいえ、昨年よりも成長した姿を見せて、なんとしてでもチームに勝利を届けたかった。
岩下は1球投じるだけで、昨年よりも成長が感じられた。ワインドアップから大きく振りかぶり、左足を高々と上げて、右足でしっかりと立つバランスの良さ。そして左足を高い位置で伸ばしていきながら、強く踏み込んで、テイクバックで、大きく取って、しっかりと胸を張ってから力強い腕の振りに加え、滑らかな体重移動。上半身と下半身が連動した完成度の高いフォームで、そして高校生とは思えない力強い動き。
初球、145キロを計測する。ウエイトが乗った素晴らしいストレートだった。
だが1番内山 竣(2年)に右前安打を打たれてしまい、リズムを乱され、二死二、三塁のピンチをまねく。5番安本 竜二(2年)の場面で、バッテリーミスで先制を許し、なおも二死三塁で、安本に左前適時打を許し、2点の先制を許してしまう。
その裏、星稜は福重 巽(2年)の適時二塁打で1点を返すが、2回表にも岩下は2番大石 智貴(2年)に適時打を許し、1対3と2点差となる。 序盤の岩下はストレートの制球力が定まらなかった。140キロ台を計測しても、低めに集まらない。125キロ前後のスライダー、130キロ台のフォーク、110キロ台のカーブを投げ分けながら、ミートが上手い静岡打線を打たせて取りながら、凌いでいた。
3回裏に相手の敵失で1点差に追い上げるが、なかなか決定打が出ず、3対2のまま試合が進行する。
岩下は回を追うごとに立ち上がりよりも制球が定まり、立ち直りを見せていた。だが7回表、二死から2番大石に四球を与える。その大石は初球スチールを決め、二死二塁。そして3番岸山 智大(3年)に左前適時打を許し、4対2と点差を広げられてしまう。四球から盗塁を許し、あっさりと適時打を許す。取られ方としては非常に悪い。岩下もここまで力投を見せていたが、多くの人が万事休すの展開と思ったのではないだろうか。
だが『逆転の星稜』。この試合でも粘りある野球を見せる。内野安打、敵失で一死一、二塁のチャンスを作り、1番谷川 刀麻(2年)の敵失と野選の間に二塁走者が生還し、4対3。なおも一死一、二塁から2番中村 勇人(3年)の左前適時打で4対4の同点に追いつく。静岡のミスが絡んだとはいえ、こんなあっさりと追い付けるものではない。今の星稜には何かが味方をしている。
この同点劇に岩下はさらに調子を上げていく。一死から1番鈴木 将平(1年)を外角ストレートで見逃し三振に打ち取る。この三振に岩下は満面の笑みを見せる。ようやく自分の意図通りのストレートを投げて三振を打ち取ったことによる笑みであった。7番平野 英丸(2年)を三ゴロに打ち取り、三者凡退に切り抜けた。
そして8回裏、一死二塁で岩下に打席が回った。岩下は初球のストレートを振り抜き、右中間を破る適時二塁打を放ち、勝ち越しに成功。自ら試合を決める一打を放った。
9回表のマウンド。初回の岩下に比べ、9回の岩下は堂々としていた。三者連続三振で、試合終了。序盤に比べれば見違えるような投球で静岡打線を封じこみ、2回戦進出を決めた。
岩下は石川大会を含め、初完投。立ち上がりは緊張で、苦しんでいたものの、粘り強く投げて試合を作り、最後は自慢のストレートとフォークのコンビネーションで三者連続三振締め。初回と比べると速球の球威、コントロール、変化球の精度の高さはまるで別人。大きな成長を感じられた投球であった。
どのチーム、どの選手も初戦の戦いと言うのは難しい。その難しさを乗り越え、この試合で成長を見せた岩下は今後の試合でも快投が期待出来るのではないだろうか。一試合ごとに成長を見せて、この夏の主役に躍り出るつもりだ。
(文:河嶋 宗一)