出水vs古仁屋
120%の力、出し切る・古仁屋
2点を追いかける出水は3回、3番・井手口 夏輝(2年)の犠牲フライで反撃開始。6回に4番・内野 直人(3年)の犠牲フライで同点に追いつくと、終盤8回、一死二塁から4番・内野がライト前タイムリーを放ってようやく勝ち越した。
序盤はピンチの連続だったが、5回からリリーフした左腕のエース宮野 兼一(3年)が古仁屋打線に追加点を許さず、1点差で接戦をものにした。
1点差で敗れはしたものの、古仁屋の加藤雅隆監督には「子供たちが120%の力を出し切ってくれた」手応えがあった。與島 朋浩主将、エース南 優生、リードオフマンの泰原 翔太、センター・福山 功偲。
昨夏、ベスト16入りした先輩たちが引退してから、4人だけで野球部を続けた3年生がけん引し「思う存分、野球が楽しめた」(與島主将)。
4月に1年生3人と2年生が1人入って野球部員は8人になった。5月に県総体が終わって、バスケットボール部から3人、サッカー部、テニス部、剣道部から1人ずつ借りて、チームとして活動できたのはわずか1カ月だ。
このメンバーで経験した実戦は奄美とした2試合のみ。控えメンバーチームに大敗し、1年生チームとようやく引き分けだった。「9回まで試合ができるかどうか」(竹山英輔部長)さえ危うかったチームが、先制点をもぎ取り、勝利まであと一歩という接戦を演じてみせた。
チームとしてやれることは限られている。だからこそ、「自分たちの野球」(與島主将)にシンプルに徹することができた。
エース南はスローカーブを効果的に織り交ぜ緩急を使った投球が、最後までブレなかった。守備でエラーが出るのは当たり前。「4人が全部カバーするつもりで」(與島主将)、どれだけミスが出てもすぐに切り替えて、ひたむきに次のプレーを頑張った。
「我々はよく切り替えと言うけれど、本当に気持ちを切り替えるとはこういうことなんだということを、子供たちから教わった」と竹山部長は言う。
4人だけで練習していた頃、與島主将は「試合に出られるかどうかわからないのに、きつい練習に意味があるのか」葛藤もあった。「大好きな野球をやりたい」気持ちだけが支えだった。野球は1人ではできない。1人がミスしても、仲間がカバーする。1人が良いプレーをしたらみんなで盛り上がれる。そんな野球をやりたい一心で、4人だけでできる練習をずっと続けてきた。
その姿に最後の夏は何としても試合に出してやりたいと指導者も他の部に頭を下げた。「4人だけでずっと努力していた」姿に心打たれ、バスケ部3年生の佐藤友哉は1カ月野球部で過ごすと決めた。
勝ち負け以上に、9回まで2時間15分、古仁屋の単独チームで「野球ができたことがうれしかった」(與島主将)。
ベンチ上の観客席から、ずっと声援を送っていた前主将の龍元 圭介さんは「最後まであきらめず、最高の野球をやっていた」と感動していた。
(文=政 純一郎)