試合レポート

龍谷大平安vs履正社

2014.04.03

俊足の1番打者徳本が好打・好走塁 4回で勝敗決す

 選抜大会の決勝戦としては1979(昭和54)年以来、35年ぶりの近畿決戦となった。試合は序盤から龍谷大平安ペースで進む。

 まず1回表、1番徳本 健太朗(3年)が2ボール後の3球目スライダーをライト線へ運んだ。
 二塁打と思った打球だが、徳本はまったく足を緩めず躊躇なく二塁ベースを走りすぎ、さらに三塁へ向かって加速する。前日の佐野日大戦の第4打席でも三塁打を放ち、このときの三塁到達タイムが今大会ナンバーワンの11.34秒だったので、徳本なら三塁を狙うだろうと私もストップウォッチのストップボタンを押さなかった。そして三塁ベースにフックスライディングで到達したときのタイムは前日をさらに0.26秒上回る11.08秒。これは相当速く、例年なら確実にプロ・アマを含めても私の計測した中ではトップ3に入るタイムだ。

 この徳本を2番大谷 司(3年)のセカンド内野安打で迎え入れ先制点を挙げた。さらに3番姫野 大成(3年)がバントで送り、そこから四球、四球、死球と履正社の先発・溝田 悠人(2年)が制球難に陥り、押し出しでさらに1点追加した。

 3回にも一死から4番河合泰聖と5番中口大地(ともに3年)が四球で出塁し、二死後に7番石川 拓弥(3年)がライト前タイムリーで履正社を引き離し、完全に主導権を握る。4回には三塁打で出塁した8番高橋 佑八(3年)を1番徳本がレフト前タイムリーで迎え入れ4点目、ここで勝敗は決したと言っていいだろう。

 ここまでの得点経過の中で目立ったのは徳本の好打と俊足である。打撃面では第1打席の三塁打が前述したように2ボールからのスライダーを打ったもので、第2打席の安打性の左飛が1ボールからのストレートという具合に狙い球を絞った好球必打が目立ち、第3打席のタイムリーは3ボール2ストライク後の高めストレート、第4打席のレフト前ヒットが1ボール2ストライク後の外角低めスライダーの落ち際を叩いたもので、追い込まれてからの対応力の高さがさすがだった。

 脚力は三塁打の11.08秒が絶賛もので、それ以外では4回のタイムリーのあと二盗を成功させ、このときの動作開始から二塁ベース到達までに要したタイムが3.37秒。PL学園時代の前田 健太(現広島 独占インタビュー 【前編】 【後編】)を取材したとき、前田は「PL学園では高校生の二盗に要するタイムを最速3.40秒に設定して投手のクイックと捕手の二塁送球を調整している」と言っていたが、徳本の俊足はPL学園の常識を100分の3秒上回っていたことになる。これは相当凄いことである。

 チームとしての脚力はどうだろう。私が設定した全力疾走の基準「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12.3秒未満」をクリアした人数を、試合ごとに履正社と対比してみよう。

        龍谷大平安          履正社
 1回戦  (鹿児島大島戦)    4人5回  (都立小山台戦)  4人5回
 2回戦  (八戸学院光星戦)2人2回  (駒大苫小牧戦)2人3回
 準々決勝 (桐生第一戦)  3人4回  (福知山成美戦)2人2回
 準決勝  (佐野日大戦)  2人2回  (豊川戦)   3人6回
 決勝   (履正社戦)   3人3回  (龍谷大平安戦)3人5回


 若干の上下はあるがほとんど同レベルの脚力で5試合を戦ったと言っていいだろう。
 別の角度から見ると「一塁到達5秒以上~」のアンチ全力疾走(タラタラ走り)が両校とも少なかった。この決勝戦では龍谷大平安がゼロで履正社が1人(1回)だった。たとえば、1回戦に出場したある学校などは4人(4回)がアンチ全力疾走を記録して興醒めさせた。

 履正社のアンチは都立小山台戦、福知山成美戦、豊川戦がゼロで、駒大苫小牧戦が2人(2回)。つまり5戦を通じてアンチ全力疾走はわずか3人(3回)だった。龍谷大平安桐生第一戦、履正社戦がゼロで、5戦通じては3人(4回)と履正社と同様に少ない。この2校が決勝戦で戦ったのだから、緊張感のある走塁が行われたことは当然である。

 履正社では2年生の5番西村 卓浩が毎試合「一塁到達4.3秒未満~」の全力疾走を見せてくれた。168センチ、69キロの小兵選手で、当初はその存在を気にも留めなかったが、バットを振り抜いたクリーンヒットでも4.3秒未満の一塁到達を繰り返すその姿に、これは徳本に匹敵する俊足になり得るのではと目を凝らして見るようになった。

 都立小山台戦・第1打席のレフト前ヒット4.25秒、駒大苫小牧戦・第4打席のレフト前ヒット4.25秒、豊川戦・第2打席のレフト前ヒット4.25秒、第4打席のレフト前ヒット4.28秒――すべて逆方向のレフト方向のときにタイムクリアしているのは“走り打ち”を連想させて嫌だが、ヒットを打つと気を抜いて5秒以上かけて走る選手も珍しくないので、やはり素晴らしいタイムである。

 投手では龍谷大平安では高橋 奎二(2年)の足を高く上げるフォームからの縦変化のカーブ、二番手で登板した元氏 玲仁(2年)の小さく鋭く落ちるスプリットのような変化球、そして4対2という僅少差の8回裏、一死満塁の場面で四番手としてリリーフした中田 竜次(3年)の炎のような火消し役に心が震えた。

 履正社では溝田が1回戦の都立小山台戦で見せたあわやノーヒットノーランという快投、リリーフ役に徹した永谷 暢章(2年)は2回戦の駒大苫小牧戦に登板して147キロを筆頭に145キロ以上の剛速球を連発した投球が最も心に残った。永谷は決勝戦の龍谷大平安戦、モーションを起こしてから投げたボールが捕手のミットに届くまでの投球タイムが、プロをも含めても最長の3.08秒を記録して驚かしてくれた。

 このゆっくりしたモーションで投げて体重を支える軸足(右足)がピクリとも揺るがないのだから下半身の充実は高く評価していい。溝田、永谷とも試合ごとに球威とスタミナをなくしているので、夏に向けて課題矯正に励んでほしい。

 今大会はプロが狙うような「超高校級」の冠がつく選手は例年にくらべ少なかったが、観る人の心を揺さぶる好ゲームは多かった。以下に紹介しよう。

 3月22日 徳島池田4-3和歌山海南(9回サヨナラ)
 3月22日 豊川4-3日本文理(延長13回サヨナラ)
 3月24日 関東一4-2美里工(関東一が、8回裏に4点取って逆転)
 3月24日 明徳義塾3-2智弁和歌山(延長15回サヨナラ)
 3月27日 履正社7-6駒大苫小牧(9回サヨナラ)
 3月28日 佐野日大5-4智弁学園(延長10回サヨナラ)
 3月29日 広島新庄1-1桐生第一(延長15回引き分け翌日再試合)
 3月31日 佐野日大7-5明徳義塾(延長11回、田嶋が投げ抜く)
 3月31日 龍谷大平安5-4桐生第一(延長10回サヨナラ)
 4月1日 履正社12-7豊川(豊川が8回に5点取って逆転する一幕も)

 これらの好ゲームを振り返りながら今大会のコラムの最終回とする。ありがとうございました。

(文=小関順二

決勝戦 試合後のインタビューから

 龍谷大平安 原田英彦監督
 ホントにみんなが、卒業生、OB、ファンの方、色んな方に期待していただいいた。それを奴らが本当によくやってくれた。褒めてやってほしいと思います。
 普段通りにここまできた。本気で日本一を狙いにきました。僕はすごく緊張していたが、彼らは淡々とに今日一日を過ごしてくれた。非常に力強く感じました。
 平安高校は長い歴史ですが、監督という立場ではなくて、『HEIAN』ファンとして本当にうれしいです。

 龍谷大平安 中田竜次投手
 8回一死満塁2ボールで行けと言われた時は、抑えてやろうという気持ちでした。大変な所だという気持ちはなかったです。3ボールになりましたが、思ったより冷静に投げられたと思います。気持ちで投げたので、ああいう結果になったのかなと思います。
 (原田監督は、一番厳しい所で出て、しっかり抑えるのが今年の龍谷大平安の1番ですと話していたが)その言葉を果たせたと思います。
 優勝を決めた瞬間は、とてもうれしかったです。

 龍谷大平安 河合泰聖主将
 本塁打は後ろに繋ごうという気持ちで打席に入ったんですけど、インコースだったので、振ったら入りました。
 (ダイヤモンドを一周して涙も見えましたが)次の回もあったので、切り替えて、守備に集中しました。中田の好リリーフのおかげで、あの一打が打てたと思います。
 このチームは、当初から目標は日本一という所に置いていた。厳しい冬だったが、それをしっかり乗り越えて、一歩、一歩上がってきて、そしてこの優勝を手に入れることができたと思います。
 今年の龍谷大平安は、今までにない元気のあるチームだと思います。
 38回目でやっと選抜優勝ができました。今まで、支えていただいた方々に感謝して、これからも龍谷大平安のこの年が強いと言っていただけるよう、頑張っていきたいと思います。

 履正社 岡田龍生監督
 やはり後一歩の力の差。野球はミスをした方が負けるというゲームになりました。夏までに何とかこの課題を克服して、もう一度甲子園に戻ってきたいと思います。
 溝田は初回の点の取られ方が非常にもったいなかったが、そこから彼自身も何とか立て直して、あそこまで投げられたのは大きな収穫だと思います。
 打者の方のミスが多すぎた。本来の履正社の野球を、もう一回やりたいなと思います。8回の満塁は、中田君の気合で、ウチの打者が抑え込まれた。
 私が監督をやらせていただいて、27年間で本当にここまで生徒たちもよくやってくれた。卒業したOB達、協力していただいている周りの方々にも支えられてここまで来させていただいた。今度は優勝して、恩返しをできればと思っています。
 まだまだ、平安さんには伝統や色んな事がが、足元にも及ばない。これから履正社の伝統を作りあげていきたいと思います。

 
 

 
 
 
 
 

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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