試合レポート

龍谷大平安vs八戸学院光星

2014.03.30

中3日と中1日、そして延長15回直後の一戦!相手を深く読み、二つの立ち上がりを突く!!

 「初回の5点が大きかった」。龍谷大平安の原田英彦監督と、八戸学院光星の仲井宗基監督が語った通り、1回裏に目立つ『5』という数字が、勝敗のポイントとなった。

 『5』という数字を奪ったのが龍谷大平安。原田監督はこの試合のテーマとして、「初回から集中しよう」と選手に伝えていた。
 その根拠の一つが、前半に苦しんだ1回戦(大島戦)の試合内容。これは、2回戦までの期間でしっかりと気持ちを引き締め直してきた。

 もう一つが試合感覚の差だ。
 大会6日目に初戦を迎え、中1日での2回戦となった八戸学院光星に対し、大会5日目の登場ながら、中間の雨で中2日から中3日と変わった龍谷大平安。原田監督は、相手の先発投手が、1回戦で出番のなかった佐藤駿(3年)と知り、「中1日ということで、先発投手も考えられたのかな」と感じたという。

 そして、この試合の前にまた初回の意味を増す出来事が起こった。それが第2試合(広島新庄桐生第一)の延長15回引き分け再試合。室内練習場で過ごす時間が増したことで、アップの仕方は難しくなり、お互いに初回の重要性が大きくなった。

 1回表、先攻は八戸学院光星龍谷大平安の先発・高橋奎二(2年)が、1番北條裕之(3年)から三振を奪うなど、三者凡退で立ち上がった。
 「(前の試合が長引いて)待っている間は緊張して、足がガクガクだった」と話した高橋奎。後攻の為、最重要だった初回の守りをしっかりと終えて、次は攻撃の番を迎えた。

 ただ1回裏、1番徳本健太朗と2番大谷司(ともに3年)が、八戸学院光星の佐藤に打ち取られる。データがあまりなかっただけに、原田監督は「1、2番が倒れてどうなるかと思った」と若干の不安を感じる。だが、「(佐藤投手の)ブルペンをずっと見ていて、コントロールに不安があるのかなと思いました」と、直前に得たデータに活路を見いだしていたことも明かした。

 狙い通り、3番姫野大成(3年)はストレートの四球で歩く。その後、この試合でもう一つ、八戸学院光星に初戦との違いが出ていた部分を突くことになる。それはキャッチャーが初戦の馬場龍星(2年)から、主将の千葉諒(3年)に変わっていたことだ。
 「あの子(佐藤投手)には千葉君なのかな」と読んだ原田監督。逆に仲井監督は、「エースの意地 キャプテンの意地を見せてもらいたいなという思いがあった」とこのバッテリーを起用した胸中を明かした。

 そんな状況の中、4番河合泰聖(3年)の5球目で姫野が盗塁を成功。さらに河合が四球を選んだ球がワイルドピッチとなって、二死一、三塁とチャンスが広がった。
 続く5番中口は、初球をレフトへ運ぶタイムリーを放ち、1点を先制した。

 一、三塁とチャンスが残り、原田監督はさらに動く。6番常仁志(3年)が1ボール1ストライクとなった後、一塁走者の中口に、スチールのサイン。そしてキャッチャーの千葉が二塁へ投じた瞬間に、三塁走者の河合が本塁へ向かってスタートを切り、見事にダブルスチールを成功させる。
 「サインが来ると思っていました」と二塁に走った中口は準備できていた気持ちを話す。タイムリーの後の2点目に足を絡めた強かさを相手守備陣に見せつけた。

 「劣勢になった時に畳みかけてくる攻撃は想定していたが、いざやられて対応ができなかった」と勝負の場面での完敗を認めた仲井監督。
 原田監督は、「実は馬場君をマークしていたんです。肩が強く、洞察力もある。バッティングも良いですし。一番、ウチが警戒していた選手。千葉君は公式戦が久しぶりだと思うので、初回から動かしました。逆に馬場君ならばなかったかもしれない」と、八戸学院光星のバッテリー起用を深く読んで、作戦を立てたことを話した。

 この後、常と石川にタイムリーが出て、1回に挙げた得点は『5』。集中していた初回を制し、龍谷大平安は楽な展開へと持ち込んでいった。


 佐藤を攻略した龍谷大平安陣営は、次の標的をキャッチャーに定めた。5対2となっていた5回表に八戸学院光星は、千葉の打順で代打を起用。そのため、裏の守りからは馬場がマスクを被った。
 ピッチャーならぬキャッチャーの立ち上がりに、2本のヒットと内野ゴロで一死二、三塁と攻め立てた龍谷大平安

 『スクイズか?それとも他の策なのか?』

 再び読み合いが始まる中、マウンドの八戸学院光星の二番手・中川優(2年)が、8番髙橋佑八(3年)に対する。
 1ボールからの2球目。三塁走者の中口と二塁走者の常がスタート。結果は髙橋佑がファウルにしてしまうが、この状況でのエンドランに、馬場マスク越しに考えさせられる1球となった。

 結局、髙橋佑は3球目をセンターに運び、犠牲フライ。立ち上がりのキャッチャー・馬場にとって、そして両チームにとって勝負の流れを決定づける1点が龍谷大平安に入った。
 予断ではあるが、原田監督は髙橋佑のファウルを振り返り、「本当は(策を)見せたくなかった」と表情を険しくした気持ちを話しているのが興味深い。
やはり“勝負師”である以上、敵に情報(策の意味)を解らせたくないというのが、この言葉に表れているように感じる。

 終盤は点差があったことで、先発の高橋奎をできるだけ引っ張った。戦略も、準々決勝以降を意識してのものに変わっていく。
 「(直前の第2試合が引き分け再試合になり) 明日、試合がないという状況にはラッキーだと思いました」。
 30日は雨予報となってはいるが、実際に試合が中止になるか否かは当日になってみないと分からない。前日に、『明日の試合が絶対にない』という状況となったことが、この日のゲームにも反映されていったのだ。
 さらに準々決勝の相手は、引き分け再試合の勝者。ここでも中1日と3日連戦の対決という、龍谷大平安にとって幸運な状況が発生する。そして、試合をみながらしっかりと情報収集する時間もできた。1日の休みを自校のグラウンドで過ごせる地元の強みもある。

 監督として甲子園通算20勝を果たしても、次の1勝、そして選抜初制覇へ向けて、すでに指揮官の頭は切り替わっている。それが取材時間終了後の様子から感じられた。

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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