試合レポート

広島新庄vs桐生第一

2014.03.30

延長15回決着つかず!膠着状態を打ち破るための策とは何か?

 広島新庄山岡就也(3年)、桐生第一山田知輝(2年)という技巧色の濃い投手戦が延長15回まで続き、1対1の均衡はついに破れなかった。2人の技巧の特徴は本格派の色を残している、というところにある。

 たとえば左腕山岡は、大会雑誌にストレートの最速が「143キロ」と紹介されている。しかし、この日の最速は136キロで、その多くは130キロ台前半である。事前情報の143キロと実際に投げた130数キロの差はおおよそ10キロ近く。山岡が意識しているのかいないのかわからないが、結果だけ見れば山岡はこの10キロ差をうまく活用していた。

 山岡の投球フォームは始動のときの足の上げ幅の大きさに特徴がある。足上げと同時に大きく体を後ろに預け、そこからガクンガクンとギアチェンジするように勢いを増して腕を振っていく。そして、力強い腕の振りとは裏腹に投げられる球は「最速143キロ」の快速球ではなく、130キロ台前半のストレートだったり、もっと多かったのは100キロ台の縦割れカーブや120キロ台のツーシームであったりする。
 大まかで申し訳ないが、ストレートの比率は全体の3割くらいだったのではないか。ストレートのタイミングでボールを待つ桐生第一の打者は変化球の多さに面食らったと思う。

 一方の山田は正統な右の本格派である。173センチの山岡に対して184センチと上背があり、その長身と柔らかい真上からの腕の振りで、1回戦の今治西戦ではストレートが最速136キロを計測した。しかし、この日の山田が投じたストレートの多くは120キロ台である。そしてストレートの比率は山岡同様、少なかった。

 低め、低めと呪文を唱えるようにカーブ、スライダー、チェンジアップをストレートと同じ腕の振りで投げ込んでくる、というのが山田の騙しのテクニックである。1、2回こそ得点圏に走者を進められる苦しい展開だったが、3回以降は三者凡退が7回もあり、危なげなく延長15回を投げ切った。
 


 打線に目を向けると、桐生第一はミスが多かった。7回にはエラーで出塁した山田が一塁で、9回にはやはりエラーで出塁した速水隆成(2年)の代走・翁長賢太(2年)が二塁まで進んだものの山岡の牽制球で殺されている。
 10回はエラーで出塁した高橋章圭(3年)がバントで二塁まで進み、2番石井翔太(2年)のライト前ヒットで生還を目論むが惜しくもホーム憤死。
 11回には2死一、三塁の場面で一塁走者の翁長が二盗を試みるが、キャッチャー・田中啓輔(3年)の正確なスローイングで刺され、チャンスはことごとく目を摘まれてしまった。エラーを得点にしていくのが甲子園で勝てるチームの特徴である。そういう面で桐生第一の攻撃には物足りなさがあった。

 広島新庄の2回以降のチャンスは唯一、11回裏だけだった。4番阪垣和也(3年)がセンター前ヒットで出塁し、5番奥田慎梧(3年)がバント処理を焦ったサードのエラーで続いて無死一、二塁。ここで6番打者の二角太陽(3年)がバントで送って二、三塁とし、7番打者の熊田 淳平(3年)が敬遠の四球で歩いて一死満塁というサヨナラ勝ちのお膳立てが整えられる。
 しかし、この絶好のチャンスに8番田中啓がファーストゴロ。ボールは3-2と渡り、一塁ベースカバーのセカンド・石井へと転送され、まさかのダブルプレーとなってしまった。14回にも田中啓がエラーで出塁するが二盗を失敗し万事休す。2時間25分の激闘はついに決着を見ず、30日の再試合に持ち越された。

 WBC(ワールドベースボールクラシック)では膠着状態を打ち破る作戦として盗塁がしばしば試みられる。私が確認したところでは盗塁をしている試合ほど勝率が高かった。もし、再試合が前日と同じような展開になったら、攻撃的な走塁で膠着状態を打ち破ってほしい。自分が動かなければ状況は何も変らない、とは人生にも共通する教えである。

(文=小関順二

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.29

【福井】福井工大福井、丹生、坂井、美方が8強入り<春季県大会>

2024.04.29

【春季埼玉県大会】今年の西武台はバランス型!投手陣の完封リレーで初戦突破!

2024.04.29

【春季神奈川県大会】横浜が慶應義塾を圧倒!ドラフト候補たちが投打に活躍!

2024.04.29

【春季和歌山大会】和歌山東の前芝が5回参考ながらノーノ―達成!プロ注目の強打者・谷村もタイムリーでアピール

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.28

【広島】広陵、崇徳、尾道、山陽などが8強入りし夏のシード獲得、広島商は夏ノーシード<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!