試合レポート

池田vs海南

2014.03.22

池田「サポーターの後押し」で、27年ぶり大逆転選抜1勝!

 サッカーではよく「サポーターの力が大きい」とよく言われる。
 事実、声援により劣勢をはね返した例も国内外で何度となく存在する。

 だが、高校野球で「サポーターの後押し」がこれほどまでに試合の流れを変えた例は恐らく初めてではないだろうか。
 実際、筆者が甲子園で取材をさせて頂いてから丸5年を迎えるが、この試合終了直後における徳島池田校歌斉唱時の声量は、2009年夏第91回選手権大会1回戦で酒田南に勝利した関西学院をはるかにしのぐもの。

 岡田康志監督が「色々な想いが巡ってジンと来た」、父・宏一郎さんが岡田監督と同期生の永井千華マネジャー(3年)が「手が震えた」のも当然であろう。

 とはいえ、8回表まで試合の流れは完全に海南にあった。
 21世紀枠出場ながら昨秋和歌山県大会決勝戦で智辯和歌山に5対6、近畿大会1回戦でも履正社に1対2と接戦を演じた経験に立脚した堅実な守備。

 投打に渡る絶対的エース・岡本真幸(3年)が右手のひら下部を骨折したことにより、急遽先発に指名された左腕・神崎稜平(3年)による「竹田和真(3年)と2人で穴を埋めようと思った」意気込みがスタンドまで伝わる気迫の投球。
 徳島池田打線は7回裏まで、初回に3番・三宅 駿(3年)の1安打のみに封じられる。

 さらに、海南は再三再四に渡る好守が光った2番ショート・空山侑大朗(3年)が2安打2打点、4盗塁と足も絡めて3点を先行。
 対する徳島池田は「精神的な緊張はなかったが、体が早く開いてしまった」エース・名西宥人(3年)が6四死球を与えながらもなんとか3失点にしのいだことで、接戦の体裁を保つのがやっとだった。

 だが8回裏、先頭の6番・喜多正史(3年)が右中間二塁打で出塁すると、
「何もしないとズルズルいってしまうと思った」岡田監督が一気に動く。

 代打に「昨秋県大会でレギュラーを失ってから、ずっとバッティングマシンでのセーフティーバントを練習してきた」林涼平(3年)、代走に藤田祥平(3年)。昨秋四国大会2回戦・西条戦で「走」のヒーローとなった林と、「打」のヒーローとなった藤田を同時投入したのだ。


 これが「7回までは打てなかったが最初から打っていく姿勢に徳島池田の野球を感じたし、畳み掛けていくことを凄く嬉しく感じた」と、1982年夏・1983年春夏甲子園出場。82年夏83年春全国制覇のOB・元巨人投手の水野雄仁さんをはじめ、地元からはバス50台、全国からも津々浦々から詰め掛けた「徳島池田サポーター」の心に火を付ける導火線となった。

林は見事に三塁線へのバントヒット。
 名西が内角ストレートに詰まりながらもライト前タイムリー。その時の様子を、ネクストバッターズサークルにいた上徳佳樹(2年)はこう表現している。

「空気が変わりました。自分でも鳥肌が立ちました」

「歓声を受けて体が浮いている感じでした」
一死満塁からサードのグラブ下を抜けるタイムリーを放った2番・髙井克也(3年)も、今まで味わったことのない感覚の中で一塁ベース上に立っていた。

 ただし海南もさるもの。続く一死満塁の大ピンチに三宅の二塁ベース背後のゴロを空山が「ここしかない」タイミングで併殺とし1点リードのまま最終回へ入っていく。

 そして運命の9回裏・徳島池田の先頭打者は4番・岡本昌也(3年)。
 ここでこの日、2打数ノーヒット1併殺打のスラッガーは、「振りぬく」から「食らいつく」に発想を変えた。
「下半身が浮いていたので、少しどっしり下ろす感じで打席に入りました」

 一、二塁間を真っ二つに破る安打で再び沸き上がる[stadium]阪神甲子園球場[/stadium]。
 その熱気が名手の判断を狂わせた。5番・木村諄(3年)の打球はショート正面へのゴロ。
「大事にいきすぎた」と緊張が失策を招き、続く藤田もバント安打。そして無死満塁から「カーブを狙っていた」林の打球は前進守備の二遊間を破り、絶叫と悲鳴と大歓声の中で二者がホームを駆け抜ける。

 こうして徳島池田は27年ぶりのセンバツ1勝。
 そして1992年夏、3回戦・神港学園戦以来22年ぶりとなる甲子園での校歌は、山上健造一塁手(現:徳島県那賀町議会議員)のサヨナラ安打以来となる「9回裏・2点タイムリーによる逆転サヨナラ勝ち・4対3」という運命的な一致によってもたらされたのである。

(文=寺下友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.29

【福井】福井工大福井、丹生、坂井、美方が8強入り<春季県大会>

2024.04.29

【春季埼玉県大会】今年の西武台はバランス型!投手陣の完封リレーで初戦突破!

2024.04.29

【春季神奈川県大会】横浜が慶應義塾を圧倒!ドラフト候補たちが投打に活躍!

2024.04.29

【春季和歌山大会】和歌山東の前芝が5回参考ながらノーノ―達成!プロ注目の強打者・谷村もタイムリーでアピール

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.24

春の埼玉大会は「逸材のショーケース」!ドラフト上位候補に挙がる大型遊撃手を擁する花咲徳栄、タレント揃いの浦和学院など県大会に出場する逸材たち!【春季埼玉大会注目選手リスト】

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.28

【広島】広陵、崇徳、尾道、山陽などが8強入りし夏のシード獲得、広島商は夏ノーシード<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.05

早稲田大にU-18日本代表3名が加入! 仙台育英、日大三、山梨学院、早大学院の主力や元プロの子息も!

2024.04.02

【東京】日大三、堀越がコールド発進、駒大高はサヨナラ勝ち<春季都大会>

2024.04.12

東大野球部の新入生に甲子園ベスト4左腕! 早実出身内野手は司法試験予備試験合格の秀才!