池田vs西条
延長11回、池田の藤田祥平右翼手が決勝適時打
池田「厚き、熱き」選手層で27年ぶり秋四国4強!
初回に徳島池田が「試合の入りが硬かった」と西条・菅哲也監督も後々悔いることになる失策で先攻するも、西条もすかさず2回裏に一死一・三塁から8番・島田 真希投手(2年)の左前適時打で同点。その後は今大会屈指の好投手、スライダーとシンカー・カーブを自在に操る西条・島田真希と、最速139キロのストレートにカーブと縦スライダー、チェンジアップを織り交ぜる徳島池田・名西 宥人(2年)による果てることのない投手戦へと突入した熱戦は、最後は選手層の厚さが勝敗を分けることになった。
その序章は9回表・徳島池田の攻撃にあった。二死無走者から6番・喜多 政史右翼手(1年・左投左打・173センチ71キロ・脇町中出身)が四球で出塁すると、岡田康志監督はチーム1の俊足・林 涼平(2年・右投左打・165センチ55キロ・三好中出身)「とにかく盗めたら走れ!」と盗塁指令を彼に託した。
徳島大会準決勝までの3試合は「1番左翼手」先発起用も10打数ノーヒット1打点3三振・自慢の足も1盗塁の一方で1盗塁死と精彩を欠き、3位決定戦では守備固めに甘んじた林も、準備に余念はなかった。ここはそのまま彼のコメントを記す。
「ベンチから投手の投球タイミングをずっと測って盗んでいたし、セカンドもショートも二塁ベースから開いていたので絶対に成功する自信はありました」
7番・名西の2球目で頭から滑り込み二盗成功。それだけではない。続く3球目「サードも後ろに下がっていたので、100%成功する自信があった」林の足は迷いなくサードベースへ。戦慄さえ覚える連続盗塁は、名西の遊撃越適時打によって歓喜へと変わる。
ただ、真のクライマックスはもう少し後であった。その裏一死二塁から右飛が失策となり同点に追い付かれ、なおもサヨナラのピンチをしのいで迎えた11回表。西条の4個目の失策で出たランナーを二死三塁まで進め打席に入ったのは林に変わって9回裏から右翼手に入っていた落球の張本人、藤田 祥平(2年・右投左打・164センチ53キロ・三好中出身)であった。
徳島県大会では7打数1安打2打点も守備の堅さを買われ、準決勝・3位決定戦でも守備固めで全試合出場を続けてきた藤田だが、「ボールは見えていたが、二塁ランナーを頭に入って捕球の瞬間に目を離してしまった」
ただ、正に上手の手から水が漏れた事態に落ち込んでベンチに戻ってきた際、チームメイトから飛んだ言葉は…。
「上を向け!しゃあないわ!お前が下を向いたら、みんなも下を向くけん、お前は上を向いていけ!」
これだけ言われて発奮しなくては男ではない。「ここで絶対に返して恩返しをしたい」と、流し打ちのイメージで食らいついて打った打球はサードの上を越え、レフト線へポトリ。「たいしたチームになった」と指揮官も顔を緩めた一連の出来事。「厚さ」と共に「熱さ」も帯びた集団に勝利の凱歌が上がるのはいわば必然だったのかもしれない。
かくして、27年ぶり8度目の秋季四国大会ベスト4まで進んだ徳島池田。帰り際、指揮官はこう言った。
「もう1週間、野球を楽しみます」
その先にあるのは、もっと野球を楽しめる場所。そして全国の高校野球ファンが待ち望む聖地である。
(文=寺下友徳)