試合レポート

市立川越vs春日部共栄

2013.10.05

市立川越vs春日部共栄 | 高校野球ドットコム

上條(市立川越)

ベストピッチ

 33年ぶりの関東大会出場を目指す市立川越対優勝候補筆頭の春日部共栄との一戦。
試合は市立川越上條 将希、共栄・金子 大地と両エース同士の投げ合いとなる。

上條は、172cmと小柄ながら投げ下ろしから体を目一杯大きく使う力感溢れるフォームで、伸び、回転共に申し分ないストレートを中心に組み立てる。強打の共栄打線とも真っ向勝負を挑む勝ち気な力投派の投手だ。

一方の金子もややサイド気味の腕の位置からテンポ良く投げ込む。ストレートと変化球の制球、キレ、コンビネーションも良く相手に的を絞らせない。

まずは立ち上がり金子が市立川越打線から2三振を奪うなど三者凡退に抑えれば、上條もいつもの不安定な立ち上がりが嘘のようにこの日は序盤からフルスロットル。ボールが走り2三振を奪うなど共栄打線を三者凡退に抑える互角の内容であった。

2回表、市立川越は一死から5番・丹羽がレフト線へ2塁打を放ち最初のチャンスを迎える。だが、後続が倒れ得点を奪えない。

対する共栄もその裏、三浦がピッチャー強襲の打球を放つが、ショートの好バックアップもありヒットにはならず。だが、続く五月女がツーストライクから死球で出塁すると二死後二盗を決める。6番・杉本も四球を選び一、二塁とチャンスを広げる。続く金子もショートへの内野安打を放ち満塁とするが9番・清水が倒れ無得点に終わる。

市立川越は4回表、この回先頭の平田が初球の甘い変化球を見逃さずライト前ヒットで出塁するが、続く奈良が犠打を決められず三振に終わる。それでも4番・冨岡が死球でつなぎ一死一、二塁とチャンスを広げるが、続く丹羽の場面でベンチはフルカウントからエンドランを仕掛けるが結果は最悪の三振併殺に終わり一瞬にしてチャンスが潰える。

その後は両投手が踏ん張りゼロ行進が続く。三振も金子は6回で10三振、上條も7回で10三振に到達するなど互角の展開であった。両チーム共にそれではと足を絡ませ、小技を絡ませと必死の抵抗を見せるが、得点には至らない。特に共栄は7回に杉本が放ったレフトフライがこの日初めての外野への打球だったことを考えても、それまでいかに上條に押し込まれていたかがわかる。


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マウンドに集まる市立川越ナイン

 そして、お互い無得点のまま運命の最終回を迎える。

9回表、この回先頭の清水がセンター前ヒットで出塁すると、続く沢田(瑞)へのサインは当然送りバント。打球は金子の前にやや強い打球が転がり二塁へ送球すればアウトのタイミングであったが、金子は二塁へは投げず一塁へ送球する。このシーンを見ても金子も終盤になりやや気持ちが守りに入っていたのかも知れない。だが、2番・平田のピッチャーゴロに対し二塁走者・前村が飛び出してしまう。前村は挟まれアウト。これで二死一塁となりチャンスは潰えたかと思われた。

だが、続く奈良への4球目、金子の投球が奈良の手に当たる。奈良のスイング中にボールが当たったようにも見えたが、判定はデットボール。観客の中からも「スイングだろ!」という野次が飛ぶが、判定は覆らず二死一、二塁と塁が埋まった状態で4番・冨澤という市立川越にとって絶好のチャンスを迎える。冨澤は期待に応えフルカウントからのストレートを捕らえると打球はセンター前へ飛ぶ。ついに1点が入る。

このままでは終われない共栄も反撃開始。9回裏、この回先頭の三浦が、センター前ヒットで出塁する。ヒットらしいヒットはこれが初めてであっただけにこの走者は大事にしなければいけない。すかさず三浦に代走を出すと続く五月女がきっちりと送り一死二塁とする。6番・原田は四球を選び一、二塁とチャンスを広げるが、最後は上條が踏ん張る。7番・杉本、8番・金子から連続三振を奪い息の詰まるような投手戦が終了した。市立川越が33年ぶりの関東大会への扉をこじ開けたのだ。


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春日部共栄ナイン

共栄は、3回戦の大宮西戦以降、打線が下降の一途をたどり最後まで爆発することなく終わった。やや受けに回ってしまったか。頼みの4番・三浦はこの日こそセンター返しを意識し凡打も悪い内容ではなかったが、今大会は大きいスイングを繰り返し凡打の山を築いた。大会中の打率は1割前後、他の選手も大会が進むにつれフライアウトが多くなった。しかも、この日はこれまで好調を維持していた1番・小林、3番・守屋も封じられた。

もちろん、この日の上條の投球はおそらく今大会のベストピッチであろうが、元々速い球にめっぽう強い打線がこの日は最後まで捕らえられず上條に圧倒され、この日好投していた金子を見殺しにしてしまった。共栄は夏の投打の主力をほとんど残しており、現状では埼玉でトップの戦力であろう。関東でも上位の潜在能力を誇っていただけにこの負けは痛恨以外の何者でもないはずだ。この悔しさを長い冬でどう活かせるかが鍵となるであろう。

一方の市立川越だが、まさに上條に尽きるであろう。強打の共栄打線がこの日外野へ飛ばした打球は僅かに3。この数字を見てもいかに共栄打線を圧倒していたかがわかる。

彼は調子に波のある投手だが、勝てば関東という状況でベストピッチができるあたりに凄みを感じる。おそらく向かっていく気持ちが強いのであろう。彼はこれで浦和学院小島 和哉金子 大地と並び自分が埼玉で3本の指に入る好投手であることを改めて証明してみせた。次は関東で自分がどの位置にいるか現在地を確認して欲しい。もし、関東でも活躍できるようだと、いよいよ甲子園で自分の現在地を確認することができる。

(文=南 英博

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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